第42話「何様のつもりよ! お前が降りてこいっつーの!」

 まだ日が暮れるには早い時間帯なのに、空は暗雲が垂れ込めている。そんな中、新世界のアジトの最奥部にあるマッチョタワーだけが煌々こうこうと輝き、そのいずれの階にも武器を持ったマッチョたちがアンジュとマリカを待ち構えていた。


 ヴァルクを助け、ビリーを倒すためにはこのマッチョタワーを攻略して、最上階まで上らなければいけない。マリカは20階ほどあるマッチョタワーを見上げて、身震いした。


「新世界の王、ビリー。こいつはやることが悪どいわ」

「ええ」


「1階ずつ、大量のマッチョたちを相手にしながら、最上階まで来いですって。何様のつもりよ! お前が降りてこいっつーの!」


 こちらの声が届いていないのをいいことに、マリカが好き勝手言う。


「おそらく私とマリカを消耗させて、疲れさせた状態で戦おうというわけね。卑怯な奴だわ」


 アンジュはそう言うと、ふうと息を一つはいた。

「でも、マリカの言う通りね」

「?」



 アンジュはマッチョタワーに向けて、真っ直ぐに右手を伸ばした。そして、

「私たちがビルを上る必要はないわ。あいつをだけよ」

 と、ロケットパンチが勢いよく発射された。


 ドン!

 ドガン!

 ドガガガガ!


 ニューエイジでの戦いの後マリカが改良を加えたロケットパンチが、勢いよくマッチョタワーに向かって飛んで行き、それはマッチョたちに当たることはなく、ビルを支えているを次々に破壊していった。そのせいでコンクリートの破片がそこらに飛び散る。


 マッチョタワーでアンジュたちを待ち構えていたマッチョたちは、床に伏せ、被害を最小限に止めようと息を潜める。突然地上から何かが発射されたこと――あまりの速度にそれがロケットパンチだということに気づかないのだ――に驚いたが、それが全く自分たちに当たることなく、柱だけを壊していくことに苦笑していた。


「おいおいおい! あの女の攻撃……なにをぶっ放したのかわかんないけど、全然当たらねぇじゃねぇか!」

「かっかっか! 所詮はヒヨッコよ!」

「お前ら、起き上がっていいぞ、当たりゃしねぇ!」


 マッチョたちは余裕綽綽しゃくしゃくの表情で、自分たちを狙ったつもりが全て外れてしまっている――と思い込んでいる――アンジュの攻撃を眺めていた。


 やがて。


 ピシッ。

 ピシピシッ。


 上の階から、なにか物音が聞こえてきた。


「?」


 マッチョたちはようやく、何かがおかしいことに気づき始めた。


「おい……」

「これだけ攻撃されておきながら、誰一人当たらないっておかしくないか?」


 ……ゴゴゴ。

 ゴゴゴゴゴ――。


 上の階からの音は次第に大きくなり、やがて振動となり階下へと伝わってくる。


「まさか……あの女の狙いは……」

「ビルの破壊……やっ、やべぶらっ!」


 アンジュの放ったロケットパンチは、20階建てのビルを支える柱を全て破壊した。


「ぎゃああああああっ!」

 ズウウウウウウウウン。


 マッチョタワーは倒壊し、各階層に100人以上いたマッチョたちはそれに巻き込まれ、全員押しつぶされた。当然生き残ったものはいない。瓦礫とマッチョたちの死体が周囲に散らばり、唯一、柱を破壊されなかった最上階だけが一階に落ちてきたような形になった。とはいえ、20階もの高さから落下した衝撃で、最上階もぐしゃぐしゃに破壊されてしまった。


「あ」


 思わずアンジュが声を出した。彼女の頭の中では、ロケットパンチで最上階より下の階を全て吹き飛ばして、ビリーを引きずり出す作戦だったのだ。まさか最上階が落下によって破壊するとは想定外だった。


 ちょっと冷や汗をかきながら、アンジュは戻ってきたロケットパンチを右腕に接続する。


「ちょっとアンジュ! ノムラもいたのに! ノムラ、生きてるよね?」

 そんなことを言いながら、あたふたとマリカが右往左往する。


「大丈夫。ヴァルクはこのくらいでは死なないわ……多分。きっと、恐らく」

「あっ、ノムラ!」


 崩れた瓦礫から一本飛び出た柱に、括り付けられたヴァルクの姿が確認できた。全身血だらけではあるが、どうやら意識はあるようだった。大胸筋が上下しているのを見て、マリカはほっと胸を撫で下ろす。


「クソオオおおおぉっ!」


 続いて、大きな声を出して、瓦礫の中からビリーが姿を現した。同じく最上階にいた部下マッチョを盾にして自分の身を守っていたのだった。しかしそれでも無傷ではいられなかった。額から血を流し、服はボロボロに敗れ傷つき、大きく肩で息をしていた。


「はぁはぁ、許さんぞォ!」


 すでに息絶えている部下マッチョを投げ捨て、瓦礫を踏みながら、ヴァルクの元へ歩く。


「ヴァァァルク! あの女、右腕にロケットパンチを仕込んでやがった! 俺はとしか聞いてないぞ!」


 ビリーはふらふらになりながらも、ヴァルクに迫る。ヴァルクは身動きが取れないままだったがゆっくりと目を開け、口を開いた。


「……フッ、ざまあみろ。全て馬鹿正直に話すとでも思ったか」

「――っ!」


 ビリーが顔を真っ赤にし、右の拳を振り上げる。


「ノムラ!」

 マリカが叫ぶと同時に、ぐしゃっと肉のつぶれる音がして、ヴァルクの顔面が真っ赤に染まった。







▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 マッチョタワー、いちいち一階ずつ攻略していったら何話かかるかわかりません。しかもずっと同じパターンになってしまいますし。

 ええ、ええ。もともと一気にぶっ壊すつもりでした(^^)

 そしてなんとここでヴァルク退場……!?

 ちょっとここから数話、重く暗い雰囲気になってしまいますが……どうかご容赦ください。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、またお気軽に応援コメント等、お待ちしております!

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る