第36話「アンジェルズのみんな! 筋肉お化けが誕生するわ」

「ウガアアアアアアアア!」


 エイジは口を大きく開けて叫ぶ。と同時に、ボン! と体が大きくなる。身体中の筋肉という筋肉が以上に発達し、全ての血管が浮き出てきて体に模様が現れたようになった。もはや、ゴリマッチョではなく筋肉の怪物である。あの体の細いエイジと同一人物とは、誰が見ても思わないだろう。


 そんなエイジの変化を間近で見ていたマリカとアンジュ、そして椅子マッチョはただならぬ事態であることを察していた。そんな中、やるべきことはまず――。


「ヴァルク! グラウンドにいるみんなを建物の中に避難させてちょうだい!」


 マリカはグラウンドの隅にいたヴァルク野村にそう声をかける。彼も商売をしながらエイジやマリカの動向を気にしていたので、非常事態だということをなんとなく理解していた。


「おう! あんたも協力してくれるか?」

「もちろんです!」


 ヴァルクは椅子マッチョに声をかけて、グラウンドにいる普通の人間の姿に戻った多くの元マッチョたちを「さあみんな! 建物の中に入るんだ、落ち着いて!」「向こうの扉も開いているぞ!」といった具合で、手際良く誘導していった。


 事情がよく飲み込めない者たちへはマリカがマイクで呼びかける。

「アンジェルズのみんな! 筋肉お化けが誕生するわ、急いで避難して!」


 普通の人間の姿に戻っても、マッチョの像から生まれた天使様のことを崇拝していたアンジェルズの面々は、そのアナウンスで急いで避難を開始する。そうして、グラウンドにいる全員が建物の中に避難を終えたころだった。



「ウオオオオオ! これが、俺が望んだマッチョの姿だぁ!」



 彼の天才的な頭脳で開発したG-M2NRゴリマッチョにな〜るは確かに本物だった。エイジは自分の体の筋肉を100%中の100%まで発達させ、もはや異形の生物になってしまった。


「やっば……戸愚呂もびっくりじゃん」


 マリカがぽつりとそう呟いた。アンジュにはそれがなんのことなのか十分に理解できていたが、だった。


 エイジは筋肉まみれになった自分の体を恍惚の表情で眺めながら、同じく筋肉でパンパンに腫れ上がった指先でなぞる。先ほどまでガリガリだった自分の体がここまで変わったことに満足したようだった。


 一通りの筋肉を触り、自分の体の変化を確かめると、エイジはアンジュとマリカの方を向いた。


「ふう、残念ながら天才科学者のくまのぬいぐるみと隣にいる少女よ……君たちにはここで消えてもらう。ニューエイジをめちゃくちゃにした罰を受けてもらうぞ」


 軽くエイジが地面を踏み込む。するとズゥン! という音とともに、硬いグラウンドに彼の足が数センチほどめり込んだ。と同時に周囲に砂埃が舞う。


「ひえっ! あの筋肉お化け、とんでもないわね!」

 そう言って、マリカがアンジュの肩にしがみつく。


「マリカ、しっかりつかまっ……」


 これまでエイジの方を見据えていたアンジュが、ふと視線をマリカに移したその瞬間だった。



 エイジが軽くその場で正拳突きを一回。



「きゃっ!」


 まるで突風に遭ったかのようだった。アンジュは地面に何度か叩きつけられながら、立っていた場所から建物の入り口付近まで吹き飛ばされてしまった。もちろん、マリカは離さないようにしっかりと握ったまま。


「な……何をされたの?」


 アンジュがふらふらと立ち上がり、服や体についた砂をパンパンと払う。マリカも自分の体をはたきながら、「あの筋肉お化け、その場でパンチしたわ……それだけでこの衝撃波だなんて」とエイジのパワーに驚いた。


「怪我してない? アンジュ」

「ええ」


 そう答えるアンジュの体はすりむいて傷ができていたが、血が流れるほどではなかった。「わお、アンジュったら可愛いくせに頑丈じゃない! うまく受け身を取ったのね!」とマリカは感心した。


 エイジはその場から動かず、自分のした行動に驚くとともに感動していた。


 ――軽く拳を突き出すだけで、小娘が吹っ飛んでいくほどの衝撃波が出せた……すごい、すごいぞG-M2NR! 私の研究は間違っていなかったのだ!


「はは……ははははは!」


 エイジは嬉しさのあまり、あちこちに向けてシャドーボクシングをする要領でパンチを何発も放った。その度に衝撃波が巻き起こり、木々が激しく揺れ、建物の窓ガラスにヒビが入った。


「ちょっと許せないわ、あの筋肉お化け」


 アンジュが低い声でそう言うと、エイジに向かって右手を突き出した。そして、特に言葉も発することなく、ロケットパンチをぶっ放した。


 ギュイイイイイン!


 アンジュの右肘から先――ロケットパンチは勢いよくエイジに向かって飛んでいく。その轟音にエイジも自分に向かってロケットが飛んできていることに気づく。それがアンジュの右腕だということは思いもしていなかったが。


「うっ、うおおおおおお!」


 エイジは両手を前に出してロケットを正面から受け止めようとした。そこでマリカとアンジュは勝ちを確信した。THREE BIRDSの研究所内でボスオネェマッチョはロケットパンチの前に歯が立たなかった。たとえ銃弾が効かないマッチョといえども、だ。だから今回の筋肉お化けに対しても「どかーん! はい、おしまい!」だと思っていたのだ。


 バチイィッ!


 なんとエイジはその指先まで発達した筋肉を使って、アンジュのロケットパンチを受け止めた。


「ぐっ!」


 ロケットパンチの勢いに、エイジがぐっと地面を踏み締める。それだけで彼の周囲がボコッ! と数センチ沈下する。ミシミシッと音を立ててエイジの掌、腕橈骨筋わんとうこつきん(手と肘の間の筋肉)、上腕筋じょうわんきん(肘から肩にかけての腕の筋肉全般)がピクピクと震え、血管も今まで以上に浮き上がる。

 エイジはその筋肉の力、全てを込めてアンジュのロケットパンチを止めようとしていたのだった。






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 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 いよいよ始まりました、違法筋肉集団「ニューエイジ」の王、エイジとのバトルです。エイジはG-M2NRを飲むことによって筋肉お化けへと進化しました。

 その力はすさまじく、軽々とアンジュを吹き飛ばし、挙げ句の果てにはロケットパンチを受け止めるほどです。

 さあさあ、物語の中で初めて強敵らしき人物の登場に、アンジュとマリカはどう戦うのでしょうか?

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、またお気軽に応援コメントをいただけると嬉しいです。一言でも大歓迎でございます、お待ちしております!

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