第31話「だぁぁれが眷属じゃい!」
『たとえ世界が滅びても筋肉を信じよ
筋肉はやがて神を形取り、人々の前に姿を表す
そのとき神はその身から新たな天使を産み落とし
世界は再び動き出すだろう』
――大筋聖シュワルツ黙示録 第4節「ツェネガー」より
違法筋肉集団「ニューエイジ」のアジト、玄関前に置かれた、マチョダという人物をモチーフにして作られたというマッチョの像。そこに大勢のマッチョが群がり、勢い余って像が倒れてしまう。運悪く像は割れてしまい、中に潜んでいたアンジュの存在がバレてしまったのだった。
「おぉ?」
マッチョたちが不思議そうに像の中を覗き込む。後方のマッチョたちも「なんだなんだ?」とざわつき始める。ちなみに、少し離れた場所で商売を再開しようとしていたヴァルク野村にはこの様子は見えていなかった。あまりにも大量のマッチョが玄関付近に押し寄せてしまったせいで、マチョダの像すら見えていない状況だった。「みんなあの銅像に夢中で商売上がったりだなぁ」そんなことを思っているくらいだった。
――ヤバイわ! 一刻も早くヴァルクのように校舎を通って逃げ出さないと!
アンジュはそう思ってマチョダの像から抜け出そうと像から上半身を出すが、足が引っかかってもたついてしまう。このままではマッチョたちに捕まってしまう! 急がないと! と彼女が慌てれば慌てるほど、ちょっとしたくぼみにつまさきが引っかかってしまう。
しかし、マッチョたちはそんなアンジュを捕まえることはなく、逆に警戒するように少し距離をとって静観した。まさか像の中に何かが入っていたとは想像していなかったのだろう。先ほどまでわいわい騒いでいたマッチョたちが、だんだんと静かになる。その雰囲気を察して、後方にいるマッチョたちも言葉を発しなくなり、玄関前には静寂が訪れた。
――なんか静かになったんだけど……。どういうこと?
倒れたマチョダ像の中から上半身を出しているアンジュは、嫌な雰囲気を感じつつも、そのままの格好ではいられないと、慎重にそこから抜け出した。
「マッチョじゃない奴がここに紛れ込んでいるぞ!」そんな言葉が飛んでくることを覚悟していたアンジュだったが、マッチョたちはいまだ言葉を発することなく、ただ静かにアンジュを見つめていた。
――なんだか、私を見る目が……違う。侵入者に対するそれではない……。
アンジュは倒れた銅像の横に立ち上がる。そこで改めて感じた、周囲にいるマッチョ、マッチョ、またマッチョのマッチョの群れ。いつもならその熱苦しいまでの筋肉が迫ってくることに嫌悪感を抱くのだが、今回は違った。筋肉が迫ってこないのだ。むしろ一歩下がっているようにも思えた。
「……だ」一人のマッチョが呟いた。
「え?」思わずアンジュが聞き返す。
「マッチョ神から天使様がお生まれになったァ!」
ウオオオオオオオオオオオオオオ!
オオオオオオオオオオオオオオッ!
オオオオオオオオオオオオオオォ!
ウオオオオオオオオオオオオオッ!
マッチョの像が割れ、中から姿を現したアンジュは神の使い。つまり天使様。ニューエイジのマッチョたちはアンジュの登場に、地響きが起きんばかりの大歓声をあげた。
「天使様ァ!」
「天使様の降臨じゃァ!」
ウオオオオオオオオオオオオオオ!
オオオオオオオオオオオオオオッ!
オオオオオオオオオオオオオオォ!
ウオオオオオオオオオオオオオッ!
天使様という言葉に、さらにマッチョたちのボルテージが上昇する。アンジュは何が起こっているのかさっぱりわからずに、言葉を発することもなく、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
――天使様の目の前で立っているなんて失礼じゃないか?
一人のマッチョがそう思い、正座をして深く頭を下げた。それを見た隣のマッチョも同様に正座をする。しばらくすると、玄関に集まったマッチョたちは、一人、また一人と正座をして、「天使様〜」と礼拝を始めたのだった。
――なに? 何? ナニ? 何が起きているというの?
困惑したのはアンジュだった。姿がバレたことでアジトの外に
アンジュはどうしていいかわからずに、その場に立ち尽くすしかなかった。
すると、校舎の奥から騒ぎを聞きつけたマリカがトテテテテと走ってきた。そして壊れた銅像の横で呆然と立ち尽くしているアンジュと、その向こうにいる大勢の礼拝マッチョたちを見て、瞬時に彼女なりに何が起きたのかを考えてみた。
――ははーん、これはアンジュが銅像に入っているのがバレたようね。そしてロケットパンチの圧倒的な力を見せつけて、マッチョたちを平伏させたってわけか!
「よくやったわね、アンジュ!」
そして勢いよくジャンプして、アンジュの右肩にちょこんと乗っかった。どれ、どのぐらいの数のマッチョをやっつけたのかしら? と遠くの方まで見てみる。
――あれ、誰もやられてないじゃない。っていうか、これみんなアンジュを拝んでるの? え、泣いてる? なんで?
「……どういうこと?」
マリカも状況がうまく飲み込めずに、アンジュの右肩の上できょとんとしてしまった。といってもマリカはくまのぬいぐるみ。表情を変えることはなかった。そして当然だが、アンジュも返事に困ってしまって、何も言えなかった。
マリカの小さな声に反応して、ふと顔を上げた一人のマッチョが、アンジュの方の上に乗っているマリカに気づいた。
「おお! 天使様の肩に
ウオオオオオオオオオオオオオオ!
オオオオオオオオオオオオオオッ!
オオオオオオオオオオオオオオォ!
ウオオオオオオオオオオオオオッ!
天使様だけではなく、その眷属まで現れたということで、礼拝マッチョたちはさらなる盛り上がりを見せた。
バンザーイ、バンザーイ、天使様バンザーイ!
マッチョ、バンザーイ!
眷属、バンザーイ!
今度はマッチョたちが立ち上がり、嬉しさのあまりにその太ましい両腕を空へ突き上げ、バンザイをし始めた。
建物の玄関前に、ニューエイジのマッチョたちがほぼ全員集まったのではないか、というくらい溢れかえり、大騒動となった。
そんな中、マッチョたちの騒動を目の当たりにしながら、マリカはプルプル怒りに震えていた。そして、叫んだ。
「だぁぁれが眷属じゃい!」
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こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。
なんとマチョダ像の中から現れたというだけで、アンジュは「神の使い=天使様」と勘違いされるようになってしまいました。普通ならそんな思考になるわけないんですが、
なんだか、結局マッチョばっかり活躍しているような気がして(正直、僕自身もマッチョを描いている時が一番生き生きしている気がしますが……)この先、いつものマッチョ・ノベルになってしまわないか心配です。
少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。
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