第24話「だめだよリコ! ここは爆発するんだよ!」

 ボスオネェマッチョは左腕からしたたり落ちる血を抑えながら、THREE BIRDSの研究所を奥へ奥へと進んでいく。床に落ちていく血が道標になってしまっているのはわかっている。

 しばらくすると、あの赤い髪の女が追ってくるに違いない。それまでにデータを奪い、「王」を見つけて仕留めなくては。それがエイジ様との約束――ボスオネェマッチョははぁはぁと息を荒げながらも、研究所の最奥部にやってきた。

 先ほどアンジュがロケットパンチでぶっ壊した扉の残骸が残っていたが、他とは明らかに違う大きさの扉に、ここに「王」がいるに違いないと判断した。


「いたいたぁ! あんたがTHREE BIRDSの王ね!」


 薄暗く、コンピューターとブラウン管しかない殺風景な部屋で一人ただずんでいるサジーに向かって、ボスオネェマッチョが言った。


 サジーは特に驚いた様子も見せずに、ゆっくりと振り返る。そして、

「ああ、いかにも。私がTHREE BIRDSの王、ジロウだ」

 と嘘をついた。ブラウン管は電源が切れているのか動いていない。コンピューターも音を出さずに、休止状態に入っているようだった。


 ボスオネェマッチョはサジーの姿を上から下まで舐め回すように観察すると、ニヤッと笑った。


「あなた、嘘をつくのが下手ねぇ。で、王はどこにいるの?」

「……なぜわかった?」

「だってぇ、あなたどうみても王のオーラがないもの。ただの研究員ってカンジ。王ならもっと堂々としているわ」


「そうか……ところで、ニューエイジはM2NRを完成させたのか?」

「ふふっ」


 ボスオネェマッチョは笑いながらサジーに近づくと、彼の腹部に思いっきりパンチを浴びせた。ぐはっと血を吐きながら、サジーは背後にあるコンピューターに激しく背中をぶつけた。その衝撃でバチバチッとコンピューターに火花が走る。


「王でもないのに一丁前に質問するんじゃないわよ! 大人しく科学者の情報を渡しなさい!」

「ふふ……その様子だとまだ……科学者は……見つけていないようだな」


 ふらふらしながらサジーは立ち上がり、コンピューターの近くにある赤いボタンを押した。




「研究所爆破まで残り1分」




 突然、そんな警報が部屋に鳴り響き、赤いランプが点滅し始めた。


「何をした!」

「ハハハハハ! ニューエイジどもに科学者の情報を渡してなるものか! それなら研究所ごと爆破してデータなど残しはせぬわ!」


 サジーは半ばヤケになっていた。


 ニューエイジの違法マッチョたちがエレベーターを使って研究所内に侵入したときに、THREE BIRDSに勝ち目がないことを感じていた。敵にすべてのデータを奪われてしまうくらいなら、いっそのことここで全てを破壊してしまったほうがいい。そう思っていたのだった。


 コンピューターの中で意識のみで存在し続けている「王」ジロウは、破壊に反対だった。コンピューターの記憶媒体――自分自身だけでもニューエイジに持っていってもらえれば、いつか科学者が自分を人間に戻してくれるかもしれないと思っていたからだ。


 しかし、サジーはそれを受け入れず、研究所を破壊する道を選んだのだった。


「ちっ、全くこれだから研究者風情は……!」

「ハハハハハ! ぐずぐずしていると研究所が爆破するぞ!」


 サジーの言葉に苛立ちを感じながら、ボスオネェマッチョは彼に背を向けてエレベーターまで急いだ。

 


 ◇



「やばいやばいやばい! アンジュ! 急いで戻るのよ!」


 アンジュはマリカを抱いて、彼女の指示通りに通路を全速力で走っていた。ボスオネェマッチョのものと思われる血痕を辿っている途中、突然警報が鳴り響いたのだ。



「研究所爆破まで残り1分」



 二人は最初にやってきたときと同じエレベーターのもとへなんとかたどり着いた。そこは、先ほどボスオネェマッチョと違法マッチョたちが、アンジュにやられた場所。当たり前だが、違法マッチョたちとケンジの亡骸がそのまま残っている。しかし、ケンジの近くにいたはずのリコの姿がない。


「戻ってくると思ってたわ、二人とも」


 彼女はエレベーターの操作パネルの前に立っていた。涙が枯れるまで泣いて、目が真っ赤に腫れ上がっていたが、晴れやかな表情をしていた。


「リコ……」

 マリカがそう呟く。


 リコは何も答えずに、エレベーターに向かって掌をかざした。指紋と虹彩認証が確認され、エレベーターの扉が開く。「さぁ、早く」と、アンジュとマリカを急かしてエレベーターの中に入れると、再び手をかざして扉を閉めようとする。


「リコも一緒に脱出よ! あと少しで爆発しちゃうわ!」


 マリカの言葉にううん、とリコはかぶりを振った。


「私はここに残るわ。ケンジを一人置いてはいけないもの」

「だめだよリコ! ここは爆発するんだよ!」


「……一つだけお願いがあるの。ケンジの仇を――ニューエイジをぶっ潰して。あなたのロケットパンチならそれができるわ」


 リコはそう言ってアンジュを見つめた。アンジュは無言のまま、うなづいた。


「リコ! いやだよ、リコ!」


 マリカがアンジュの腕に抱かれながら、扉の向こうに向かって手を伸ばす。リコはマリカに向かって笑顔を見せた。


「くまちゃん、短い間だけどアイスクリームを一緒に食べられてよかったわ。それじゃ、バイバイ。元気でね」



「研究所爆破まで残り30秒」



「――ッ!」

 マリカが声にならない声で叫ぶが、エレベーターの扉は閉まる。そして地上へと向かって昇っていった。


「さて――」


 リコはエレベーターが無事地上へ向かったのを確認すると、何もない通路の奥に向かってショットガンを構えた。



絶対に地上へは行かせない。ここで一緒に死ぬのよ」



 通路の奥からゼェゼェ言いながら、ボスオネェマッチョが走ってきた。少しでも早く走ろうと、途中で重い鉄仮面を投げ捨てたことが命取りだった。まさかこの先でリコがショットガンを構えているとも知らず。



 タァァァン!



 右腕は切断された左腕を押さえているので、唯一の弱点である頭を防ぐことはできなかった。弾丸は眉間と両目を貫き、ボスオネェマッチョはそのまま通路に大の字に倒れた。



「爆発まで残り10秒、9……8……」



 リコはショットガンを投げ捨てると、ケンジの亡骸を抱きかかえ、彼の顔を見つめた。そして愛おしい表情を浮かべて、彼をギュッと抱きしめた。



「2……1……0」



 THREE BIRDSの地下研究所は爆発し、そこにあった全てが失われた。



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 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 THREE BIRDS編、これにて終了です。まさかのアジトまで爆発して全員死亡エンドとは、誰が想像したでしょうか。

 ケンジとリコ……いいキャラだったのに。

 今回、失敗なのか成功なのかわかりませんが、ボスオネェマッチョの名前をださなかったことで、主語が毎回「ボスオネェマッチョは、」となってしまいました。ここ数話で何回「ボスオネェマッチョ」とキーボードを叩いたことか。

 さてさて、次はどんなマッチョが出てくるのでしょうか、お楽しみに。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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