第22話「こんな違法薬物で作った筋肉なんて見たくないし!」

 こちらは地下にあるTHREE BIRDS研究所と地上を繋ぐエレベーターの前。


 違法マッチョとの戦いを終えて地面に座り込んでいるケンジとリコ、そして早くアイスクリームを食べたくて落ち着きのないマリカが、無言のままエレベーターの扉の先を見つめていた。


 扉が開き、そこから出てきたのは鉄仮面を被ったマッチョたち総勢20名ほど。指紋認証に虹彩こうさい認証をクリアしなければ作動することはないエレベーターに、どうして違法マッチョたちが乗ることができたのか。ケンジがゆっくりと立ち上がり、違法マッチョたちに声をかけた。


「おい! 貴様ら……どうやってエレベーターを動かした?」


 ケンジの言葉に反応して、鉄仮面を被ったマッチョたちが一斉にこちらの方を向く。


「ウエエエエイ! まだ生きている奴がいたぞ! ブチのめせ、ブチのめせぇ!」

「待ちなさい、お馬鹿さんたちッ! まったく……これだからM2NRを過剰摂取したやつらは……!」


 頭の悪そうなセリフを吐いて体を震わせるマッチョたちの背後から、やけにごつい鉄仮面を被った一人のマッチョが前に出てきた。体つきも他のマッチョたちと比べてひと回り大きく、さらにバラの模様が入ったピンク色のタンクトップにピンク色のスパッツを履いていた。


 ――他のマッチョと筋肉も服装も鉄仮面も違う! こいつが……このマッチョたちのリーダーに違いない!


 ケンジはふらふらしながらも、持っていたショットガンをリーダーと思わしきマッチョに向けた。通用しないと言うのはわかっていたが、それでも銃を向けずにはいられなかった。


 ――他のマッチョたちと比べて、明らかにこいつはやべぇ! オネェマッチョじゃん!

 マリカとリコは別の意味で戦慄を覚えた。


「どうやってエレベーターを動かしたか、聞きたいのよね?」


 ボスオネェマッチョがにやりと笑い、パチン! と指を鳴らす。すると、後方にいたマッチョが一人の男の首を掴んで前に出てきた。掴んでいたのは、地上で戦っていたTHREE BIRDSの戦闘員のうちの一人だった。


「カズヤ!」


 ケンジが思わずそう叫ぶ。しかし、彼は返事をすることなく、ヒューと細い息を吐くのが精一杯だった。首をぎゅっと握られ、手足はだらんと垂れ下がっていた。


「指紋認証と虹彩認証……確かにセキュリティとしては万全だけど……。こうやって戦闘員を捕まえてしまえば、簡単に突破できるのよネェ!」


「くそ……お前ら、俺の仲間をこんな……こんな……許さねぇ!」


 ケンジは怒りに満ちた表情でボスオネェマッチョを睨みつけると、大きく拳を振り上げて向かっていった。


「ケンジ、だめ!」


 リコがそう叫んだが、遅かった。ケンジの拳はボスオネェマッチョの大胸筋にクリーンヒットした。しかし。

「ぐああああっ!」

 ダメージを負ったのはケンジの方だった。彼の右手はあらぬ方向へ、まるで関節が一つ増えたかのように折れ曲がっていた。


「あらぁ、近くで見るといいオトコねぇ!」


 ボスオネェマッチョはそう言って、苦しんでいるケンジを両手で抱きしめる。そして、ちょうどさば折りをするようにぐぐっとケンジの体を締め付けた。


「ぐっ!」

「ああッ、叫び声も素敵! もっと聞かせてェ!」


 みしみしっと音を立ててケンジの骨がきしむ。大胸筋と太い上腕二頭筋に挟まれて、ケンジはなすすべがなかった。


「やめてぇっ!」リコが涙を流しながら、ふらふらとボスオネェマッチョに向かって走り出す。すると、取り巻きの違法マッチョたちが立ちはだかった。


「マッチョ・ウォール!」


 違法マッチョたちは肩を組み、まるで壁のようになってリコの行く手を遮る。彼女が右から抜けようとするとマッチョウォールが右へと動き、左を向くとマッチョウォールも左を向く。


「やめて、通して! ケンジを助けるんだから! もう、どいてよ!」


 リコがどうしようもなくその場に立ち止まったとき「どりゃああああ!」っと後ろからマリカが走ってきて、マッチョウォールにドロップキックをお見舞いした。不意を突かれたマッチョウォールは後方に倒れる。その隙にマリカとリコがマッチョウォールをすり抜けて、ケンジとボスオネェマッチョの元へたどり着いた。


「……うそ」


 リコは大きく目を開けて涙を流し、力が抜けてへなへなとその場に座り込んだ。マリカも何も言えずに、ただ真っ直ぐにケンジを見つめていた。


 ケンジは、ボスオネェマッチョに抱きしめられて、いた。リコとマリカが見ていることに気づいたボスオネェマッチョはニヤリと笑うと、ケンジを抱きしめていた手をぱっと話した。ケンジは力なく床に落ち、そのまま動くことはなかった。


「ケンジ!」


 声にならない声をあげて、リコが倒れたケンジに近づく。ケンジは全身の骨が砕けていて、息をしていなかった。まだ生きている望みがあると思いたかったが、首の骨があらぬ方向へ折れ曲がっていたのが決定的だった。


「いやああああっ!」リコは泣き崩れてケンジに覆いかぶさった。マリカも涙を流すことはできなかったが、心の中で泣いていた。わずかな時間しか一緒に行動することはなかったが、アイスクリームを一緒に食べた間柄として、少しながら親近感を抱いていたのだ。


「ああっ! 悲哀に満ちた感動の別れ! いいわぁ、いいわぁ! ぞくぞくするわぁ!」


 悲しみにくれるリコとマリカを眺めながら、ボスオネェマッチョは自分自身の体を抱きしめるとブルブルッと体を震わせて興奮していた。


「でも、ごめんなさいね。THREE BIRDSはここで壊滅するの。悪いけどあなたたちも一緒に死んでもらうわ……イキなさい、お前たちッ!」

 ボスオネェマッチョの号令で、倒れていた違法マッチョたちが再び立ち上がり、壁を作る。


「マッチョ・ウォール、アゲイン!」


 今度はリコとマリカを取り囲むようにして、違法マッチョたちが肩を組んだ。ここからどういう攻撃をしてくるのか、マリカには見当がつかなかったが、むさ苦しい筋肉が迫ってくることがたまらなく嫌だった。


「リコ、やばいよ! 起き上がってよ!」マリカがそう声をかけるが、リコはケンジに覆いかぶさったまま動こうとしない。


 マッチョ・ウォールは隙間なくびっちりとした筋肉の壁となった。マリカがどこを見ても、筋肉、筋肉、筋肉。


 ――こんな違法薬物で作った筋肉なんて見たくないし! 汗臭いし! 


 気がつくと、マリカは大きな声で助けを求めていた。



「アンジュ! 助けて!」



 その瞬間、どこからともなくゴゴゴゴゴと唸りを上げてロケットパンチが飛んできた。




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 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 今回はケンジが命を落とすという悲しい話になるはずだったのに、BOMボスオネェマッチョMWマッチョ・ウォール、そしてMWAマッチョ・ウォール、アゲインのせいでふざけている感満載になってしまったことを深く反省しています。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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