第21話「これまで以上に進化を遂げたんだから、もっと喜びなさいよ!」
マリカたちがマッチョと戦っている頃。
アンジュは一人、マリカを探して研究所内を走っていた。
侵入者あり、という放送が聞こえたとき、当然のことながらアンジュが真っ先に心配したのはマリカのことだった。彼女の身に何かあったらいけない。一刻も早くマリカを助け出さなくては! と、目に入る扉を片っ端から開けていく。
普段なら指紋認証をしなければ開くことのない研究所内の扉だが、現在「緊急避難警報」という状況から全ての扉のロックが解除された状態だった。
しかし開けても開けても、そこにマリカはいなかった。いたのは「全員直ちに避難」の言葉に戸惑いながらも部屋に残っている研究員たちばかり。すぐに逃げれば良いものの、研究の成果をバックアップだ、これは持っていくだの、研究の成果を無駄にしたくない気持ちの方が強いようだった。アンジュはそんな研究員のことは目にも留めず、ただマリカを探し続けた。
――マリカ……どこにいるの……?
アンジュの顔に焦りの色が見え始めたとき、いつの間にか、研究所の最奥部に来ていることに気がついた。これまでと扉の大きさが違う。そして、緊急時だというのにこの扉だけはロックがかかっている。
――マリカはここにいるに違いない。
アンジュは扉に向かって、ケンジがしていたように右手を広げてかざしてみる。すると突然、赤い一本の横線が浮き上がり、アンジュの掌をスキャンした。
「認証エラー」
扉にある小さな液晶画面にそう表示されると、赤い横線は点滅して消えた。ま、そうだとはわかっていたけどね。アンジュはそう思って、今度は右手をグーにして扉の前に突き出した。
ドゴオオオオン!
アンジュのロケットパンチが扉を簡単に破壊し、人ひとりが簡単に通り抜けられるほどの穴を空けた。バチバチッと扉の電子回路が火花を上げ、黒い煙を吹く。そして、何事もなかったかのように無傷できれいなままのロケットパンチが、アンジュの右腕に戻ってきた。「ガチャリ」と、切断面が全くわからないほどきれいに接続され、アンジュは手を握ったり開いたりを繰り返しながら、何の異常もないことを確認する。
「これまで以上に進化を遂げたんだから、もっと喜びなさいよ!」アンジュは、そんなマリカの言葉をふと思い出した。
――うん、マリカの言った通り、これまでよりも強くなっている。待っててね、マリカ。今助けにいくからね。
アンジュは壊れた扉から中へ入っていった。
◇
アンジュが辿り着いた部屋の中は薄暗く、誰もいなかった。そこにはただ、大きなコンピューターと小さなブラウン管のモニターがあるだけだった。
「なに……ここは?」
ブウウウウン……と静かにコンピューターが作動している音は聞こえるが、それ以外の物は何もない。緊急避難警報の状況下でもロックが解除されない扉の中の部屋だから、よほど重要な場所であることは間違いないはずなのだが。
しかしこの部屋にもマリカはいない。「マリカ……」アンジュはすぐに引き返そうとした。
「ジロウ様!」
突然そんな叫び声にも似た声と共に、白衣を着た白髪頭の老人が駆けてきた。そしてコンピューターとブラウン管の前に立っているアンジュの姿を確認すると「お前! ジロウ様に何をした!」と掴みかからん勢いで迫ってきた。
いつもなら、自分に危害を加えようとする相手にはロケットパンチで容赦無く応戦するアンジュだが、今回ばかりは違った。サジーの言葉にひっかかるものがあったのだ。
――ジロウ様に何をした!
この部屋には誰もないはずなのに、サジーは何を言っているの? アンジュは迫ってくるサジーと距離を取りながら尋ねた。
「ジロウ様? 誰にも姿を見せない『王』がここにいるの?」
「とぼけても無駄だ! ジロウ様には指一本触れさせない!」
何を言っているか理解できないアンジュだったが、そのとき、ブラウン管のモニターにスイッチが入った。そしてそこに一人の男性の顔が浮かび上がった。
「サジーよ……そこの少女は何も知らないし何もしていない。……私も大丈夫だ」
「ジロウ様! ご無事でしたか!」
――は?
アンジュは自分の目を疑った。ブラウン管に映し出された映像がサジーと会話を始めたのだ。――もしかしてTHREE BIRDSの王とは……!
「アンジュといったか。私がTHREE BIRDSの王、ジロウだ」
ブラウン管の中の男がアンジュに話しかけてきた。
「
「……」
意識をコンピューターに保存する……確か研究所内でも実験していた内容だったはずだ。それがもう実用化されていたなんて……。半ば信じられない思いで、彼女はブラウン管に映るジロウを見つめていた。と同時に、ここの王もまた、自分が探している相手ではなかったことがわかった。
「ただ、残念だがコンピューターに私の意識を保存することはできても、それを他の媒体に移行することができないんだ。我々はその研究のために科学者を探している」
サジーがジロウの言葉に付け加えて言った。
「君の持っているぬいぐるみ……マリカはまさに我々の研究を体現しているものなんだ。どうやって人間の意識をぬいぐるみに移し替えたのか……我々はその技術を手に入れたいんだよ!」
アンジュはそう言って鼻息を荒くしているサジーと、ブラウン管に移る王であるジロウ、そして背後にある巨大なコンピューター――おそらくこのコンピューターにジロウの意識を保存しているのだろう――を見つめて、一つ息を吐いてから言った。
「私の目的はマリカを連れてここから出ること。あなたがどうなろうと、そんなの私には関係のないことよ」
「なっ……お前ジロウ様に向かってなんて口を!」
アンジュの心ない言葉にサジーが
だから、アンジュのことをただくまのぬいぐるみを連れている少女だと思ったのだろう。白髪の老人がアンジュに向かって拳を振り上げる。アンジュはそれを黙って見つめると、最小限の動きで交わし、右足をちょんと出した。サジーはアンジュの足につまづくような形になり、そのまま床に頭から倒れてしまった。
「……ところで、マリカはどこにいるの? 一緒にいたはずよね?」
「……知らない。緊急警報が出て……気づいたらいなくなっていた」
床に伏せたまま、サジーが答えた。
「私が知っている。私はこの研究所のあらゆるものと繋がっているからな……その代わり、あのくま」画面の中のジロウが全て言い終える前に、アンジュがブラウン管に向かって右腕を伸ばす。
「今すぐ教えなさい。でないとこの部屋ごとぶっ飛ばすわ」
「……。マリカは今、入り口近くでニューエイジの侵入者と戦闘中だ。ケンジとリコも一緒にいるが、二人はかなりのダメージを負っていて戦えそうにない」
「……わかったわ、ありがとう」
アンジュは床に横たわったサジーと、ブラウン管に映っているジロウの姿を
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こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。
アンジュはポンコツクールなキャラクターなので、マリカを探しているうちにTHREE BIRDSの王の部屋へと入ってしまいました。ご想像の通り、王は復讐の対象ではありませんでした。
一方で違法マッチョ対マリカ・ケンジ・リコの第2ラウンドが始まりそうです。ま、話の流れからご理解いただけると思いますが、戦闘中にアンジュ合流です。
少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。
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