第20話「大丈夫。あたしがあの鉄仮面をぶっ壊すから!」

「さあ二人とも! ちゃちゃっとあのマッチョをぶっ倒してアイスクリームを食べるのよ!」

「ああ、そうだな」

「くまちゃんに言われたら、がんばれちゃう!」


 ケンジとリコも先ほどのダメージが残っていながらもなんとか立ち上がり、ショットガンを構えた。


「ふふふふふ……鉄砲は俺には効かないんだなぁ!」


 瓦礫の下から鉄仮面を被ったマッチョがゆっくりと起き上がった。そしてコキコキッと首を左右に鳴らして、ムキムキッと自分の筋肉を膨張させた。もちろんそれはトレーニングで得られたものではない。筋肉増強材M2NRで作られた筋肉は血管が浮き出て奇妙なまでにパンプアップしていて、もはや人間ではない何かとも言えそうだった。


「たしかに……あいつにはショットガンすら通用しねぇ」


 ボソッとケンジが呟く。それに対して、マリカがまっすぐマッチョを見据えたまま口を開いた。


「大丈夫。あたしがあの鉄仮面をぶっ壊すから! そのあとにあいつの顔面にショットガンをお見舞いしてちょうだいな!」


 トテテテテとマリカがマッチョに向かって走り出す。「あっ、マリカちゃん!」リコが心配そうに声をかけるが、それをケンジが制する。


「心配ねぇよ。あのくまちゃん、さっき一撃であのマッチョを吹き飛ばしたんだぜ。俺たちは俺たちの仕事をするだけだ」

「……うん」

 ケンジとリコはショットガンの狙いをマッチョの顔面に定めた。


「なんだぁ、お前は!」


 自分に向かってくるくまのぬいぐるみにマッチョは驚きつつも右腕をぐっと後方に引いてカウンターの構えをとる。が、マリカの速度が想像以上に速かった。


「どっせええぇい!」


 再びマリカのドロップキックがマッチョの顔面にクリーンヒットする。しかし流石に今度ばかりはマッチョも吹き飛ばされずに、腰を落としてぐっと耐えた。そして、キックを終えてまだ宙にいるマリカを両手で捕まえようとする。


 それよりも速く。


 マリカは空中で体をぐっとねじり、マッチョの顔面に回し蹴りを放った。ドロップキックから、そのまま回し蹴り。人間離れした技ができるのは、もちろんぬいぐるみだからである。さらに回し蹴りの勢いを利用して再びの回し蹴り。合計三発のキックを浴びたマッチョは鉄仮面越しとはいえ、脳を揺らされてふらふらとよろけた。


「なんで……くまのぬいぐるみが……こんなに……強いん……だよ」


 よろめきながらマッチョがこんな言葉を発すると、鉄仮面に大きな亀裂が入り二つに割れた。ガランガラン……と大きな音を立て、マッチョの鉄仮面が床に落ちる。


「ひっ!」


 鉄仮面が取れたマッチョの素顔を見て、リコが小さく悲鳴を上げた。ケンジとマリカも同様にマッチョの素顔を確認すると、声こそ出さなかったものの、驚いて一瞬動きが止まってしまった。


 マッチョの目や鼻、唇は大きく腫れ上がり、頬が奇妙に膨れていた。これがM2NRの副作用とでも言うべき症状であった。身体中のあらゆる筋肉を増強する秘薬M2NRは、顔にある筋肉までもを歪めてしまう。もはや元の顔がわからなくなるくらい変形してしまうのだ。


「見……見るなァ……俺の顔を……」マッチョは顔が見られたくないらしく、大きな両手で隠そうとした。



 ダァァァン!



 隠す間を与えず、ケンジのショットガンがマッチョの眉間を撃ち抜いた。M2NRを使ったマッチョといえども、眉間に弾丸を撃ち込まれると流石に防ぐことはできなかった。唯一の弱点である頭を守るために、ニューエイジのM2NRマッチョたちは鉄仮面でかぶっているのだ。ケンジのショットガンの威力に、マッチョの顔はぐちゃぐちゃに弾け飛ぶ。そして頭を失ったマッチョの身体はゆっくりと床に崩れ落ちて動かなくなった。


「ふーっ、骨の折れる相手だった。ありがとな、くまちゃん。あんた強すぎるわ」


 マッチョとの戦いが終わり、ケンジが深く息を吐いて床に座り込んだ。リコもうんうんとうなづき笑顔を見せながら、ケンジにもたれかかった。すると、一番の功労者であるマリカがトテテテテ……と二人のもとへ走ってきて言った。


「さあさあ、早く部屋に戻ってアイスクリームを食べなきゃ!」

「おいおい待ってくれよ。俺たちはふたりともボロボロなんだぜ……」

「ごめんマリカちゃん……ちょっと先に戻って食べててもらえないかな……」

「えー! しょうがないなぁ、じゃあ先に戻っておくね!」


 マリカが一人で部屋に戻ろうとしたときだった。



 ウイイイイィィン。



 廊下の向こうに見えるエレベーターが動いている音がした。扉の液晶に表示された矢印が上から下に向かって流れていくことから、地上から誰かが帰還してくることがわかった。それを見て、ケンジとリコがまた一つ息を吐いた。


「よかった、も無事だったみたいだ」

「ほんと」


 それにマリカが疑問をもって尋ねる。

「どうしてエレベーターに乗っているのが仲間だってわかるの?」

「そりゃ、このエレベーターはTHREE BIRDSの仲間以外作動させることができないからよ。指紋認証と虹彩認証でセキュリティも万全ってわけ」リコがそう答えた。


 エレベーターの動きが止まり、扉がゆっくりと開いた。


「ウエエエエエイ! THREE BIRDS、皆殺しじゃあ!」

「ウエエエエエイ!」


 なんとエレベーターに乗っていたのは、大勢のたちだったのだ。想定外の出来事に、ケンジとリコは呆気にとられてしまった。

 マリカは早く部屋に戻ってアイスクリームを食べておけば良かったと後悔した。





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 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 いつも小説を書くときには頭の中で漫画のコマ割り的なものをイメージして、それを文章にするよう心がけているのですが、今回の話のラスト――エレベーターから大量の鉄仮面マッチョが出てくるシーンはマッチョ濃度が高く、絵面的にもマッチョマッチョしていて、なんかもうマッチョなんです。

 マッチョ軍団に対して満身創痍のケンジとリコ、そして頭の中はアイスクリームでいっぱいのマリカはどう立ち回るのでしょうか。そして、アンジュはどこいった!

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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