第19話「ちゃちゃっとあのマッチョをぶっ倒してアイスクリームを食べるの!」

「どうした? モニターに様子を映せ!」


 サジーが指示を出すと、その声に反応したコンピューターが、壁にかけてあるモニターに研究所の様子を映し出した。


 なんと、研究所内で鉄仮面を被ったマッチョが一人、大暴れしているではないか。しかも戦闘経験もろくにない、何の罪もない研究員たちを次々と殴り倒していく。机の上の試験管やフラスコといった実験器具は倒れ、書類は散乱する。コンピュータも机から落ち、マッチョによって踏み潰された。「助けてくれ!」という研究員たちの声がむなしく部屋に響く。


「おい……どうしてニューエイジがここまでやって来れたんだ! エレベーターは指紋認証と虹彩認証のダブルチェックのはずだぞ!」


 サジーが怒りまじりの声を出す。


「ああ、これまでの研究が!」


 研究員が倒されていることよりも、これまでの研究の成果が泡となることを嘆き、サジーは悔しそうに机をどんどんと叩き、悲しんだ。


「しらねぇよ! とにかく俺はあいつをぶっ倒す!」

 ケンジも怒りに身を任せ、部屋を飛び出した。

「あ、ケンジ!」リコもそう言ってケンジの後を追う。


「……」

 一連の話を聞いていたマリカはだまって自分の頭に接続されていたケーブルを引っこ抜いた。そして、何食わぬ顔でベッドから降りる。ぬいぐるみなので着地する音もせず、サジーに気づかれることなくトテテテテ……と、ケンジとリコの後を追った。



 ◇



「うはははは! ここがTHREE BIRDSの研究所か! 王はどこだ! 王を出せ!」


 笑いながらニューエイジのマッチョは暴力の限りを尽くしていた。今いる部屋の研究員は全員ぶっ飛ばし、机に置いてあったコンピューターは全てぶっ壊した。


「や……やめてくれ」

 息も絶え絶えに、顔を赤く腫らした研究員がマッチョの足にしがみつく。


「あぁん?」マッチョが虫ケラを見るような目で、足元を見る。

「私たちの研究を……」


「しらねぇよ!」

 マッチョが反対側の足で研究員の顔面を踏もうとしたときだった。



 キン、キン、キィン!



 銃弾が三発、マッチョの鉄仮面に命中した。当然ダメージを与えることはできなかったが、マッチョはすぐに銃弾が飛んできた方を向いた。


「コラ、俺たちのアジトで好き勝手やってんじゃねぇよ!」

「あんた絶対に生きて返さないんだから!」


 部屋の入り口に、ショットガンを持ったケンジとリコが銃を構えて立っていた。


「うへ、強そうなやつ発見。おいお前ら、王の場所へ案内しろ!」

 マッチョは足元の研究員を払い除け、ケンジとリコに向かって突進していった。


「くらえ!」


 すぐさまケンジはショットガンをマッチョに向けて放つ。しかし、マッチョの分厚い筋肉に銃弾が弾かれてしまう。勢いが落ちることなく、マッチョがケンジたちに向かってくる。


「もういっちょ!」


 今度はリコがショットガンを放つ。体に効かないのなら、頭にお見舞いしてやるわ! と銃弾がマッチョの鉄仮面に命中する。キンキンキン! と確かに三発、マッチョの頭を揺らし、突進の勢いを殺した。だが全く怯むことなく、再びマッチョは突進してきた。


「マッチョラリアットォ!」


 マッチョの真っ直ぐに伸びた太い腕が、ケンジとリコを捉え、壁に叩きつけた。二人は攻撃をもらう直前になんとかショットガンを前に構えて防御しようとしたが、その勢いは止めることはできなかった。


「ぐはぁっ!」


 マッチョは勢い余って部屋の壁を打ち壊し、壊れた壁と一緒に二人を廊下まで叩き飛ばした。ケンジとリコは致命傷こそ免れたものの、たった一撃で相当なダメージをくらってしまった。


「なんだこいつ……やばすぎるだろ。大丈夫か……リコ」

 廊下の壁に持たれながらケンジが呟き、隣にいるリコに声をかけた……つもりが、隣にリコはいなかった。「ちょっ、やめなさいよ!」彼女の声はケンジの頭上から聞こえて来た。ふっと見上げると、マッチョがリコの頭を掴んで持ち上げていたのだった。


「王……王の場所を教えろ! でないとこの首を引きちぎってやるぞ!」

 マッチョはもう片方の手でリコの足首を掴み、ぐぐぐっと下方向へ引っ張る。


「ううっ!」思わずリコが苦しそうな声を出す。このマッチョ、体格はリコの2倍以上もある規格外のデカさなので、引きちぎるというのが満更ウソでもないのだ。


「やめろ! リコに手を出すな!」


 ケンジがなんとか立ち上がり、マッチョに向かって体当たりをする。しかしそれはマッチョの筋肉に弾かれて、再びケンジは廊下の壁に叩きつけられてしまう。


「ほれほれ、早く言わないと首がちぎれちゃうぞぉ!」

 マッチョが力を込めようとしたそのとき。



「どりゃあああああぁ!」



 廊下の向こうから声を上げて、勢いよく走って来たのはマリカだった。そして勢いそのまま飛び上がり、マッチョの顔面にドロップキックをお見舞いした。


「がはっ!」


 たかがぬいぐるみと侮ってはいけない。マリカのキックは人間の背骨を簡単にへし折るほどの力を持つ。水を吸った状態なら、あのヴァルク野村をも吹き飛ばすほどの威力になるのだ。マッチョは不意を突かれてリコを掴んでいた手を離し、壁や床を破壊しながら後方へと吹っ飛んでいった。リコが床に落ちる前に、なんとかケンジが滑り込んで彼女を抱きかかえた。


「マリカ! 助かる!」

「ありがとう、くまちゃん! 死ぬかと思った!」

「さあ二人とも! ちゃちゃっとあのマッチョをぶっ倒してアイスクリームを食べるの!」


 なぜかマリカが3人のリーダーのように音頭をとり、破壊された研究所の瓦礫の中からゆっくりと立ち上がったマッチョに対して、かっこよく戦うポーズを取った。




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 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 次回、マリカ・ケンジ・リコ対マッチョ(M2NR)という構図です。ここで気になるのが……今、アンジュはどこで何をしているのやら。彼女がくればなんの心配もないのに、マリカ一人じゃやはり心許ないのです。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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