第15話「ねぇねぇ、ここは何をしているところなの?」

 ごつごつとした岩山が立ち並ぶ荒れ果てた大地。かつてはここも緑が生茂る場所だった。それが三年前の戦争で全て失われてしまった。


 どの国が最初に核兵器を使ったのかはわからない。ただ、どこかが使うと雪崩式に他の国も核兵器を使用して対抗した。その結果、世界は崩壊し、生き延びたものはほんの一握りだった。


 これまで当たり前のように使用していた電子機器はほとんどすべてが使い物にならなくなった。インターネット等の通信機器も完全に機能しなくなった。わずかながら残された銃器類は弾が無くなったらおしまい。自動車等は燃料が尽きたらそれまで。

 生き延びた人々は、産業革命以前の昔ながらの生活を余儀なくされたのだった。


「うちらのリーダー、ジロウ様はそれを察してさ、地下に巨大な研究所を作ってたってわけ」

 リコが自慢げに語る。


「お前が自慢してどうすんだ、バカ。全部ジロウ様の功績だっつうの。俺たちは助けてもらったんだから、そのことを忘れんな」とケンジがいつも通りにツッコむ。

「またバカって言った! あんたの方がバカなんだからね、バカケンジ!」


 ぎゃあぎゃあ言い合う二人をよそに、アンジュとマリカは苦笑いをする。


 ここは地下へと降りるエレベーターの中。荒れ果てた大地の岩山の奥まったところに、常人ではまず気づかないレベルでカモフラージュされた入り口があった。マリカも「こりゃ、私たちの家より見つけるのは難しいわ!」と言うほどだった。


「……この二人、なんだか面白いね」

「ええ。とても凄腕の狙撃者には見えない」


 アンジュは両腕にマリカを抱きながら、THREE BIRDSの王、ジロウ様と呼ばれる人物について思いを巡らせていた。自分の右腕を切り落とした王は、バイクに乗り、斧を持っていた。顔は記憶にもやがかかっていて思い出せないが、マッチョだったのは覚えている。科学集団THREE BIRDS……その部下二人がこんなにすらりとしているのだから、なんとなく王もマッチョではないんだろうな……とすれば、私が追い求めている王ではないかもしれない。


 そんなことを思っているのが表情に出ていたのか、抱いていたはずのマリカが「よいしょ、よいしょ」とアンジュの腕から抜け出し、体をよじ登ってきた。そして耳元で「アンジュ、顔が怖いよ。平常心平常心」と声をかけた。


「はっはっは! そんなに緊張しなくていいぜ、アンジュ! THREE BIRDSはダン・ガンとは違って穏やかな奴らが多い。見た感じ、普通のコミュニティってところだよ」

「そうそう! それにくまちゃんたち大事なお客さんだから、もっと胸張って堂々としてればいいよ!」


 ケンジもリコもホームグラウンドに戻ってきたことで、だいぶんリラックスしているようだった。


 エレベーターの下る速度がだんだん遅くなる。そろそろ地下に到着するのだろう。「さ、そろそろ着くぜ!」ケンジの声と、エレベーターが完全に停止するのがほぼ同時だった。


 目の前にある扉が音もなく開く。



「おお、すげぇ! さすが近未来科学集団!」



 ケンジが巨大な研究所、と言ったのは本当だった。近未来的な宇宙船の内部を思わせる、つるりとした質感の壁が奥に向かって真っ直ぐに伸びていて、その両側には等間隔に扉が並んでいた。扉の向こうは研究室になっているようで、円形の窓ガラスの先には白衣を着た研究者たちがそれぞれ作業をしている姿を見ることができた。


 アンジュとマリカは、ケンジとリコに先導されて廊下を真っ直ぐに歩いて行く。


「この部屋ではLEDによる植物栽培を行っている。THREE BIRDSの食糧プラントってところだな」とケンジが左側の部屋を見ながら説明した。


「こっちはね、脳のリミッターを外すための研究所。これ成功すれば、身体能力爆アガリなんだって!」リコは自慢げに語る。


「ねぇねぇ、ここは何をしているところなの?」今度はマリカが別の部屋を指差して尋ねた。

「おお、なかなか目の付け所がいいじゃねぇの、くまちゃん!」ケンジが言う。


「ここはな、人間の頭ん中をデータ化して保存するっていう研究をしているところ。うまく行けば、実質不老不死になれるってよ!」

「でもね、なかなか研究が進んでいなくって……だからジロウ様もなんとかして科学者を仲間にして、この研究を完成させたいんだって」リコが付け加えて説明した。


「へぇ、頭の中のデータ化……」

 マリカがそう復唱した。彼女の頭の中では、時折見るあの悪夢が思い出されていた。自分の頭にケーブルが接続されて――


「ところで」


 マリカの不安に気づいたのか、突然アンジュが口を開いた。


「?」ケンジとリコが振り返ってアンジュを見る。



「THREE BIRDSの王に一度、ご挨拶したいんだけど。ここまで立派な研究所に招いてもらったのだから」



 アンジュが王に挨拶をしたいと言った、その理由は完全な嘘だったが、立派な研究所という感想は本当だった。規模も中身も、自分たちの家の小さな研究施設とは比べ物にならなかった。できれば一刻も早くジロウに会って、アンジュが討つべき相手なのかどうか確認して、ここを離れたかったのだ。もちろんマリカの身の安全のために。


 すると、ケンジが頭をぽりぽりと書きながら、若干申し訳なさそうに言った。


「いや……それがな、ジロウ様は俺たちも会ったことないんだよ。この研究室の一番奥にいるのは確かなんだが、用心のためか誰にも姿は見せないんだ」




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 こんにちは、まめいえです。いつもお読みいただきありがとうございます。

 いよいよTHREE BIRDSの本拠地に潜入したアンジュとマリカ。無事に王と出会い、復讐を果たすことができるのでしょうか。

 本日が2023年最後の更新となります。今年もみなさんと楽しく交流ができたことを嬉しく思います。どうぞ、良いお年をお迎えください。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る