第13話「アイスクリーム、絶対食べるんだから!」

 荒野にポツンと立っている簡易テントのアイスクリーム屋さん。


 その中でアンジュ、ケンジ、リコの三人がお互いに武器を突きつけ合い、無言のままにらみ合っている。


 ――な、な、何が起こってるの? ここはアイスクリーム屋さんじゃないの?

 アンジュの胸の中に押し込まれたマリカが、状況をよく把握できていない中で困惑していた。


「……」

「……」

「……ふう。リコ、ナイフを戻せ」


 しばらく均衡状態が続いたが、それを破ったのはケンジだった。


「はぁ? なんであんたが決めるのよ! こいつ武器なんて何も持っていないじゃない!」リコがアンジュから目を離さずに口答えすると、

「いいから早くしまえ!」


 ケンジが大声で叫んだ。これまで一緒に仕事をしてきて、怒鳴られるなんてことは初めてだった。リコは若干不満そうな表情を見せながらもしぶしぶ、ナイフをアンジュから遠ざける。それを確認して、ケンジもアンジュに向けていたピストルを下げて、腰にあるホルダーにしまった。


「すまん。俺たちはあんたと戦うつもりはないんだ。その腕、下げてくれないか」


 両腕を上げて戦う意志がないことを示したケンジの言葉に、アンジュもまた、ゆっくりと右腕をひっこめた。しかし、いつでも発射できるように、握り拳だけはケンジとリコの方を向けたままで。


「彼女の右腕はロケットパンチだ。ナイフもピストルも絶対にかなわない。戦ったら負けるのは確実に俺たちの方だ」


 ――ロケットパンチのことを知っている?

 アンジュもマリカも、ケンジの言葉に驚きを隠せなかった。

「あなたたちは……何者なの? どうしてこの腕のことを?」

 アンジュが尋ねる。


「俺たちはただのアイスクリーム屋さんだよ」

 そう答えるケンジに、アンジュは睨みを聞かせて再び右腕を伸ばそうとする。それを見たケンジが慌てて言葉を修正する。


「あぁ、すまん。ジョークだよ、ジョーク。……正直に言うよ。俺は近未来科学集団『THREEスリー BIRDSバーズ』の幹部、ケンジだ」

 次はお前だ、とケンジはリコに促す。はぁ、と一つ息を吐いてから彼女も自己紹介をする。

「私はリコ。ケンジと同じで幹部をしているわ」

「ロケットパンチは、ダン・ガンの拠点に設置しておいた隠しカメラの映像から確認した。あいつらも一応なかなかの強さを誇っていたんだが……あんな簡単にやられるだなんて思ってもみなかった」


 ――「THREE BIRDS」! 確か「ダン・ガン」の王が死ぬ間際に行っていた四天王の一人がいるグループじゃん! しかも隠しカメラとか、戦争前の機械を普通に使ってるってこと? なんなの「THREE BIRDS」って。ヤバくない?

 マリカがふと、先日の王の話の中で出てきた内容を思い出す。


「そのTHREE BIRDSが……」

 アンジュはそう言いながら、胸元からマリカを引っ張り出す。

「ただのぬいぐるみを捕まえて、どうしようというわけ?」

 会話を聞いていたマリカはもちろんぬいぐるみのふりをしたままで動かない。そんなマリカを左腕で抱きしめながら、ケンジとリコに尋ねた。


「ただのぬいぐるみって……とぼけても無駄なんだから。私たちは見ているのよ、そのくまちゃんがダン・ガンの王に回し蹴りを浴びせたところをね」

 リコの言葉に、背後にいるケンジが付け足す。

「ダン・ガンの王を狙撃したのは俺たちだ。そのときに見ていたんだ。あんたたち二人の行動を」


「……」

 ――なるほど、王を狙撃したのはTHREE BIRDS だったのか。確かにあのとき、THREE BIRDS のことを話そうとしたときに狙撃されたんだよな……とアンジュは思い返した。それと同時にもう一つ思い出したこともあった。


「ってことは、あのときロケットパンチを狙撃したのもあなたたちね」

「すまない。まさかあれが君の右腕だとは思っていなかったんだ。こちらとしても脅威だったので仕方なく狙撃した。許してくれ」


 ケンジがそう言って頭を下げる。その姿にもリコは驚いた。いつものケンジよりも腰が低く、そして言葉遣いも丁寧だ。彼の言動から、どうしてもくまちゃんを「THREE BIRDS」に持ち帰りたいという強い意志を感じたのだった。


「それで……マ……ぬいぐるみを連れて帰って、何をするの? 返答次第ではここから生かして帰すつもりはないわ」


 アンジュが相変わらずの冷たい表情と口調で二人に問いかける。一触即発の状況の中、我関せずのマリカはアンジュの左腕に抱かれたまま、ケンジとリコの近くにある冷凍ケースに目が向いていた。

 ――なんかよくわかんないけど、あのケースの中にアイスクリームがあるんじゃないの?


「その話なんだが……話せば長くなりそうだ。もしよかったらここにあるアイスクリームでも食べながら話をしないか」


 ケンジのその提案に、真っ先に反応したのはマリカだった。



「食べる! アイスクリーム、絶対食べるんだから!」



 突然可愛らしい声を出して動き出したくまのぬいぐるみに、まずアンジュがびっくりして目を見開いた。


 次にケンジが「マジで喋って動いてるし!」とぎょっとしてマリカを見る。


 最後にリコが「いやーっ! かわいい! かわいいんだけど、このくまちゃん!」と一瞬にしてマリカの虜になった。



 ――せっかくここまでマリカのことをぬいぐるみで押し通そうとしていたのに……マリカのバカ!


 アンジュの手をすり抜けて、マリカは向こうにある冷凍ケースまでトテテテテ……と可愛らしく走っていった。そして、ぬいぐるみなので表情が変わることはないのだが、満面の笑みを浮かべていることは想像できる。こちらを振り向いて、手足をバタバタさせながら言った。


「ケンジ! 私にはバニラ! バニラアイスクリームをちょうだいな!」




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 こんにちは、まめいえです。お読みいただきありがとうございます。

 ケンジとマコのコンビもなんだか味のあるキャラになりそうで、即退場させるのがもったいなくなってきました。ちなみに、「THREE BIRDS」は直訳すると三つの鳥。三、鳥。そう、飲料だけでなく科学技術を結集した健康商品まで売っているあの「サ○トリー」から拝借いたしました。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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