近未来科学集団「THREE BIRDS」

第12話「この前かっぱらってきたバイクがあるじゃないか!」

「さあアンジュ! 今日こそアイスクリームを食べにいくぞー! おー!」

「おー」


 数日後。


 見かけは廃墟の自宅の前で、たくさん眠ってすっかり元気になったマリカと、右腕が完全に元どおりになったアンジュが右手を突き上げている。もちろん気合いが入っているのはマリカだけで、アンジュは相変わらずの無表情。「おー」と言う声にも覇気がない。


「元気がないぞ、アンジュ! 腕もバッチリ元どおり……いや、これまで以上に進化を遂げたんだから、もっと喜びなさいよ!」

「……進化?」アンジュが首を傾げる。


「そう! 今回あたしが改造して、強度が20%アップしました! もう銃弾を喰らってもショートすることはないはず! 速度も少しだけ早くなったのよ! もちろん体への負担は最小限ときたもんだ! さすが、あたし!」

「全然気づかなかった……ありがとうね、マリカ」と、アンジュは右手を見つめながら言った。


 アンジュに褒められて、「へへっ、いいってことよ!」と、マリカは得意げに鼻の下をもふもふの手でさする。


「さ、アイスクリームがあたしを待っているわ!」

「と言っても……移動手段が徒歩じゃ、行ける場所も限られてしまうけどね」


「ふっふっふ! この前かっぱらってきたバイクがあるじゃないか!」と言いながら、マリカはバイク用のゴーグルを装着してシートにまたがる。

「もう燃料がないから動かないわよ」


 アンジュのその言葉に、マリカが「チッチッチッチッ!」ともふもふの手を振る。きっと、人差し指を立てて「違うんだよ」と言いたかったのだろう。


「その点に関しては心配ご無用! あたしが昨日、太陽光発電で動くように改造しておいたから! ちょうどいい具合の材料が自宅の倉庫に眠っていたの!」

 ポンポン! とバイクを軽く叩いてアピールするマリカに、アンジュも珍しく嬉しそうな表情を見せる。


「あら、それなら移動も楽になりそうね」

「おうよ! 今日こそアイスクリーム食べるんだから!」

「アイスもだけど、科学者と王も探すことを忘れないで」

「あたぼうよ!」


 アンジュは靴紐を結び直してから、バイクに乗る。エンジンをかけてみるが、これまでのようなドッドッドッ……といった音がしない。不思議に思っていると、マリカがアンジュの背中をよじ登ってきた。そして右肩から滑るようにして、アンジュの胸元、服の中へと入り込んだ。ちょうど、アンジュの胸の間からくまのぬいぐるみの顔だけが出ている格好になった。


「エンジン音がしないでしょ? 電気の力で動くように改造したから音も静かになったの! 快適なバイクの旅をお届けするわ!」


「……あのエンジン音が、いかにもバイクに乗っているって感じがして好きだったのに……まあいいけど」


 アンジュがアクセルを握りしめると、二人を乗せたバイクは勢いよく荒野へと走り出した。



 ◇



 バイクで荒野を走り続けること一時間ほど。


 アンジュの胸元に収まっているマリカが突然、きょろきょろと周りを見渡した。


「どうしたの?」

 アンジュの問いに、マリカが鼻をひくひくさせながら答える。

「アイス! アイスクリームの匂いがする!」


 その言葉に、「ははは」とアンジュが乾いた笑い声を出す。「アイスクリームの匂いって……こんな荒れ果てた場所でするわけないじゃない!」



 すると、あった。

 何もない荒野のど真ん中に、ぽつんと建っているアイスクリーム屋さんが。


 簡易テントの中に店員が二人。しかも丁寧にアイスクリームと書かれたのぼりまで立っている。これはもう、間違いなくアイスクリーム屋さんだった。


「なんで……こんなところにアイスクリーム屋さんが?」

「そんなことはどうでもいいの! アンジュ、アイスクリーム屋さんに向かうのよ!」


 アンジュは不思議に思いながらも、言われるままに進路を変え、アイスクリーム屋さんの前でバイクを止めた。アンジュの胸元で、マリカはいつものように普通のぬいぐるみを演じる。


「いらっしゃいませ! アイスクリームはいかがですか?」

 店員の女性が親しげにアンジュに話しかけてきた。全身、黒い服の金髪の女性であった。


「いかがですかって、こんなところにあるアイスクリーム屋さんにわざわざやってきたんだから、アイスクリームを買いに来たに決まってるじゃねぇか。バカなのか、お前」

 テントの奥にいた、同じく黒い服の男性がそうツッコんだ。確かに、とうなづくアンジュ。マリカも本当ならアンジュと同じように言いたいところだったが、我慢してぬいぐるみのふりを続けた。


 女性の店員は恥ずかしそうに顔を赤くして、奥にいる男性の方を向いて言い返す。


「そんなことくらいわかってるわよ、このバカケンジ! あんたは黙ってくまちゃんを捕まえればいいのよ!」

「バカリコ! お前何言ってんだ! バレちまうだろうが!」


「あ!」



「くまちゃんを……捕まえる?」



 アンジュが一瞬何のことか考え、「はっ!」と自分の胸元にいるマリカを左手でぐっと押し込み、右腕を真っ直ぐケンジとリコの方へ向ける。


 ケンジも、アンジュがマリカを押し込んだ一瞬を見逃さず、素早く右腰にあるピストルを取り出しアンジュに向ける。リコも同様にナイフを取り出して、アンジュの胸元に狙いを定める。


「!」

 ――この二人……強い!


 三人ともお互いの力が拮抗していることを瞬時に感じ取り、しばらくそのまま動くことはなかった。




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 こんにちは、まめいえです。お読みいただきありがとうございます。

 突然始まった、アンジュ VS 「THREE BIRDS」のケンジとリコ。今回は一筋縄ではいかなそうな感じがしますが果たして……。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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