第10話「かわいいってのは否定しないんかい!」

 究極の戦闘集団「ダン・ガン」の本拠地である元ショッピングモールから少し離れた場所にある廃ビルの屋上。そこに黒い服を身にまとった二人組がいた。


 一人はすらっとした高身長の男性。地面にうつ伏せになってライフルを構えている。スコープが捉えているのは、もちろん「ダン・ガン」の王。いつでもターゲットを仕留められるように神経を集中させている。


 その隣にいるのは金色のボブカットの女性。こちらもスタイルの良い体型をしていて、しゃがみながら双眼鏡でショッピングモールの最上階を見つめていた。

 二人とも「THREE BIRD」の狙撃部隊である。男は「ケンジ」女は「リコ」といった。


「『ダン・ガン』だっさ。たった一人の女に壊滅させられてんじゃん」


 リコが馬鹿にしたような口調で笑うと、男が姿勢を崩さずに言った。

「ちょっと黙っててくれないか。集中できない」

「あら、この程度のおしゃべりで集中を切らすほどの無能がここにいるのかしら?」

「うるさい、黙ってろ」


 ケンジの言うことには耳も貸さず、リコは双眼鏡で王の様子を観察し続ける。


「あら、くまのぬいぐるみが動いてる! すごくない、あれ? おもちゃかな? もしかして、人造人間とか?」

「ぬいぐるみって自分で言ってんじゃねぇか。わざわざぬいぐるみを人造人間にするか、バカ」

「あ、バカって言った! あんた後で覚えてなさいよ!」


 ぎゃあぎゃあ罵り合いながらも、二人とも視線は全くブレずに元ショッピングモールの最上階を外さない。もちろん姿勢も動かない。さすがは「THREE BIRD」の鍛え抜かれた狙撃手たちだった。


「おい、王がなんか喋るぞ。なんて言ってる?」


 ケンジにそう言われて、リコは王の口の動きを見る。彼女の得意技の一つが読唇術なのだ。


「ちょっと待って……えっと『俺の知っていることなら何でも答える!』って。ちょっと……あんな訳の分かんない女とくまちゃんにべらべら情報を話すんじゃないでしょうね」

「俺たちの情報が漏れそうなら消してもいいと『ジロウ』様が言っていたな」

「あっ、言った! 今『THREE BIRDのジロウ』って口に出した! あいつ、呼び捨てしやがった!」


 リコのその言葉に、ケンジが改めて「ダン・ガン」の王の眉間に狙いを定めた。


「終わりだな。俺たちの情報を出さなければ生かしてやっても良かったが……」

「ま、どっちみちあそこにいる女にやられておしまいでしょ。女がすごいのか、くまちゃんがすごいのかわかんないけど……とにか……」


 リコが喋っている間に、ケンジは何のためらいもなく引き金を引いた。



 ダァァン! という銃声とともに、眉間に銃弾を喰らった「ダン・ガン」の王は仰向けに倒れる。瞬時に女はくまのぬいぐるみを抱えて、ケンジとリコの死角となる瓦礫の裏へ消えた。


「ちょっ……もう撃っちゃったわけ?」

「当然だ。俺らの情報が漏れる前に始末した。ただ……」


 ケンジの言葉に、リコは双眼鏡から目を離して彼を見た。しかしケンジは未だ伏せたまま、スコープに目をつけてじっと銃を構えている。


 ――もう王は倒したはずなのに……? リコは不思議がって再び双眼鏡を顔に近づける。

「何見てるの? 王は確実に死んでるわよ」


「違う。撃った瞬間、あの女はこっちの居場所を特定して死角に逃げ込んだ。あいつは……デキる。ここで仕留めておかないと厄介なことになりそうだ」


 そういえば……とリコは王の近くにいたはずの女とくまのぬいぐるみを探すが、見当たらない。あのほんの僅かな時間で的確な判断をして回避行動を取るなんて……。まさかそんなことができる人間が自分たち以外に存在したのかと、ギリっと奥歯を噛み締めた。


 少しでも姿を見せれば一発打ち込んでやろうと、ケンジは銃を構え続けていた。すると、しばらくしてからゆっくりと宙を舞う右腕が現れたのだ。それは肘の近く――切断された辺りから炎を出し、先ほど女が隠れた場所へと向かっているようだった。


「なんじゃ……こりゃ」


 ケンジの言葉に、リコもぎょっとして右腕を見る。ホラー映画じゃあるまいし、右腕が宙を飛ぶなんてあり得ないことである。思わず「ケンジ、撃って!」と声に出していた。

 ダァァン!

 ケンジの撃った弾丸は右腕の切断面、ちょうど炎が出ている部分に命中した。


 ◇


 アンジュとマリカはバイクに乗って、猛スピードで荒野を走る。


 何者かによってロケットパンチの接続部分を狙撃され、アンジュの右腕は装着できない状態になってしまった。彼女は自分の右腕を胸元にしまい、左手だけでハンドルを握らざるをえなかった。そして、アンジュの右肘にはマリカがぎゅっとしがみつき、もふもふの腕を精一杯伸ばして右ハンドルを握っていた。マリカがアンジュの右腕の代わりを担っているのだ。


「やべぇやべぇ! こいつはやべぇよ!」

「マリカ、ちょっと大人しくなさい」


「これが大人しくできるかってんだい! ロケットパンチが使えないアンジュはただのかわいい女の子じゃねぇの!」

「……確かにそうね」


「かわいいってのは否定しないんかい! とっ、とにかく! その腕をしないと!」


 マリカがアクセルをぐぐっとひねる。バイクはさらに爆音を上げて荒野をどんどん進んでいく。


「一旦、我が家に帰りましょ! アンジュ、方向はわかる?」

「もちろん。この速さだとあと三時間弱ってところかしら」

「燃料はもつかな?」

「……計算上、ギリギリってところかしらね」


 二人は壊れてしまったロケットパンチを修理するために、久しぶりに我が家に戻ることにしたのだった。


 

  

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 こんにちは、まめいえです。お読みいただきありがとうございます。

 突如現れた新勢力「THREE BIRD」のケンジとリコ。今後どのように絡んでいくのか、お楽しみに。そろそろまたヴァルク野村も出さないとなぁと思っています。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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