第9話「嘘ついたらただじゃおかないんだからね!」

 マリカに蹴り飛ばされた王は、勢いよく自分の座っていた椅子に叩きつけられた。


「ぐはぁっ!」

――なんなんだこいつは……ただのくまのぬいぐるみじゃねぇ! もしかしてこのクマ……「科学者」が関わっているのか?


 もふもふのぬいぐるみに蹴られたとは思えないほどの衝撃。ここまで鍛えた筋肉が一切役に立たないなんて……。王は圧倒的強さのぬいぐるみに、普通に戦っては勝てないと判断した。


「い、命だけは助けてくれ!」

王は近づいてくるマリカとアンジュに対して、土下座をして懇願した。


「……どうするアンジュ?」

 マリカが後ろを向いて尋ねると、アンジュは「今からする質問に答えてくれるなら」と、相変わらずの無表情で答えた。


「わかった! 俺の知っていることなら何でも答える!」

 王は顔を上げ、両手を上に上げて降参のポーズを取った。


「ほんと? 嘘ついたらただじゃおかないんだからね!」

 シュッシュッとマリカがもふもふの腕でシャドーボクシングをしながら言う。


「ああ、嘘はつかねぇ! 約束する!」


 アンジュには、その姿が嘘をついているようには見えなかった。そこで彼女は王に尋ねた。

「あなたの他に『王』は何人いるの?」


 王の頭に先ほどのアンジュの言葉――私の腕を切り落としたことを覚えているかしら?――が浮かんだ。なるほど……こいつは自分の腕を切り落とした「王」に復讐するつもりなのか……。

「王なんてのは誰でも名乗れる。仲間の中で一番強い奴、それが王だ。だから何人いるかなんて正確には答えられねぇ。チームの数だけ王はいるんだ」


「かぁーっ、めんどくせえ名前だ! 一丁前いっちょまえに王なんて名乗ってさ! リーダーとか大将とかでいいじゃん!」

 王の説明に対して、マリカが悪態をつく。


「ただ……中でも別格なのが『新世界』の『ビリー』と『ニューエイジ』の『エイジ』、そして『THREE BIRDS』の『ジロウ』。この3人とを合わせて、四天王と呼ぶものも多い」


「ちゃっかり自分も入ってんのかい!」


 スパーン! と、マリカがどこかで見つけてきたスリッパで王の頭をはたく。「いてっ!」と王は頭を押さえてマリカを睨み付けるが、それ以上のことはしない。余計なことをするとまた吹っ飛ばされるのが目に見えているからだ。


「じゃあ最後に……『科学者』について知っていることを全て教えて」


 マリカのツッコミにも無反応なアンジュが、再び王に質問する。王も「科学者」という言葉を聞いて一瞬だけ表情が変わる。そのわずかな変化もマリカは見逃さなかった。


「知っていること全部話すんだよ! じゃないと今度は……」

「わかった! わかったから……話すよ」

 王は観念して、ゆっくり言葉を紡ぎ出していく。


「戦争でほとんど失われた結果『科学者を手に入れたものが世界を制す』と言われるようになった。この世界に生き残っているはずの『科学者』を見つけて仲間にすることで、世界を自分のものにすることができると言われているんだ」


「それでその科学者はどこにいるの?」


「それは知らねぇ! 本当だよ! だけど、『科学者』を一番力を入れて探しているのが『THREE BIRD』だ。『ジロウ』なら、もっと詳しい情報を持っているかもしれない!」

「じゃあその『THREE BIRD』の場所を教えなさいよ!」

「あ、ああ……」



 王が言葉を紡ごうとした瞬間。



 タァァン!



 遠くから銃声が響き、それからほんの少し遅れて王の眉間に弾丸が命中した。声を出す間もなく、王はそのまま後方へ倒れた。アンジュは素早くマリカを抱き抱えると、瓦礫の後ろへ飛び込んで隠れる。


「な……何今の……?」

 アンジュの耳元でマリカがささやく。それに対して、アンジュが落ち着かせるようにゆっくりと答えた。


「銃声。音から計算して600メートルほどの距離。大丈夫、ここなら当たらない」


 その言葉を聞いて安心したマリカは、そっと瓦礫の端から王の様子をうかがってみる。王は目を大きく見開いたまま仰向けになっていて、頭の周りにはどす黒い血の海ができていた。死んでいるのは明らかだった。


「どどどど、どうしようアンジュ!」

「静かに。このまま瓦礫に隠れながら逃げるわよ」


「違う違う! アンジュの右手! 飛んで行ったままでしょ!」


 ふう、と一つ息を吐き、アンジュはマリカをしっかりと抱きしめたまま、瓦礫に背中を預けて腰を落とした。


「そうだった……ちょっとここで戻ってくるのを待ちましょうか」


 元ショッピングモールの最上階。瓦礫が散乱するこの空間を、しんとした静寂が支配する。階下にいた「ダン・ガン」の下っ端どもはロケットパンチで全滅。そしてリーダーである「王」も何者かに銃撃されて死亡。この場所にはアンジュとマリカしか残っていない。


 ――早くアンジュの右腕が戻ってきますように!

 とマリカが祈る。


 ――銃撃……まだ使える銃を持っている敵が存在しているということ……。そして明らかに私たちではなく「王」を狙った一撃。敵対するグループ……「新世界」「ニューエイジ」「THREE BIRD」のうちのどれかが向かわせたと考えるのが妥当かしら……それとも……四天王の座を狙う新たなグループが?

 とアンジュが冷静に考える。

 

 しばらくするといつもよりも静かな音でゆっくりと、アンジュのロケットパンチがこちらに向かってきた。「おっ、やっと戻ってきた!」とマリカが小声で言う。


 タァァン!


 またしても銃声が響き、弾丸はロケットパンチの切断面――ちょうど機械が露出しているその中心――に命中した。爆発こそしなかったものの、ロケットパンチは火花を軽く散らし、アンジュとマリカの目の前に落ちた。そして黒い煙を上げて動かなくなった。



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 こんにちは、まめいえです。お読みいただきありがとうございます。

 突然出てきた銃火器。もしそれが王の筋肉に当たっていれば弾き返すところでしたが、さすがのマッチョも眉間を鍛えることはできなかったみたいです。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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