究極の戦闘集団「ダン・ガン」

第6話「残念だけど、今回は我慢することにするわ」

「なあ、知ってるかい? 近くの無法者アウトローが根城にしていた廃墟が、先日何者かによって壊滅させられたらしい」

「物騒な話だ……せっかくなら『ダン・ガン』を壊滅してくれたらいいのに」

「しっ! あんまり大きな声で言うなよ! 奴らはどこで誰が聞いているかわかんねぇ」


 集落の門番――まだ若い男性二人がそんな会話をしている中、くまのぬいぐるみを抱いた一人の少女がやってきた。赤い髪を後ろで一つに結び、黒いインナーにミリタリーベスト、迷彩柄のカーゴパンツといった姿で、武器は持っていなかった。そう、アンジュとマリカである。


 マリカは本物のくまのぬいぐるみのように、全く動かず、言葉も発しない。誰かが見ているときは余計な混乱を引き起こさないよう、基本的にただのぬいぐるみのふりをしているのだ。


「ちょっと待った! お嬢ちゃん、一人でここまでやってきたのかい?」


 当たり前のように門を通り過ぎようとするアンジュの行く手を、門番二人が両手を広げて遮る。そしてそのうちの一人が腰に下がったナイフに手をかけながら、アンジュに尋ねた。


「ええ。もしよかったら入れてもらえないかしら」

 アンジュはいつものように表情をあまり変えずに、そう答えた。


「ここに何の用だ? 申し訳ないが余計な面倒ごとを持ち込まれても困るんでね!」

 もう一人の門番が背中に背負っていた小さな斧を握りしめる。


「いえ……私は……」

 アンジュが左手でマリカを抱えたまま、右手を開いて腕を上げ敵意がないことを示す。


「ここにアイスクリームが売っていると聞いて……やってきたのだけど」

 門番の二人は驚いた顔をしてアンジュを見つめていた。



 ◇



 その集落は大人から子供まで含めて50名程度が暮らす、小さなものだった。戦争の被害をかろうじて逃れた小さな建物や、瓦礫を積み重ねて作った小屋が並び、周囲は粗末な金網で囲まれているだけ。生き残ったものたちが集まって作られた場所のようだ。


 そんな集落の建物の前で、アンジュは一人の老婆と話をしていた。

「そうですか……アイスクリームは既に……」

「そりゃそうさ。あの戦争で人間はすべてを失ったんだ。すべてね」


 無事、集落に入ることのできたアンジュだったが、そこにアイスクリームはなかった。というか、食料自体も不足していた。集落の外れに作られた畑には野菜がいくつか植えられていたが、立派に育っているとはいえない代物であり、貯蔵庫のストックもあと数日で無くなるのだと言う。電気や水道といった生活インフラが崩壊し、食糧を手に入れることすら困難になっているのだった。


「せっかく遠くから来てくれたんだろうが、これくらいしか分けてあげられる食料がないんだよ。すまないねぇ」

「いえ……私はそんな……食べなくても平気なので……」


 一切れの干し肉をもらったアンジュは老婆に礼を言うと、集落の外れにある人気ひとけのない大きな木の根元に腰を下ろした。村の人々は水を汲みにいったり、壊れた家の修繕をしたり、とても来客に構っていられるような状態ではなかった。

――みんな必死になって生きようとしているんだ、とアンジュは人々の様子を見ながら思った。


「アイスクリームないんだってさ、マリカ」


 アンジュは誰にも聞かれないように小さな声で言った。くまのぬいぐるみのマリカはぴくりとも動かないまま、これもまた小さな声で返事をした。


「残念だけど、今回は我慢することにするわ」

「これからどうしようか」

「もっと大きな街をみつければいいのかもね、そしたら『王』も『科学者』も見つかるかも」

「ええ」


 長居しても迷惑になるだけ……とアンジュが立ち上がったときだった。

 門の方から男性の大きな叫び声が聞こえたのだ。


「『ダン・ガン』だ! 奴らが来たぞ!」


 カンカンカン! と門番が近くに備え付けてあった金属の鐘を叩く。その音を聞いた集落の人々は、「急いで!」「隠れないと!」と言いながら、建物や小屋の中に逃げ込んでいった。


「あなたも早く隠れなさい! あいつらに見つかったら、何をされるかわかんないよ!」


 先ほどアンジュと話をしていた老婆がそう声をかけてくれた。なんのことだかわからずも、アンジュはマリカを抱えたまま、老婆の後をついていき、瓦礫が積み重なった小屋の中に隠れることにした。


 しばらくして。


 ブロロロロロロ――!


 エンジンの音を響かせて、六台の大型が集落の中に入ってきた。


 ――バイク! まだ使えるものが残っていたなんて!


 瓦礫の隙間から外の様子をのぞいていたアンジュが、バイクの存在を見て驚いた。乗っていたのは革ジャンに皮のパンツを見にまとったモヒカン頭のマッチョたち。無法者アウトローと同じように、力を振りかざし欲望のままに生きていこうとする奴らだった。


「おいコラ、弱者ども! 隠れてんじゃねぇよ!」

「今日の分の食料をいただきに来たゼェ!」


 モヒカンどもはそう言いながらバイクから降り、集落をうろうろし始めた。そして貯蔵庫を開けると、貴重な食料を次から次へと奪い、バイクの後方に取り付けあった荷台へと乗せていく。


「ああ……わしらの食料が……」


 小さな声だったが、老婆がそう言って悔し涙を流した。しかしどうすることもできないのだ。抵抗すれば殺されてしまう。モヒカンどもにかなう人間はこの集落にはいない。なるほど、食料が不足しているのはこのせいでもあるのか……とアンジュは理解した。


「私が……止めてくる」


 アンジュはマリカを抱えたまま、小屋の中から外へ出た。「だめだよ、あんた! 死んじまうよ!」と老婆の声が聞こえたが、そんなのお構いなしだった。




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 こんにちは、まめいえです。お読みいただきありがとうございます。

 バイク、モヒカン、マッチョ。完全に北斗の拳の敵キャラです。アンジュやマリカの胸に七つの傷はついておりませんので、ご安心ください(^^)

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