第7話「いきなりぶっ放しちゃダメだからね」

「なんだぁ、てめえは!」

「最近じゃ見ねぇ顔だな、新入りか?」


「ダン・ガン」と呼ばれたモヒカンたちに恐れをなして、人々はみんな姿を隠した。誰もいなくなった集落で好き勝手に食料を強奪しているモヒカンたち六人の前に、くまのぬいぐるみを抱いたアンジュが現れた。


「アンジュ……いきなりぶっ放しちゃダメだからね」

「わかってるって」

 マリカがモヒカンに聞こえないぐらいの声でアンジュに話しかける。アンジュも同様に返事をする。


「あぁ? 何ぼそぼそ言ってやがるんだ、死にてえのか?」

 眉間にシワを寄せて、一人のモヒカンがにらみを聞かせながらアンジュに迫ろうとする。それを別のモヒカンが制して言った。


「まあ待て。よく見てみろ、結構な上玉だ。こいつを連れて行けば『王』も喜ぶかもしれん」

「その前に俺らで味見をしてから、だけどな!」

「へっへっへっへ!」


 「王」という言葉にアンジュが反応した。マリカを抱いている左手にギュッと力が入る。

 「アンジュ……落ち着いて」そう言いたげに、マリカはアンジュの指を握りしめる。もちろんモヒカンたちに気づかれないように。そして、アンジュもまた「ええ、今回はちゃんと情報を引き出すわ」とマリカの背中を優しく撫でた。


「ねぇ」アンジュの口が開いた。

「あなたたちは何者なの? どうしてここから食料を奪っていくの?」


「あぁ? 俺たちを知らねぇのか? せっかくだから教えてやろう。いいか、俺たちは泣く子も黙る究極の戦闘集団『ダン・ガン』だ!」


 モヒカンたちが舌を出して、両手の人差し指を突き上げながら「ウェェェイ!」と雄叫びをあげる。建物や小屋に隠れている住民はそれだけで耳を塞ぎ、体を小さくして震えている。当然だが、アンジュは無反応である。


「そして……どうして食料を奪うのか……だったな。それは……俺たちが強いからだ!」

「ウェェェェイ!」


 モヒカンが目の前に落ちている大きな石を持ち上げて、近くの瓦礫に投げつける。力が強いことを見せつけ、アンジュたちをビビらせようという魂胆だったが、それは全くの徒労に終わった。


「それでさっき言っていた『王』っていうのは……何者なの?」モヒカンたちに全く動じず、質問を繰り返すアンジュに彼らは少し苛立いらだってきた。

「なんだお前、さっきからわけのわからん質問ばっかりしやがって! 少しはビビったらどうだ!」


 モヒカンが持っていたナイフをアンジュへ投げつけた。脅かしてやろうと思って、わざと当たらないように投げたつもりだったのだが、手元が狂ってくまのぬいぐるみ――マリカの方へ飛んでいく。アンジュはすぐに反応してそれをかわしたが、「マリカを狙ってナイフを投げた」と解釈して、体の奥底から怒りが湧いてきた。


「あっ、アンジュ! 待って!」


 無傷のマリカがアンジュを止めようとするが遅かった。あっという間に、アンジュは右手をモヒカンたちにつき出すと「許さないから」とだけ言って、ロケットパンチを繰り出した。


「あぁん? なんだばっ!」

 ナイフを投げたモヒカンの頭が一撃で吹き飛んだ。それを呆気に取られて見ていた他のモヒカンは、「パンチが、頭が吹き飛んだ」ということを理解するのに少々時間がかかった。


「こ、こいつ!」

 仲間を殺されたことにショックを受けつつも、モヒカンたちは身につけていた武器を手にとり、アンジュに襲いかかろうとした。



「ばっ!」「びっ!」「ぶっ!」「べっ!」「ぼぉっ!」



 その瞬間、急旋回して戻ってきたロケットパンチがモヒカンたちの頭や胴体を貫き、彼らは血を吹き流しながらその場に倒れた。体がピクピクと痙攣しているが、息はない。六人全員が即死であった。


「ふう……マリカを狙うなんて……絶対に許されないことよ」


 ロケットパンチがゆっくりとアンジュの右腕に戻ってくる。ガチャリと音を立ててロケットパンチと右腕が接続されると、いつものようにアンジュは右手を握ったり、広げたりして異常がないことを確かめた。


「ああ……」

 せっかく「王」についての情報が引き出せると思ったのに……とマリカは落胆した。しかしいつものように「ばかー! アンジュのばかー!」とは言わなかった。自分あたしのために怒ってくれたのだというのが少しだけ嬉しかったのだ。


 ◇


「ありがとうね、おかげで食料を奪われなくてすんだよ」

 貯蔵庫の前で老婆が涙を流しながら、アンジュの両手を握ってお礼を言う。隠れていた住民たちもみんな姿を表して喜んでいた。


 門番をしていた二人の男性も嬉しそうにアンジュの元へ近づいてくる。

「お嬢さん、強いじゃないか! 『ダン・ガン』の奴らをあっという間に片付けちまった!」

「最近、無法者アウトローを壊滅させたのって……もしかして?」

「ええ、私よ」


 自慢することもなく、アンジュがうなづくと、門番の男性二人だけでなく、他の住民からも歓声が上がった。


「マジかよ! そのすげえ力なら『ダン・ガン』の『王』も倒せるんじゃないか!? もちろん報酬は――何にもないこんな集落だけど――報酬はちゃんと出すからさ、引き受けてもらえないか!」

「報酬はいらない……ちょうど私も『王』を探していたところだから。だから……そいつの居場所を教えて」


(むむむ……そこはアイスクリームでしょ、アンジュ!)

 マリカはよっぽど声を大にして言いたかったが、かわいいくまのぬいぐるみのふりを貫き通した。




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 こんにちは、まめいえです。お読みいただきありがとうございます。

 次回、究極の戦闘集団(←この言葉、なんか馬鹿っぽくて好きなんです)「ダン・ガン」のアジトに潜入します! っていうか、王と戦います。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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