第4話「アンジュの裸を見ちゃダメー!」

 坊主頭のマッチョたちが五人。いずれも革製の鎧を身につけ、棍棒こんぼうやナイフといった武器を持っている。彼らは崩れた橋の陰から出てきたヴァルクの存在に気づくと、ベロを出しながら声を上げた。


「おっ、オッサン。いい斧持ってんじゃん! 死にたくなかったら俺らに寄こせよ!」


 ヘッヘッヘッヘ! とヘラヘラしながらも、マッチョたちはヴァルクを囲むように近づいてきた。どうやら巨大な荷物の後ろで風呂に入っている少女アンジュたちの存在には気付いていないらしい。ちょうど荷物が目隠しになっているようだった。


 ――ほう、一応戦い方は知っているらしいな。ちゃんと陣形を整えて、自分たちが有利になるようにしている。

 ヴァルクの手に思わず力が入る。持っていた戦斧をいつでも攻撃が繰り出せるように後ろに少し引く。


「何とか言えよ、オッサン! びびって声も出ねえのか?」

 そのときだった。



 キュイィィィン!



 ヴァルクの後方から空気の振動とともに、何かが彼の右頬をかすめて飛んで行った。ぎゅっと拳を握り締めた右腕、その付け根からは炎が噴き出ている。そう、ロケットパンチだった。


 グシャッ、ボキャッ、ドゴッ、グチャッ、ドカーン!


 ヴァルクと対峙していた無法者マッチョたち五人が、一瞬にして――頭を潰されたり、体の中心を貫かれたり、手足がぐちゃぐちゃになったりして――戦闘不能になった。呆気に取られているヴァルクの目の前で、ロケットパンチは役目を終えて持ち主のもとへと戻っていく。


 ヴァルクは後ろを振り返った。


 そこには、ヴァルクの商売道具の横に立ち、一糸いっしまとわぬ姿でこちらに向かって右手をまっすぐ伸ばしたアンジュの姿があったのだった。その身体の美しさに、思わずヴァルクは見入ってしまった。


 白く透き通った肌は傷一つどころか、ほくろ一つさえない。つるりとした滑らかさが見ただけでも伝わってくる。小ぶりな胸もきれいな形をしていて、まるで作られた人形のように非の打ちどころのない――


 そんなことを思っていたら、彼の視線にアンジュも気付いたようだった。

「……私の身体、まだ汚れているかしら?」



「アンジュの裸を見ちゃダメー!」



「ぶべらぁっ!」


 浴槽で極楽気分に浸っていたはずのくまのぬいぐるみのマリカが、アンジュの裸に見惚れているヴァルクにドロップキックを放った。ヴァルクの膝にも及ばない大きさのぬいぐるみだが、風呂に浸かっていたので水を吸い、通常よりも結構な重量があった。そんなマリカから繰り出された一撃の威力は凄まじいものがあり、ヴァルクは数メートル吹っ飛ばされて、瓦礫に背中を打ち付けた。


「ああっ、ノムラ! ごめんなさい、そこまでするつもりじゃなかったのに!」


 まさか自分のドロップキックでヴァルクがそこまで吹っ飛ぶとは思っても見なかったマリカは、慌てて彼に近寄り手をつかんで起き上がらせる。


「あはは……マリカは相変わらず規格外の強さだな……そしてアンジュも」

 ヴァルクは服についたホコリをパンパンと払いながら、苦笑いした。


 ◇


 ヴァルクが提供してくれたタオルを使って、アンジュは水分を拭き取り――マリカは「痛い痛い!」と言いながら体を思いっきり絞られて水分を落とし――小一時間ほど太陽の光に当たると、二人とも元どおりの姿に戻った。


 アンジュはマリカのもふもふ具合を確認すると、「ありがとう、ヴァルク。おかげですっかりきれいになった」と礼を言う。

「お役に立てたようで何よりだ」


「ノムラ! お風呂の代金はいくら払えばいいかしら?」マリカがぴょんぴょん飛び跳ねながら、ヴァルクに尋ねる。

「お代? いらんいらん。俺は風呂を貸しただけだ」

「ダメダメ! ちゃんとお代は払うからね!」


「そうよ。ただより高いものはないっていうもの」真顔でアンジュがそう言うので、マリカが「そうそう、借りを作ったらあとで何を要求されるかわかったもんじゃない……って、違うだろ!」とノリツッコミを入れる。


 当然、アンジュは無反応。ヴァルクも何と答えていいかわからず、苦笑いでその場を乗り切る。


「そのロケットパンチでこの辺の無法者アウトローをほとんど倒してくれたんだろ? お代はそれで十分。おかげでここらへんを自由に探索できるからな」


 よっこらしょ、とヴァルクは全ての荷物をまとめると、背中に担いだ。遠目から見ると巨大な荷物だけが歩いているように見えそうだ。そのくらい、彼の背負っている荷物は大きい。


「ところで……『』の手がかりは見つかったのかい?」

 ヴァルクのその問いに、マリカがちょっぴり悲しそうに首を横に振る。


「ぜーんぜん。さっきも誰かさんがパソコンをぶっ壊しちゃうし」


「パソコン! またそんな貴重なものが……で、アンジュの方は?」

「私も……全く。あいつが『』と呼ばれていたことしか記憶にないのよ」

 アンジュもお手上げといった表情で答えた。


「そっか……。俺も何か情報を仕入れたら二人に知らせるようにするよ……またすぐ会えるような気もするしな」


「そうね、ありがとう」

「ありがとノムラ!」


 じゃ、達者でな! とヴァルクは右手を上げて、二人に別れを告げた。そして背を向けて、歩き出したときだった。背後からマリカの大声が聞こえた。


「ノムラ! この辺にアイスクリームを売っている街はないの?」




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 こんにちは、まめいえです。

 本当はヴァルク野村もとても強いのですが、彼の活躍を描く前にロケットパンチが全てを粉砕してしまいました。いずれ、ヴァルク野村に再登場してもらう際に、彼の強さを表現できたらいいなと思います。

 少しでも「面白い!」とか「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひぜひレビューやフォロー、応援コメントをいただけると嬉しいです。

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