第219話 短期決戦



「シルフォード、掻き乱せ。『エアロ・ボムフォール』」


『はーい、暴れるぞ~』


 不死鳥みたいな姿になったシルフォードが突撃し、エルメアは大量の風の爆弾を生み出して降らせ始めた。

 先程までは里への被害を考えていたエルメアだったが、エルフがこの場から離れたのと同時に広範囲魔法を使い始めた。降り注ぐ風の爆弾は突撃しているシルフォードを間違いなく巻き込む程の規模だった。


『エルメアの魔法も私には効かないよ』


「だろうね。魔法が駄目なら武技で消し飛ばしてやればいい! 『夜天月斬』!!」


 左手の鋭い爪が5本の黒い刃を飛ばして、爆発する前に消し飛ばし…………右手のドルマだった刀身をシルフォードへ向けて振り抜いた。


『ッ!? 『エアロ・フルアーマー』!』


 シルフォードは風の爆弾で対応に困っているヨミに鋭い|嘴(くちばし)で突き刺そうとしたのに、あっさりと風の爆弾を消し飛ばされ、こっちにも反撃する余裕があったことに驚いたのだ。咄嗟に身体を風の鎧を纏うことで対応したが、刀身から放たれた『夜天月斬』は左手のよりも巨大で大精霊であっても完全に受けきることが出来ず、後方へ吹き飛ばされていた。


『なんなの!? 魔法じゃないよね!?』


「お喋りな大精霊のようね。ただの武技よ」


『はぁっ!? ただの武技!?』


「シルフォード。言っただろ、本気でやると」


 まだ本気ではなく、油断を残していたシルフォードに向けて注意をするエルメア。エルメアは次に放つ魔法を準備していた。


『あ~、魔法が効かなければ余裕だと思ったら駄目なんだね。もしかして、魔法ではなく近接寄り?』


「最初の見た目で騙されるな。『エアロブラスト・ギガントランス』」


 モンスターを操り、強力な魔法を使ったりと更に小さな少女だったら後衛だと間違われても仕方がないだろう。それでもエルメアは見た目に油断はしなかった。

 数で攻めても相殺されるなら、周りを巻き込む威力はある1点集中型の魔法で倒す。




『なら、私は動きを止めれば……がっ!?』


「素手でも触れるのね」


 『|等倍筋力(ビルドアップ)』と『|等倍加速(アクセレータ)』でパワーとスピードが3倍に上がったヨミがシルフォードの首を掴み、魔法を発射しようとしているエルメアへ向けて投げていた。


「しまっーー」




 バリィィィィィ!




 エルメアの魔法はシルフォードがぶつかってしまい、『魔法無効』が巨大な風の槍をガラスが割れたような音を立て消えてしまう。


「だらだらと戦っていられないから、終わらせてあげる」


「がぁっ!?」


 ヨミは魔法を破壊しただけで終わらず、すぐエルメアの懐まで入っていた。刀身を振り抜き、『風の守護壁』を無理矢理突破して身体に大きな切り傷を付けていた。


『エルメア!? よくもやったな!』


「『黒月牙突』」


 主人を傷つけられた怒りで突撃したが、動きを読めていたヨミは5本の指を虚空で突き刺し、シルフォードの身体に5個の穴を空けた。

 致命傷だったのか、シルフォードの身体は消え去り…………




「ごふっ、『エアロ・バースト』ぉぉぉぉぉ!!」


「お、まだ動けたのね」


 シルフォードが倒された瞬間にエルメアは近距離で風の爆発を起こした。爆発でお互いの距離は離れたが……大きな切り傷を付けられたエルメアは空中に浮いているだけでも苦しそうだった。


 ヨミはローレイとの約束があったので、ぎりぎり死なない程度に傷を付けたが気絶まではしなかったようだ。もう少し弱らせる必要があると思い、ドルマの本体である尻尾を前に出して『呪怨咆哮』で吹き飛ばそうとしたがーーーー




「『フレイム・バーニング』!!」


「『アイシクル・ブリザード』」




 地上から2つの魔法が撃ち込まれ、ヨミは攻撃を中止して避けることにした。ヨミへ攻撃した者は森の中から空中へ浮いていき、エルメアの前へ現れた。

 現れたのは2人。ルビー色の髪をした小さな少女と色っぽい雰囲気を出しているサファイア色の髪のお姉様で、エルメアみたいに長い耳をしているのが見えた。


「愚妹! なに、やられているのよ!? 私達の中で1番弱いといえ、下等生物にやられているんじゃないよ!!」


「こらこら、怒らないの。今はね……」


「ぐぅっ、マヤ姉様とアクア姉様……」


 どうやら、現れたのはエルメアの姉で2人はエルメアを助けに来たようだ。

 このまま、3人と戦うことになるかと思えば…………


「舐めやがって、ハイエルフに楯突くゴミはアタイが燃やしてやる!!」


「駄目よ。エルメアもこのままでは死んでしまうわ。それに……今はこの時ではないわ。場所も良くないしね」


「……チッ」


 マヤと呼ばれていたルビー色の少女は戦う気満々だったのに、アクアが意味深いことを言い、止められたことで闘志が萎(しぼ)んだ。


「……ふん、貴様! この戦いはお預けだ。また会った時はその日が命日になると思え!」


「うひひひ、その言葉は私のセリフよ」


「……やっぱり、ここで殺してやろうか?」


「こらこら。さっさと帰るわよ」


 アクアはヨミに目を向けることもなく、エルメアとマヤの肩に手を乗せた。転移をしたのか、一瞬で姿を消したのだった。




 消えた……このパターンは初めてね。そういえば、ボス戦みたいなフィールドを作る結界も発動していなかったっけ。




 敵に仲間が介入し、敵に逃げられるパターンは初めてだった。この先、またこのパターンの戦いがあったら面倒だなと思うヨミであったーーーー






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る