第218話 風の大精霊



「シルフォード、『風の守護壁』と『烈破鞭』だ」


 空中に浮いているエルメアの周りを薄い黄緑色の球体で包み、手には5メートル程の長さがある鞭を顕現させた。


「うひひひ、ドルマ!」


「ピギャァァァァァ!!」


 ヨミはドルマを装備したのと同時にドルマが伸びてエルメアを斬り裂こうとする。


「無駄だ」


「ギゲッ!?」


 ドルマが薄い黄緑色の球体に触れた瞬間に軌道を変えるように受け流されてしまう。


 そう簡単に届かせてくれないわね。なら…………


「囲め!!」


 正面から向かっても受け流されるなら、全方向から攻撃すればいい。エルメアを囲むようにもっと伸びていくドルマ。それに対して、エルメアは見るだけじゃない。


「逃げ場を消すつもりか。『波動風刃』」


 鞭を振り撒き、鞭に纏った波動が囲もうとするドルマを吹き飛ばそうとする。普通の武器だったら破壊されそうな威力だったが、ドルマの耐久力はHPと同等なので、そう簡単には壊れはしない。しかし、波動で押し込まれて出来た隙間から脱出される。


「我にひれ伏せよ『エアロブラスト・グラビィドン』」


「お断りよ! 『乱月光波』!」


 全てを押し潰すような圧力がヨミへ向かい、それに反撃する。両方の威力は同等で相殺して終わるかと思った先に…………危険察知が発動した。

 ヨミの右からエルメアからの魔法とは別の魔法が来ていた。


「キッカ!」


 腕に巻き付いていたキッカで防ぐ。


「そんなのを隠していたのか」


「私は用心深いからね……成る程。貴女と別に大精霊が個別で攻撃が出来るのね」


『クスクス』


 横から攻撃していたのは、エルメアに憑依した筈のシルフォードだった。シルフォードは憑依中でも分身を使い、自分で攻撃が出来る。大人の女性の姿をしているが、中身は子供のように笑っていた。


「シルフォード、遊ばずに本気でやれ。あいつはまだ本気を出しておらん」


『本気でやらないと危ないー?』


「あぁ」


 エルメアはヨミのことを警戒していて、最初から本気で行くつもりだ。その言葉を聞いたヨミは実力を認めてもらえているのは嬉しく思うが、同時に面倒だなと思うのだった。


 容姿で油断してもらいたかったけど、このレベルになると実力を見抜くのが上手いよね…………


 ヨミもエルメアのことは認めていた。そう、アルバドムと戦った時と同じように油断ならぬ相手だと…………




「ちょうど、新鮮な魂は溜まったし……『魔融魂合』!」


「!? やっぱり、『悪堕ち』を持っていたなら、それも持っていたか!」


 ヨミが融合するのはドルマ。エルメアと戦うならこの姿が一番良いと判断した。本気で戦うなら、『|堕天王(ルシファー)』が良いのだが、ヨミは何か予感を感じていた。まだ本気を見せない方がいいと…………

 どうやら、エルメアは『悪堕ち』と『魔融魂合』がセットであることを知っていたようで、それほどには驚いてはいなかった。


「……避難はしたようだな。勿体ないが、里は諦めることにしよう」


「あら? 何を見せてくれるかしら?」


「本気の大精霊の力を見せてやろう! 『聖霊招天』!」


『あは、来たぁぁぁ!』


 シルフォードがエルメアの後ろに現れ、姿を変えていく。その姿は赤色ではなく薄い黄緑色だが、不死鳥みたいな鳥の姿へなっていた。


「シルフォード、必ず倒すぞ」


『あははは、私に勝てないよ。終わりだよ!!』


「ふぅん、それが大精霊の本気ね……」


 どんな能力を持っているかわからないが、先程のと大きくは変わらないと判断し、『乱月光波』を放って隙を作ろうとしたが…………




 放った魔法がシルフォードに当たる前に消滅した。




「な、魔法を!?」


「そうだ。大精霊が本気を出せば……魔法などは通じん!」


 大精霊は魔法の申し子であり、本気の姿になった大精霊には『魔法無効』が付き、あらゆる魔法が通じなくなるーーーー






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