第213話 はぐれダークエルフ



《はぐれダークエルフ視点》



 どうして、こうなっちゃうの。ちゃんと警戒して、1匹ずつ狩ろうとしたのに。



 逃げながら弓矢と魔法で追ってくるモンスターの群れに攻撃している少女のダークエルフがいた。10歳に満たない子供がモンスターの群れに襲われている理由は少女自身にもわかっていなかった。

 襲ってきているのは、オニグモと呼ばれている群れで動くモンスターだ。少女はオニグモとは今まで戦ったことはあるが、それは弓矢で1匹だけに当てて、釣り戦法によって1対1と言う構図を作り出していた。


 1匹なら少女は確実に勝てる。だから、自分自身のレベルを上げる為にいつもように1匹だけを釣りだして戦うつもりだったが…………


 まだ攻撃はしてないのに! 距離もあった! なのに、突如に群れで来るなんて!


 少女が思ったように、まだ攻撃はしていなかった。なのに、50メートルの距離になった瞬間に5匹のオニグモが方向を変えて走り出してきた。少女がいる方向に向かって…………




「こ、来ないで! 『アースボール』!」




 少女の放った土魔法が1匹のオニグモに当たり、足を止められたが次々と別のオニグモが進んでくる。森の中なので全員で一気に攻めてこられないのは少女にとっては助かるが…………それも時間の問題だ。


 何処まで逃げる? あそこに……? いや、助けてくれはしない。邪魔な私がいなくなるなら逆に攻撃されるかもしれない!


 数年前、隠れ里にいたエルフ達に狩りの途中でお父さんとお母さんが襲われていた所を無視されたように…………


 少女はまだ小さかったから助けはされたが、両親は襲われていたモンスターの生け贄にするように、弓矢で脚を撃ち抜いてエルフ達は逃げた。泣き叫ぶ少女を無理矢理連れて…………




『なんで私だけを! お父さんとお母さんを助けてくれなかったの!?』


『お前はまだ子供だったからだ。それに、あのモンスター達はお前の両親が連れてきた。なら、自らが責任を取って対処するのが当たり前だ』


『ダークエルフは魔法では我がエルフに劣るが、戦いは出来よう。なら命を懸けて戦うのが責任というモノだ』


『だったら! なんで、脚を怪我させたの!?』


『責任を放って逃げようとしたからだ』


 エルフと少女の価値観が違い、理解は出来なかった。エルフにとっては我が種族が強者である自負を持ち、他の種族を見下している節がある。同じ隠れ里にいる少数のダークエルフや洞窟に住む道具作りが得意なドワーフも見下しており、役に立たない者は無視される。

 ドワーフと隠れ里を共有しているのは、道具作りで役に立つから同じ領地を利用することを許し、見下してはいるが守ってあげているのだ。ドワーフの方も強者のエルフがいれば、モンスターに襲われることが減り安全が保証されるから一緒にいるだけ。


 そんな隠れ里にて、ダークエルフの少女はエルフの価値観では10歳になって大人として扱われることになる。つまり、子供だから守ってあげる必要はなくなり、1人で生きていく必要が出来た。少女は両親がいなくなってから1人で生きてきたからエルフの助けが無くても大丈夫だが、エルフにとってはダークエルフの少女は側にある石っころにしか思われていない。もし、邪魔になれば処分されるだろう…………その程度の認識でしかないのだ。






「ッ!? なんで!?」


 少女が逃げた先にはクモの巣が張り詰められていた。追ってきているのが5匹だけで、クモの巣を張れる時間があるようには見えなかった。つまり…………


 まさか! 他にいた!?


 そう、少女が気付くのと同時に1匹のオニグモより大きいクモが現れた。


「あ、あぁ……ジュウガキグモまで!」


 現れた大きなクモは獣と鬼が融合したような顔をしており、鋭い牙を持っていた。オニグモはジュウガキグモの部下であり、部下に獲物を追いかけさせて、ボスは回り込んで罠を張っていた訳だ。


 周りは張り詰められているクモの巣、後ろは追ってきているオニグモの群れ、正面にはジュウガキグモ…………1匹のオニグモと互角の少女では絶対絶命だろう。しかしーーーー




「ま、まだ! 私はまだ生きていなくてはならない! あいつらを見返す為にぃぃぃ!! 『ダークニードル』!!」




 少女は生きる為にジュウガキグモへ闇魔法を放った。しかし、ジュウガキグモは少女が予想していたよりも素早い動きで『ダークニードル』を避けて、鋭い脚で少女を貫こうとする。避けられる速さではなく、このまま少女は貫かれる……………






 ことにはならなかった。




「うひっ、この状況でも生きるの諦めないのは素晴らしいわ」


「え…………」


 少女は日傘を差した少女の脇に抱えられていた。横にはジュウガキグモが突き出した脚が刺さっていた。少女は助けられたのは理解はしたが、助けられたのが自分より少し大きいだけの少女だったことに驚愕を隠せなかった。




「皆、行くわよ。大きいのは私がやるから他は頼んだわよ」


「はいはいよ」


「あは♪ キモーイクモだねぇ♪」


「レベルは32か。なら問題はねぇな」


 後から3人が現れ、少女は目を丸くする。それよりも…………




 え、えっ? この人、なんと言ったの? 大きいのは私がやるって……!?




「ダークエルフの少女、1人で攻撃を避けられないでしょ? なら、大人しく抱えられていなさい」


「え、え? 待っ……」


「来るわ!」


「キャアァァァ!?」


 今まで味わったこともない速さに、襲ってくるジュウガキグモの攻撃に少女は悲鳴を上げてしまう。恐怖で身を固くするが、助けている側にしてはやり易かった。




「さぁ、楽しませてくれるかしら?」




 なんで、こんなことに!? 助けてくれたのはありがたいけど、誰!?






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