第202話 撃退



 美世は困っている少女達の元へ向かう。


「ねぇ、女の子が困っているのを察せないのかしら?」


「む? 何、邪魔を…………まだ子供じゃねぇか」


 何度も言うが、美世は中学生……悪ければ小学生とも見られる容姿だ。チャラい男からにしたら、美世は正義感で動いたウザい子供にしか思われてないだろう。


「……もう一回言うけど、少女が困っているのを察しなさいよ」


 子供と言われたことにイラッとしたが、我慢して言葉を続けるが…………


「あー? 子供が大人の話に割り込むじゃねぇよ。さっさとどっかに行けよ!」




 ブチッ




「あ、あんた! まだ小さい子を怒鳴ーー」


 助けようとしていた少女が美世に対して怒鳴る男から庇おうとするが、その前に美世が動いた。




「私はもう大人だ! 子供じゃない!!」


「うごっ!?」


 瞬時に男の足を払い、胸に手を置いて床へ叩きつけた。咄嗟のことで男は受け身を取れず、背中を打ち付けられたことで痛みに身体が硬直する。


「うぐ、お、お前ーー」




 ドンッ!!




 言葉を続けさせる前に、顔の横を大きな音を立てながら踏み込んでいた。


「あら? 聞こえなかったわ。さっき、何を言おうとしていたかしら?」


「あ、あぁ……」


「…………うひ、うひひひ、まだ立場がわかっていないなら、また踏み込んであげようかしら? 今度はズレてしまうかもしれないけどもーー」


 美世は黒い笑みを浮かべて、脚を上げて少し横へ動かしーーーー




「ひっ、すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」




 男は美世が本気でやると察したのか、恐怖を浮かべた表情で謝りながら立ち上がって出口へ走り出したのだった。


「……ふん、相手を見て言葉を選びなさいよね」


「あ、あの……」


「えっと……少しやり過ぎのような……」


 ナンパされていた少女達が恐る恐ると話し掛けてきた。近くで見ると2人の顔が似ていて、姉妹だと推測出来た。


「ん? いいのよ、私がピチピチの肌をしているだとしても、もう27歳なのよ。それなのに、子供だとふざけたことを言う男が悪いわ」


「えっ!? 27歳!?」


「う、嘘……私達よりも年下だと……」


「うん? 何か?」


「「いえ、なんでもありません!!」」


 少女達も悟った。美世に歳や容姿のことに突っ込んでは駄目だと。








「へぇ、双子なのね。姉妹だとわかったけど」


「はい。先程は助けて頂いてありがとうございます」


「ありがとうございます! 美世さんは強いんですね! 強いのはジムで鍛えているからですか?」


 2人は高校生で、同じ学校に通っている仲が良い双子だと。今の美世はジャージの姿なので、他の部屋でトレーニングをしていたと思われているようだ。


「いえ、今日から入会したばかりなのよ」


「えっ!? もしかして、前から何か格闘技を?」


「してないわね」


「そうなんですか!? どうして、あの動きが?」


 格闘技も習っていない美世があっさりと男を撃退出来たのは…………


「VRゲームのお陰ね。そのゲームで結構動いているし、対人戦だって慣れたモノよ」


「え、VRゲーム……どんなゲームを? 名前を聞かせても宜しいですか?」


「名前? 構わないわ。『イルミナ世界』よ」


 『イルミナ世界』と聞き、2人とも驚きで目を見開く。




「…………さっきの口調は」


「…………もしかして」





「ん? 何か言った?」


「「ううん、なんでもないよ」」


 声が小さくて聞こえなかったが、2人がなんでもないと言うので気にしないことにした。


「あ、そろそろ会員証が出来る頃ね。私は美世。またジムで会ったら宜しくね」


「あ、私は奈々です」


「寧々だよ! またね!」


 大人しそうなのが姉の奈々で、元気そうなのが妹の寧々。この時間に通うつもりなので、また会うことはあるだろうと、自己紹介してから別れたのだった。


 美世が受付に向かう中で、2人は向き合って小さな声で話していた。




「……もしかして、有名なあの方が。名前も逆にすれば……」


「かもね! 私達も頑張らないとね!」


 2人共が笑みを浮かべて、握り拳を作りながらこれからのことを話し合うのだったーーーー






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