第173話 感じとる空気



《アルベルト視点》



「…………」

「アルベルト? ボーっとしていて、どうした?」

「いや、なんでもない」


 アルベルト、『女神の使徒』のパーティは見つけた新たな中ボスへ挑もうとする道中だった。中ボスがいるエリア前で作戦会議をしている途中、アルベルトが話を聞いているとは思えないぐらいに、ボーっとしていたことに、ダンから突っ込まれるが…………


 なんだ? この胸騒ぎは?


 アルベルトだけが何かを感じ取ったが、その理由は思い当たらなかった。可能性としては、あのヨミが率いる『銀月の使者』だが、最近は何かをしているような噂は聞いていない。せいぜい、ダンジョンにいるプレイヤー達がたまに襲われているぐらい。


「すまない、少しボーっとしていた」

「あら? 疲れているのなら、別の日にするけど?」

「いや、大丈夫だ。問題はない」


 この胸騒ぎはまだ何も起きていないのに、仲間に話して不安させたり、目的も無いままに動いても無駄にさせるだけと判断した。


 まぁいい、何かが起きたら動くで問題はない。


 アルベルトはすぐ切り替えた。関心を中ボスへ向け、作戦会議を続けるのだったーーーー






《ハイド視点》



 ハイドのパーティは第1の街、アルトの街にいた。最前線クラスの強者が最初の街にいるのは理由があった。

 最近は第1のフィールドにあるダンジョンにて、レッドやイエローの襲撃が他のダンジョンよりも多い為だ。これでは、初心者が安心してダンジョンを使えないので、たまに警備員みたいなことをしている訳だ。


「今日は現れたか?」

「いえ、確認はされていないみたいです。もしかして、今日は現れない日だったかも?」

「そうかもしれんが、油断はするなよ。ここにいるプレイヤーは奴等に取っては美味しい餌なんだから、守ってやらんとこのゲームを止める奴等が増えてしまうからな」


 ここに集まる者はたまにログインしていなくてレベルが低い者、戦いが苦手な生産者などで、レッドやイエローに襲われたら一堪りもない者ばかり。レッドやイエローが襲うのに、経験値は旨味はないが……ドロップ品は違う。ダンジョンで取れるドロップ品は生産者に取っては価値が高いモノであり、レッドやイエローにも役に立つので狙われる理由はあった。


 このまま、今日は誰も襲われないならいいが…………


 ハイドは第2のフィールドにあるダンジョンで警備員をしている他のパーティへ連絡をしてみた。


『そっちはどうだ。現れたか?』

『いや、平和なモノだ』

『そうか。引き続き、頼むぞ』


 もう1つ、第3のフィールドにも連絡したが、レッドやイエローは現れたと連絡はなかった。




 ……平和ならいいが、なんだ? あいつらにしては、大人しすぎないか?




 あいつらに襲われる日はランダムで襲ってこない日もあったが、何故か今日は嫌な予感を感じていた。平和なのはいいことだが、嵐前の静けさのように感じていた。


「…………む? ルイスか」


 ハイドが考え事をしていたら、ルイスからメールが来ていた。その内容は…………


「何? アルトの街にある貴族街が騒がしいだと?」

「どうしました?」

「ルイスから連絡があった。アルトの街にある貴族街が騒がしいそうだ。何が起きたかわからんが……」

「貴族街ですか? 難しいですね……」

「あぁ、俺達では入れんからな」


 貴族街へ入る為には、ある条件があった。簡単な方法としては、貴族の誰かと仲良くなればいいが…………貴族と出会う切っ掛けがないのだ。


「どうして、ルイスは騒ぎがあるとわかったのですか?」

「冒険者のギルドで聞いたらしい」

「……では、貴族街の近くに誰かを潜ませておきますか?」

「……俺が行く。ここは任せられるか?」

「わかりました。何人か連れていって下さい」


 ハイドはルイスからの情報を信用し、数人の仲間を連れて、貴族街へ向かった。




 それがルイスの狙いであることを知らずに…………







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る