第172話 運営側回 その4



 ある部屋にて、小さなテーブルに乗った1本の蝋燭(ろうそく)を中心に、複数のぬいぐるみが並んでいた。

 全員がぬいぐるみにログインしたのを確認した後、最初に声を上げたのはキツネのぬいぐるみ。


『……なんのつもりで、この雰囲気にした?』


『気分だ』


 キツネの中身は所長の孫であり、この場にいる人物の中で唯一、所長へのタメ口が許されている。

 所長であるウサギのぬいぐるみからの返事は深い意味もない、気分だったからとこんな雰囲気にしたのだ。


『気分って……どんな気分になれば、こんな雰囲気を作り出すんだか……』


『キツネちゃん、寂しいからじゃない?』


 キツネの愚痴に答えたのは、羊のぬいぐるみで、所長の心情を予測してみた。


『はい? あの所長が? ふっ、まさか』


『お主はワシのことを何だと思っているんだ? ワシだって、寂しいと思う時もあるわい!! …………まぁ、今はそんなことよりも、集まって貰った理由はわかっておるな?』


『……はぁ、わかっていますよ』


 急な切り替えに呆れる目で見詰めるキツネのぬいぐるみだったが、すぐ切り替えて、話を続ける。


『アデル王国の第一王子が死亡したことでしょう?』


『これによって、幾つかの予定していたクエストが潰れましたね。これからどうしましょうかな?』


 タヌキのぬいぐるみから聞こえる声には言葉と違い、何処か楽しそうにしているような雰囲気があった。


『んー、ヨミちゃん達はそれで終わらせるつもりはないのは、あの会議からわかっていたことだしね』


『ぶひぃ、そうでしたら、そうなると仮定して動くしかありませんよ~』


 ルクディオス殿下が死んだだけで終わらないのは、ヨミ達が会議しているのを見ていた運営側の人達は知っていた。




『まさか、王城を落とそうと動くのは予想外でしたがね』


『普通なら不可能だと言いたいが……あいつらなら何とか出来そうなのが怖いところだな』


『わかっていると思うが、この件に対しては手出しは無しだ』


 悪役のプレイヤーとして動いているだけで、王城を落としてはいけないルールもある訳でもない。なので、アルデュール陛下が有利になるような調整はしないと言うことだ。

 運営側にとっては、アデル王国が消えることになっても運営に支障はない。プレイヤーが困ることになるが…………


『では、クエストに関しては破棄で?』


『今は死亡した者に関するクエストだけでいいだろ。成功すると決まった訳でもないし、アデル王国の王は第一王子とは比べにもならないぐらいに強いしな』


『あの子は特殊な力を持っているからね〜』


 所長達はヨミには期待はしているが、そう簡単に王城を落とせるとは思っていない。何せ、さっき言った通りに王であるアルデュール陛下には特殊な力が備わっている。


『……よし、ワシからの話はこれだけだ。お主らからは何かあるか?』


『『『……ないですね』』』


 ウサギ以外のぬいぐるみも話したいことはないようで、会議はこれで終わることになる。一人一人とぬいぐるみからログアウトしていく中で、所長はまだログインしたままだった。

 最後の1人になると、小さな声を漏らしていた。




『……まだ足りないな』




 それだけの言葉を残し、ウサギのぬいぐるみから目の光が消えるのだったーーーー






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