第171話 逆転



 ネヴィルアが使った結界、『逆転結界』はアイテムの強化や装備の付加されている強化を逆転させる。装備を解除したジュンとジョーは効果を受けることもなく、ルクディオス殿下の場合はーーーー


「な、何? 剣と鎧が重く……? ぐっ!?」

「混乱している場合じゃないぞ?」


 ジョーの拳がルクディオス殿下の頬へ突き刺され、吹き飛ばされる。その時に『閻雷』を放したお陰で、身体に掛かっていた重さが消えたことで、自分の身に何が起きていた理由を理解した。




「ぎ、逆転……っ! 装備解除!」




 ルクディオス殿下も同じように全ての装備を解除した。そして、『閻雷』もアイテムボックスに戻した。


「もう気付きやがった!?」


「気付かれても問題はない。先に準備してある俺達が優位だ」


 ジュンはそう言い、薬品が入ったビンを取り出し、ルクディオス殿下に向けてぶち撒けた。


「また酸か? 『ホーリーバリア』!」


 魔法で防ごうとするルクディオス殿下だったが…………薬品は『ホーリーバリア』をすり抜けて、ルクディオス殿下に掛かる。


「は? 酸でも毒でもない? ……まさか!?」


 『ホーリーバリア』は発動者を傷付ける攻撃を防ぐ魔法。しかし、回復薬みたいに発動者に対して、害がない物はすり抜ける。そして、ジュンが投げた薬品は…………


「ふはっ、ただの強化薬だよ。よく効くだろ?」

「貴様……」


 その強化薬、それも『逆転結界』の対象にもなる。つまり、強化を逆転させて弱体化させられるのだ。しかも、装備と違って、解除が容易ではない。


「AGIを下げたが、STRはまだ変わっていないから気を付けろよ?」

「無理はしねぇよ。それに……もうすぐだしな」

「もうすぐ……?」


 ジョーの言葉に疑問を持ったルクディオス殿下だったが、すぐわかることになる。





「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」





 生き残っていた近衛騎士の悲鳴によって。


「……終わった。2人はもう下がっていいよ」

「これでルクディオスは終わりだな」

「任せたぜ」


 ルクディオス殿下が見たのは、近衛騎士のリーダーが元は仲間であったアンデッドによる攻撃で死ぬ姿だった。近衛騎士のリーダーもルクディオス殿下のように装備を解除していたが、逃げ切れずに負けてしまったのだ。


「なんだ、その動きは!? 何故、結界の影響を受けていない!?」

「……非生物だから」

「非生物? そうか……アンデッドは生きていないからか!」


 ルクディオス殿下は襲ってくるアンデッドの攻撃をなんとか避けていく。アンデッドが装備を着たままなのに、普通のように動けている理由はネヴィルアが言った通り。

 それから、ネヴィルアが使う人形も結界の影響を受けないので、その結界は人形使いに取っては相性が良い。

 もう、ルクディオス殿下には出来ることはアンデッドに強い聖魔法で対抗することしかなく、アンデッドを破壊されたら新しい人形を召喚する予定だった。




 だが、その通りにはならなかった。




「……え、煙幕!? 人形、私の周りに!」


 自分を狙われる可能性を考え、側にいたネクロマンサーの人形を盾にしようとしたが…………それも違った。


「な、逃走したぞ!?」

「もうドアを抜けたぞ! 追い掛け……くっ、間に合わない!」


 ネヴィルアの結界範囲はカロナと同じ、半径25メートル。つまり、ドアを抜ければ、範囲から逃れる。先程、投げた強化薬の効果が元に戻っていることもあり、既にドアを抜けたルクディオス殿下を追い掛けるのはもう無理だ。




「ヤバイな……計画が失敗したらヨミが何を言うか……はぁ~」




 ジュン達はルクディオス殿下を逃さずに殺す必要があったのだ。プランBを進める為にはーーーー








《ルクディオス視点》




 はぁはぁ、逃げ切れたか? 仲間を失い、逃げるしか出来ない騎士団長で許してくれ。アルデュールに伝えなければ。


 ルクディオス殿下はまだ戦うことは出来たが、相手は復活が出来る渡り人であり、相討ちは損でしかない。それよりも、アルデュール陛下に伝える方が重要だと判断したのだ。


 下水道を抜け、森に入って追跡がないか確認しながら街門がある方向へ向かう。森を抜けて街門に着ければ、確実にアルデュール陛下へ伝達することが出来る。

 そろそろ森を抜けられそうだった時に、正面から殺気を感じて足を止めてしまう。


「追い付かれたか? 何者だ!?」

「……うひ、うひひひひひ、念の為に動いて良かったわ」


 声が聞こえたと思えば、正面の森に紛れていた全身モザイク、仮面だけがはっきりと浮き出ている人物が現れた。そう、アルティスの仮面を被ったヨミだ。




「何者かだったわね? 貴方を殺そうとしていた仲間のリーダーよ。ねぇ、死んでくれる?」

「ふざけるな! 何の為にアデル王国を狙う!?」

「狙い……? うひっ、簡単なことよ。それはねーーーー」





 ただの暇潰しよ。





 ルクディオス殿下は自分の血管が切れる音を聞いた。


 暇潰しだと? その為に、アデル王国の平和を脅かそうと! 許せるものか!


「『魔黒装召喚』、『閻雷』ぃぃぃ!!」


 本気で目の前にいる悪者を倒す。そして、アデル王国に平和をーーーー





「うひっ、楽しませてよね? 『ーー結界』」










 夜が明け、陽射しが射してきた時ーー




 森は荒れ果てて、血溜まりがポツポツと赤色に濡れていた。この中にルクディオス殿下が首無しで倒れているのだったーーーー






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