第165話 王族の兄弟



 第一王子のルクディオス殿下はアドル王国の騎士団長と言う地位に収まり、アドル王国の平和を守っている。一時は貴族達がルクディオス殿下を王へ押し上げようと活動していたが、本人には王へなろうとは一切も思ったことはなかった。

 その要因はルクディオス殿下の弟であるアルデュール陛下にある。


 現王である第二王子のアルデュール陛下は控えめに言って……才能の化け物であった。子供の頃からその才能が開花し、2つ歳上であったルクディオス殿下との差が開き始めた。



 学術では10歳でアデル王国の最高レベルである学院を飛び級で卒業した。



 剣術は8歳に指導者であった元騎士団長を倒し、その時の試合で元騎士団長が引退を決意させた。



 魔法も全種類の適性を持ち、宮殿魔術師にも劣らない実力を発揮した。



 政治に関する知謀も学院を卒業した後、王に選ばれた事から詳細を言うまでもない程。



 最後に……人望。アルデュール陛下は若いながらもアデル王国で高い人気があり、嫌っている人は極僅かしかいない程。



 それらの才能で、ルクディオス殿下が勝っているモノは1つもない。剣術と魔法はアデル王国の中でも高い実力に才能もあるが…………それもアルデュール陛下には届かない。

 だから、ルクディオス殿下は王になることは諦めた。しかし、ルクディオス殿下はアデル王国を愛しており、役立てる様にと騎士団長を目指した。


 弟に様々な才能に劣るルクディオス殿下だが、嫉妬や妬みは無く……アルデュール陛下の人望もあって、仲は悪くない。それどころか、暇な時間が出来た時は砕けた口調で会話をしながら、一緒に紅茶を楽しむ関係でもあった。








 夜、ある部屋で2人が紅茶を楽しんでいた。その2人は優しい雰囲気を持った人物のアルデュール陛下と堅物そうな雰囲気を持った人物のルクディオス殿下であり、時間が空いたので2人でゆっくりしていたが…………


「そういえば、最近は変な噂が広まっていると聞いたけど、何か知らないか?」

「……くだらない噂なので気にすることはない」


 アルデュール陛下が言ったように、最近では変な噂が広まっていた。ルクディオス殿下は眉を潜めて、気にするなと言うが…………


「なんか、僕が悪魔と契約しているから王になれたとか言っているみたいね?」


 アルデュール陛下は苦笑しつつ、話を続ける。


「知っていたのか……しかし、悪魔だと? わかりきった嘘に騙される馬鹿はいないだろう」

「でもね、噂を広めた人がいるってことだよね。おそらく、僕のことを快く思わない人が広めたかもね」

「そうだな。騎士団でも調べている。他国のスパイが流した可能性もあるから、調べない訳にはいかんからな」


 アデル王国の領地を狙う他国もいるので、その線も考えていたが……


「うーん、多分だけど他国は関係してはいないと思う」

「何? アデル王国にいる誰かの仕業だと思うのか?」

「僕はそう考えているけど……それだけじゃないような気がするんだよね。勘だけど」

「……はぁ、お前の勘は良く当たるが、今回は考えすぎじゃないのか?」


 アデル王国は以前、第一王子派と第二王子派と別れていたが、今はアルデュール陛下が王位し、ルクディオス殿下が王へ成る気がないと発表してからは対立することが無くなっていった。だから、貴族の中で王族に関する争いはないと考えている。


「貴族が死ぬ事件はあったが、噂とは関係はないだろう。平民は人気が高いままだろ?」

「うん、人気があるのは嬉しいことだけど……平民は違うと思う」

「なら、他にいない…………いや、渡り人がいたな」


 少し前に別の世界から来たと聞いているプレイヤーと呼ばれる渡り人がアデル王国へ入ってきている。まさか、渡り人が? と思ったが……


「そんなことをする理由がないな。渡り人も違うか」

「………………」

「アルデュール?」


 渡り人と聞いた時から、アルデュール陛下は何かを考え込み始めた。しばらくすると、アルデュール陛下は顔をあげて、ルクディオス殿下に1つの頼みをするのだった。




「ねぇ、余裕があった時でいいから…………」








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