第164話 崩すなら足元から



 夜の帳が下りてくる時間になると貴族街で事件が起きていた。それも、3日も続けてだ。




 幾人かの貴族である人物が殺されており、その首が狩られていた。その危機から警備を厳しくする貴族が増えてきた頃ーーーー






「チッ、どういうつもりだ!」


 50代の男性が青筋を浮かべて、自室の机を叩く姿があった。その人物はアドル王国では高い地位に着いており、第一王子の教育係を請け負ったことがある程だ。

 それが、自室で怒りで顔を赤くしている理由とは?




 第一王子派の仲間達が殺されている? しかも、3日も続けてだ! 第二王子派の誰かがやった? いや、既に王になっているから、争う意味はない筈……!




 男性が考えている通り、最近の事件で被害を受けているのが第一王子派の仲間達だったからだ。偶然では片付けられず、犯人を絞り込もうとするが動機が薄い第二王子派の貴族しか思い当たらない。貴族を狙った、ただの盗賊ならまだやりようはある。警備を厚くして守りに入っている間に衛兵が捕まえるように指示を出せばいいだけなのだ。

 しかし、犯人は明確に第一王子派の貴族を狙っている。だが、その犯人が誰なのかはまだ絞り込めないでいた。




 早めに見つけないと、差を付けられ……ッ!?




 背後から音が聞こえ、振り向くが…………そこは窓しかない。

 気のせいだったかと思い、正面へ向くとーーーー2人の男女が立っていた。


「なっーー!?」

「おっと、『サイレントルーム』だよ♪」


 黒いローブを着た女性がある魔道具を使うと、薄い膜が部屋中に張り付いた。


「貴様ら! いつの間に……け、警備員は何をしとるんだ!? 早くこっちに来い!!」

「うはははっ、もう遅いぜ。この部屋からは音が外に伝わらねぇぞ」

「な、早く来いぃぃぃぃぃ!!」


 何度も叫ぶが、誰も来る様子がない。


「だから、無駄だよ♪ それとも、死体を増やされたいのかな??」

「しっ!? まさか、最近の事件はお前らか!?」

「正解♪ でもね、私達は別に貴方達の命を狙っている訳でもないよ♪」


 ワシの命を狙って……いない?


「そうだな。こっちの要求を断らなければ、あいつらも生きていたからなぁ」

「よ、要求だと……?」


 男性の方はマスクを着けており、顔は見えないが笑みを浮かべているのは想像出来た。すぐこの場から逃げ出したいが、警備を抜けてここへ来たことから高い実力を持っているとわかる。背を向けたら殺されると思い、必死に頭を動かした。


「要求だと? まさか、金じゃあるまいな?」

「違うよ♪」


 違うとわかっていながらも、他に思い当たらないからそう聞くしかなかった。予想通り、違ったようで黒いローブを着た女性がバツを作っていた。


 金なら、あいつらも死ぬことはなかっただろうな。しかし、何を求めている?


「なぁに、難しいことじゃねぇ。第一王子派の奴等を纏め、アルデュール王に反逆しろ」

「なぁっ!? そんな馬鹿なことをしろと!」

「クククッ、そうだ。その働きに対しての報酬は色々考えているが、その1つだけ先に教えてやるよ」


 報酬だと?




「クククッ、お前の主人である第一王子を王にしてやるよ」

「…………は?」

「別に俺達は王になりたい訳でもねぇし、リーダーも面倒な地位はいらないだろうしな」


 こ、こいつらは何を言っている?


 いや、頭では理解はしている。しかし、心が理解を拒んでいた。


「どうだ? お前はアルデュール王よりも、第一王子を王にしたいだろ?」


 確かに、主のルクディオス様を王にしたいと動いていた。だが、反逆して王にするのは…………!


「あははは♪ 怖いの? 反逆することが?」

「ッ!」

「恐れることはねぇ。俺達もその反逆を手伝ってやるよ」

「それとも、今の王にも忠誠心を持っているの? 死んだこいつらみたいに〜♪」

「な、なっ……」


 黒いローブを着た女性が投げたのは3つの首だった。


「お主ら……!」


 その首は被害者となった貴族、第一王子派の仲間であった。その表情は苦しみしかなかった。


「つまんない答えだったから、こうなったんだよ♪ なんか、兄弟の仲は良く、アドル王国は平和を保てているから反逆はする必要がないとか? なんだよー、男なら上を目指すべきなんだよ!」

「お前は女だろうが。こいつの話は無視していいぞ。で、どうする?」


 どうすると? …………答えは最初から決まっている。ワシの主はルクディオス様だが……王になることを望んではいない! こいつらにアドル王国の平和を乱されてはたまるか!!


「その答えはーー「あ、今回からは断ったら家族ごと殺すね♪」っ、な、なにを……」


 ワシだけの命だけでは足らず、妻と娘をも狙うつもりなのか!?


「俺達も時間がそんなにある訳でもないし、面倒になった」

「そ、その理由で……」

「どうせ、反逆は必ず起きるし、家族ごと殺されるよりもハイと言って生きた方がいいよ?」

「反逆が必ず起きる……? そんなことは……」

「必ず起きる。リーダーは決めたら必ずやる。だから、無駄なことはせずにハイと言えば、家族は助かるぞ?」


 そ、そんな……大人しく従うしかないのか? い、いや! 今は大人しくして、従う振りをして…………




「あはっ、裏切り防止にこの契約書を書いてもらうわね♪」




 そ、それは……血の契約書!? そんなものまで持ち出して! これでは……


「……わかった」


 もう何も出来ないと肩が項垂(うなだ)れるのだったーーーー







 

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