第131話 第3回イベント 想い



 マリーナの街でピクトが暴れている中、会場では観客の半数が討伐しに出ていき、ヨミとアルベルトは周りの騒音を無視して向かい合っていた。


「ねぇ、私のスキルでは、ある代償が無いと発動出来ないのがあるの」

「代償か? …………まさか、この状況を起こしたことから自らが払う代償ではないな?」

「当たり~。運営はよく考えるよね。まさか、NPCの魂を代償にするスキルをね」


 普通のゲームではあり得ない、道徳に反しそうな代償があり、そのスキルをヨミは2つ持っている。それが、今使っている『悪堕ち』、そしてーーーー




「溜まったわ。見せてあげる、新鮮な魂を使ったスキルを。『魔融魂合』!」




 このスキルは『悪墜ち』と一緒にセットになって手に入れたモノ。『魔融魂合』の発動には、1時間以内に殺したNPCの疑似魂が10個必要になり、普通なら大会中に発動は難しかったが、ヨミが魔物使いであったことに功を奏した。

 テイムがレベル10になると、自分のテイムモンスターをフレンドに貸し出すことが出来るようになり、メリッサにピクトを貸し出していた。

 貸し出すことで戦力の補充は出来るが、経験値はヨミ、ピクト、メリッサと3分に分けられてしまうのでレベル上げには向かない。今回の場合は一時間以内の新鮮な疑似魂が必要になる場面が現れた時、ヨミが合図を出したら街で解放して暴れて貰うようにお願いしていた。




 『魔融魂合』を発動したヨミはドルマと融合し始めた。装備しただけだと一部のステータスしか上がらなかったが、『魔融魂合』なら全てのステータスを上昇させ、スキルも引き継ぐことになる。

 今のヨミは、右手が刀になり左手は鋭い爪を生やし……銀色の角、翼、尻尾と悪魔みたいな姿になっていた。




「ふひぃ、気分が良いわ。さぁ、楽しもうわね!」







《アルベルト視点》



 俺は、普通ではなかった。生まれつき、特殊な身体をしていた。他の人より筋肉の繊維が多く強固だったり、反射神経も人間では不可能なレベルでも反応が出来た。

 それで、子供の頃は加減が出来ず、物を壊したり友達とも遊んだ時に誤って怪我をさせたり、怖がらせることもよくあった。


 これでは、成長していくごとに強くなっていく身体を上手く操れずに大きな失敗を起こしてしまう。それを恐れて、病院へ相談したら…………VRを使ったゲームで力加減を学ぶことを教えてもらった。

 ゲームの中なら物を壊したり、怪我をさせても大きな問題にはならない。


 それが、ゲームを始めた理由だった。最初はリハビリみたいなことで楽しくはなかったが、段々と力加減を覚えていき、出来ることが増えていくと楽しくなってきた。中学生になってきた頃、リハビリみたいなことは減っていき、モンスターを友達と一緒に倒しに行ったり、宝探しをする等と楽しいことが増えてきた。


 だが、全てが楽しいことではない。例えば、プレイヤー同士で戦う時で………


「なんで、当たらないんだよ!? チートを使っているんだろ!」

「最速の魔法を避けるとか、普通は無理だろ!」

「チートだ! GMに連絡しろ!!」


 と、アルベルトが強すぎる、優秀なプレイヤーも出来ないことをあっさりと出来てしまうことからチートと疑われることが多かった。

 その件で、プレイヤーとの対戦にウンザリしてモンスターばかりと戦うようになった。しかし…………人との削り合い、強さを競い合う、そしてーーーーライバルと言える存在が欲しいと思っていた。


 しかし、そんな人が現れることもなく高校へ進学してもライバルと言える存在は現れない。一緒に冒険をする仲間は出来ても、力を競い合うライバルは出来ないことに気を病んでいた。それから、少しゲームが楽しくなくなってきた。


 この前のβ時代でやったトーナメント戦のイベント、誰もアルベルトの体力を半分も削ることが出来ずに1位になってしまった。そして、アルベルトは理解した。




 もう、本気で戦い合える人は現れないんだな。




 諦めた。だから、このイベント……トーナメント戦を最後にゲームを引退しようと思っていた。どうせなら、優勝をしないで失格になって降りれば引き留める人も減っていいだろうと自棄になっていた部分もあった。巻き込まれた相手には悪いが、レッドだったので罪悪感は少なかった。

 失格になって、終われると思っていたが…………






 まさか、ヨミと言う少女がここまでやるとは思わなくて、アルベルトは内心では驚いていた。






「お前のやり方は好きではないが………楽しくやろうとするのは嫌いじゃない」


 お前は俺のライバルになれるのか?


「変なの。楽しもうとするのは誰も同じじゃない。アンタは違うの?」


 俺か。確かに最初はリハビリを頑張ったし、力加減が出来るようになれば、友達と一緒に楽しくやれると期待していた。誰も同じか…………。


「ふっ、俺は楽しみたかったのだったな」


 ライバルが欲しいと思う想いの原点は、やはり楽しみたいからだった。


「一人で納得している所で悪いけど……さっさと始めない?」

「変なことを言って悪かったな。本気で殺り合おう」

「うひ、そう来なくちゃね!」




 ヨミ、ありがとう。本気で戦える相手になってくれて。でも、勝つのは俺だ!!







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