第128話 第3回イベント 正体



 仮面ちゃんの正体がヨミであることがバレた。フレンドであった者は衝撃を受けて、唖然としていた。



《『旅立つ青鳥』タクヤ視点》



「……は?」

「あ、あの子が……?」

「驚いた」

「いやいや! 有名なレッドがヨミだったってことかよ!?」


 未発見の情報の買い取りを良くしてくれている客でフレンドになった存在だったのが、実は有名なレッドだったのは驚きを隠せないでいた。ハーミンだけは表情が変わらないように見えても、内心ではとても驚いている。


「あ~、これからの付き合いはどうするか……」

「え、やめた方がいいじゃない!?」


 ローランは付き合いを断ち切るべきだと言うが、ハーミンの考えは違う。


「勿体無い」

「ローランの気持ちはわかるが、ハーミンの言った通りに勿体無いと思う。レッドだからと繋がりを断つのはなぁ」

「レッドだったが、今までの情報は嘘じゃなかったからか?」

「そうだ。俺達は正しい情報を皆に伝えるのが使命と言えばいいかな。β時代からそうしてきたし、今まで友好的だったのに、1つの黒だけでフレンドを止めるのは好きじゃないんだよな。少なくとも、話ぐらいは聞いておきたい」

「タクヤ…………はぁっ、わかったわよ。今は保留にしてあげるけど、ヨミちゃんが私達に害を為すなら容赦はしないわよ」

「それでいいと思う」

「そうと決まりゃ、今は観戦を楽しもうぜ! あの2人なら結構凄い戦いになりそうだ!」


 話し合いの結果、保留で先送りにすることに決まった。この関係が続くかはこの後に会う約束をして、話し合ってからーーーー






《『赤青黄緑桃ヒーロー見参!!』イエロー視点》



 なんてこと、皆は…………あぁ、やっぱり。



「何という奴だ! あの子がレッドだったとは……悪だと見破れなかった俺の失敗だ!」

「リーダーの名前がレッドなのに、レッドを悪だと断じるとか笑えるねー」

「ピンク!? そこは笑うとこじゃないんだが!?」

「まぁまぁ、どうするんだい?」

「大会が終わったら、話でも聞く?」

「いや、話を聞くまでもない! フィールドに出たら正面から正々堂々と戦いを挑むぞ!」

「あ、そこは奇襲じゃないんだね」


 まったく……、奇襲をしないだけでもマシかな。それなら、話をすることは出来そうね……いや、メールで聞いた方が早そうね。普通の女の子だと思っていたのに、どんなどんでん返しなのよ。


 イエローは大会が終わったら、メールを送ろうと決めたのだったーーーー









 会場がざわつく中、ヨミとアルベルトは武器を取り出して向き合っていた。


「あら? 初心者の長剣を使うのね」

「そうだな。本来の武器を使わせたいなら、傷一つでも負わせてみせろ」

「うひ、司会者。まだ開始しないかしら?」

『あ、へ? す、すいませんでした! 試合を開始します、スタート!!』


 混乱していたクイナはヨミの言葉に眼が覚め、試合が開始された。


「ドルマ!!」

「ギゲゲゲッ!!」


 最初からドルマの姿を現し、伸ばしていく。


「モンスター任せでは傷を……」

「わかっているわ。ドルマ、回りなさい!」


 勿論、そのまま突撃させても万が一にも当たることはない。だが、ドルマを伸ばしてやれることは1つだけじゃない。

 ヨミの命令通りにドルマはアルベルトを中心にドーム状に回っていく。

 アルベルトを逃がす隙間もないドーム状が出来たとこにーーーー


「『夜天月斬』!」


 今までの『夜天月斬』は普通の剣状態で振りきりながら発動してきたが、今のように伸ばしたまま使うとどうなるか?

 『夜天月斬』と言う技は刃がある部分から放出されるようになっており、振りきりながら発動していたから、三日月状になって翔んでいた。しかし、今は刃を内側に向けてドーム状に形を作っている。


「ッ!?」

「隙間もない黒きの刃を全方向から向かってくるわ。どう捌くかしら!?」


 ヨミが言った通りに、アルベルトは全方向から黒い刃が向かってきている。避けられる隙間も作っていないので、アルベルトが出来ることは迎撃だけ。


「『光輪斬』」


 アルベルトが取った手は一部の攻撃だけを迎撃して、そこから刃の檻から抜け出すことだった。その方が無駄もなく消費が少ない。そのまま、伸ばされているドルマにも攻撃して耐久力を減らす魂胆だったが…………


「そう来ると思っていたわ」

「ほぅ……」


 ヨミはアルベルトがそう来ると読んで、『夜天月斬』を発動した後、すぐにドルマを元の形に戻して、アルベルトの正面へ突っ込んでいた。

 お互いの剣がぶつかり合う形になったが…………互角だった。


「驚いた。力負けしないとは」

「本当に馬鹿力なのかしら?」


 今、ドルマを装備しているヨミのATKは馬鹿みたいな数値になっているのに対して、アルベルトの武器は初心者の長剣でATKが低いのに…………拮抗していた。つまり、ATKの数値ではなくアルベルト本人の身体能力が桁外れなのだ。

 剣の押し合いでは決着出来ないので、インファイトのように近い距離で剣を振り回し、突き合う。


「……成る程。力は互角だが、スピードは……」

「うひっ、剣速はこっちの方が速いわ」


 力があっても、剣速は筋力だけでは上手く発揮することは出来ない。瞬発力はヨミの方が上で…………




「この距離は少々不利か」

「本当に、その反射神経は反則レベルよね!?」


 剣速で勝っていて、アルベルトの身体を狙う隙もあったが、紙一重で避けられていたーーーー


「む!?」

「うひひひ、見えている剣だけ避けられても、これは完全に避けられなかったわね!」


 咄嗟にアルベルトが距離を取ったかと思えば、アルベルトの頬から一筋の赤い線が出来ていた。

 つまり、ヨミはアルベルトに傷を付けることが出来たのだ。


「……スキルか」

「当たり。狙って出せないけどね」


 アルベルトに傷を付けたのは、剣本体ではなく、ドルマのスキルに拠るモノだ。そのスキルはメイド戦でも脇腹に当たり吹き飛ばしたのと同じで、『追斬衝波』と呼ぶ。

 そのスキルは前のドルマが持っていた『追斬』の効果とほぼ同じで衝撃波も発生するようになっている。アルベルトには突きで発動したから、吹き飛ばされることはなかったが、意表を突けて傷を付けられたのだ。




「まず、スタートラインに立てたわね。アルベルト?」

「……ふっ、そうだな」




 この時、アルベルトはヨミを認めた瞬間だった。手加減をせずに本気で当たれる相手であることをーーーー







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