第104話 ピクトの戦い



《カロナ視点》



 うわぁ、これはちょっと同情しちゃうなぁ。



 カロナの視点では、仮面ちゃんが召喚したピクトが4パーティを相手に蹂躙(じゅうりん)している所だった。ピクトはキメラ・インセクトクイーンと言うモンスターで、様々なスキルを持っていてハイド達を翻弄していた。


「うひひひ、あはははは!」


 隣でこの状況を観戦して笑っているのが、我がボスであるヨミ。仮面を被っていて、認識障害で顔が見えず姿も朧気にしか認識出来ないが、いい笑顔をしているんだろうなとわかる。

 視線を再び戦場に向けると、1つのパーティがアリ顔から放たれた攻撃で武器や防具を溶かされていた。


「熱いぃぃぃ!!」

「な、継続ダメージを受けている!? 回復させてやれ!」

「武器が……」


 溶かされたが、耐久力がまだ残っているなら戦うことも直すのも出来るが、少しずつ減っているので近いうちに壊れるだろう。


「あは、まともに戦えているのは第4位がいる所だけみたい」

「良く戦えていると思うわ。でもね、周りが倒れたら終わりよ」


 ハイドのパーティが戦えているのは、他のパーティがピクトが召喚しているアントを倒し続けているからだ。もし、ハイドのパーティ以外が倒れたら、数の暴力にボスクラスのモンスターが同時に襲ってくることになる。


「うひひ、更に絶望させるわね」

「あ、何を投げて……うわぁ」


 今のピクトはハイド達の頑張りによって、HPの四分の一を減らしていたが、仮面ちゃんが投げた薬が入ったビンを投げたことによって……


「なっ、回復させやがった!!」

「頑張って削ったのに、満タンに回復しちゃったよ……」

「クソっ、ボスに回復は卑怯だろぉぉぉぉぉ!!」

「知らないわよー。また頑張って減らせばいいじゃない」


 仮面ちゃんが投げたのは、ルイスが作った『毒に侵されたポーション』で毒(弱)を受ける代わりに30%も回復する代物だ。HPが4000もあるピクトなら1200も回復し、120ダメージの毒を受けても充分過ぎる回復力だ。


「そういって、減らされたらまた回復しちゃうでしょ♪」

「勿論♪」


 会話を聞かれたからか、1つのパーティがアントを斬り伏せながら、こっちに向かってきた。仮面ちゃんと自分を止めないとまた回復されると判断し、攻めてきたのかも。

 相手をしてあげようと思い、得物を持ったが仮面ちゃんに止められる。


「仮面ちゃん?」

「今は行かない方がいいわ。巻き込まれるわよ」


 仮面ちゃんが指を指している場所を見ると、ピクトのカマキリ頭が背中を向けてこっちに向かってくるパーティへ向けられていた。


 あ、私達も範囲に入っていない!?


 アリ頭が放ったような技と同じなら自分達も範囲に入っていそうな気がしたのだ。『強酸液』はビームみたいに直線に放ち、プレイヤーの後ろにあった数本の木が溶かされているのを見ていたから、危ないと思ったのだ。


「大丈夫よ」


 仮面ちゃんの言葉と同時に、カマキリ頭から『暴風破』が放たれた。


『ブオォォォォォ!!』

「ギャアァァァァ!?」

「こ、これは打ち上げられて!?」

「うわあああぁぁぁ」

「高いぃぃぃぃぃ!!」


 『暴風破』は直接的なダメージは期待出来ないが、打ち上げるような軌道で巻き込まれた人や物は上空へ飛ばされて…………落ちてきて地面へ打ち付けられる。


「あの技は打ち上げるから射程が狭いし、ダメージは期待できないけど……あとは見ればわかるよね?」

「あはっ♪ 落下ダメージだよね」


 そう、この技は落下ダメージで殺すスキルなのだ。射程を理解している仮面ちゃんは巻き込まれないとわかっていた訳だ。


「あ、向こうは燃やされているね……」

「ムカデ頭がやったわ。ムカデなのに、火を吐けるのよね」

「く、くそ、お前ら! ここは撤退するしかねぇ!」


 ハイドはもう勝ち目がないと判断し、撤退を決断した。1つのパーティが壊滅

し、アントも増え続けて回復が出来る仮面ちゃんを止められないならこれ以上は無理しても勝てないと理解していた。


「あ! 逃げちゃうけど追わないの?」

「あー、背中を見せちゃって。カロナ、追う必要はないわ」


 仮面ちゃんは最後までピクトに任せるようだ。




「ピクト、いいわ。使え!」

「ピギィィィィィ!!」


 仮面ちゃんから命令が下り、3つの頭が口から力を溜め始めた。


「え、あれは?」

「いわば、必殺技ね。溜めがあるから普通の戦いでは使いにくいけど、威力は結構高いわよ」


 溜めは10秒間、その間は隙だらけだが、逃げる相手には好機な状況だ。


「スキルの名前は『複合破壊放射』と言うけど、長いよね」

「えぇと、長いかな」


 なんで、名前の話になるの? と思った先に、力が溜まり始めたのか、3つのエネルギーが融合し始めた。






「放て、破壊○せぇぇぇぇぇん!!」

「その名前は色々と駄目じゃないぃぃぃ!?」


 破壊○線? が放たれ、ピクトが身体を動かしながら右から左へと光線が森ごとプレイヤー達を掃討していく。


「あはははは! うひひひひひぃぃぃぃぃ、気持ちいいーーーー!!」

「あ、あわわわ」


 強心臓であるカロナであっても、この状況には驚かないでいられなかった。それだけの威力があり、普通のテイムモンスターが持っていい技ではないと思った。


「うひひひ、デメリットが多いけどこの威力なら納得だわ」

「で、デメリット?」

「えぇ、このスキルは1日に1発まで。しかも、使った後はしばらくHP、MPにステータスが半分に減ってしまうのよ」

「そ、そうなの……?」

「だから、安心しなさい。そうそう使えないわ」


 安心なの……? うーん、ヨミちゃんだと毎日使いそう……。凄い笑っていたし。


 これだけの威力、放つ側は楽しいだろうけど、やられる側や自然に対しては良くはないだろう。自然破壊された森の姿を見て、カロナはそう思うのだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る