第88話 裏話



「……もしかして、君達は運営側?」

「あー、違うわね。運営から依頼された一般人よ」

「一般人って♪ あんなことが出来る人を一般人じゃなくて、逸般人と言うんじゃない?」


 言葉の読みは同じだが、意味は違っていることはカロナの顔を見ればわかる。


「あー、アタシらはジュンに頼まれたからやっているのよ」

「ジュンだけはゲームを開発した会社に勤めていますが、運営に関われない下っぱで……たまたま上司に目をつけられてゲームをやらせてあげる代わりに面倒事を押し付けられたと言ったところですね」

「それが、友達枠もあって私達が誘われた。悪役をするのは初めてで楽しそうだったから受けた訳」

「ルイス! 下っぱ下っぱとかうっせぇよ! このゲームで成果を見せて出世してやんよ!」

「今のところは成果を出しているのはヨミですがね……」

「むぐっ」


 ルイスの言う通り、今までの悪役として、1番頑張ってきたのはヨミだろう。


「え、ええと……話を聞くには運営が悪役……PKを推奨しているように思えるのですが」


 メルナの疑問。普通に考えれば、そんな運営はヤバいだろう。だが、運営側には思惑があるようでジュンが話し始める。


「噂で聞いた程度だが、信憑性が高い話だ。俺達が悪役として、プレイヤーやNPCをキルして欲しいのはAIの感情に関することらしい」

「えっ……ど、どういうことですか?」

「実は、俺達が殺したNPCは死んだ後、別のサーバーに保存されているらしい」

「えっ! そうなのか!?」


 殺した筈のNPCが実はプレイヤーのように生き返ることが出来て、このゲームとは違うサーバーに移されていると聞けば驚くだろう。


「会社には使われてないサーバーも沢山あるから、多分本当の話だと思っている。これから話すことは俺の考えであって、本当かはわからないからな?」

「ちょっと待て、そこまで内情を話しても大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。さっきのは噂で聞いた話であって、運営から聞いた訳でもないからな」

「噂ね♪ なんで、信憑性が高いと言ったの?」


 確かにジュンは噂で聞いたと言った。なのに、信憑性が高いのか? ヨミ達も気になるようで耳を傾ける。


「勿論、俺が自分で調べたからな」

「……大丈夫なの? クビにならない?」

「た、多分な……機密の情報でもないし」

「それで?」

「ヨミは少しぐらい心配してくれよ。まぁ、簡単に言えば、使われてない新品のサーバーが多すぎるんだ。今は新しいゲームの開発も予定されていない。第二陣のプレイヤーを導入してもまだまだ余裕がある。なのに、新品のサーバーが大量に置かれている」


 確かに疑問を持っても仕方がないだろう。あぁ、だからジュンはサーバーに何かに使われるのか予測が出来ていたのだろうね。


「わかったわ。そのサーバーは私達がこれから殺すであろうのNPCのデータを保存する為なのね」

「まぁ、そうだろうな」

「……何の為に? このゲームは中学生もやっているのよ。なのに、殺伐な世界にしようと?」

「さっき、言った通りにAIの感情に関することだ。多分、感情を育てる……危機感を高めたいのだろうな。中学生はフィルターがあるからそれほどに酷いものを見ないようにされているだろうな」

「そういえば、マミの前で人を殺していたけど、マミにはどう見えていたか教えてあげてくれる?」

「ふえっ、ええと……人が死ぬと光に包まれていて眩しかったです」


 いわば、モザイクよりも綺麗な光で見せないようにしているようだ。この前の盗賊はモンスターだったから光の粒になって死体を残さずに消えたが、普通のNPCは違う。死体が残るNPCだが、中学生にはマミが言ったようにエフェクトが死体を隠している。


「成る程。それなら問題があるとは言い難いな」

「……中学生もいるの?」

「マミは中学生よ。まぁ、闇商人でPKに関わってないわ」


 関わってないではなく、関われないのだが。PKギルドである『銀月の使者』に中学生もいたことに驚くメルナ。


「とにかく、噂に俺が調べた情報でしかないが、大体は合っていると考えている。だから、お前達は気にせずに好きなようにやればいい」

「私は最初からそのつもりだったしね」

「アタシはヨミちゃんがやるなら、地獄にでも着いていくと決めているんだから」

「僕もですね。ヨミがやりたいと言った時から一緒に楽しむと」

「俺は頼んだ側だしな」

「くはははっ。やっぱり、お前らは面白え。面白いからお前らの手伝いをやってやるよ」

「あはっ♪ このギルドに入って良かった♪」

「ギルドに入ったからには最後まで着いていくよ」

「ぼ、僕も皆とやって楽しかった。だから、まだ一緒にやりたい!」

「リー……もう、仕方がない人ね。私の客もいるし、ギルドに入るわ!」

「私もヨミちゃんと一緒に遊びたいから、闇商人として頑張るよ!」


 全員の心が1つになった瞬間だった。


「ほら、ヨミ。ギルド長として何か言ってやれよ」

「急に……はぁ、いいけど」


 ヨミは何を言った方がいいか考えて…………ギルドの目標を立てた方が皆の気持ちも引き締まるだろうと。





「……うひっ、私達のギルドは悪役として、全てをドン底に引きずり落として楽しむ。勿論、プレイヤーの最終目標である魔王もPKギルドの『銀月の使者』が殺す。そして、犯罪者である私達に世界を救われてしまって悔しがるプレイヤー達を笑って見下してあげましょう!!」






 ヨミが気合いを入れてギルドの目標を発表すると、その悪辣で最悪な目標に皆がドン引きするのだった。








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