第87話 誓約書



 面接で大きな洋館にいたが、ヨミが裁縫関係でお世話になっているメルナだったことで面接は数秒で終わった。メルナなら入れてもいいかなと思ったが、メルナからの問答にジュン達と相談が必要だと判断し、『銀月の使者』のギルドホームに来て貰っていた。

 ついでに、他の仲間にも説明したいとジュンが言うのでメンバー全員が集まっていた。


「こんな場所も作ったんだ……」

「必要だと思ってな」


 ギルドホームに入ると初めて見る扉があり、その扉を開くと円卓の騎士が使うようなテーブル、椅子が並んでいた。1番上の上座だけ普通の椅子と違い、立派な王座が置かれていた。


「アレは何!? まさか……」

「そのまさかだ」


 ジュンが悪戯に成功したような表情を浮かべて、他が苦笑していた。




「ギルド長用の王座だ」




「馬鹿じゃない? 考えたのはアンタだよね? アンタしかいないわ」

「待て待て! ドルマを召喚するんじゃない!!」


 何回はキルしてやろうかとドルマを召喚したが、ジュンは慌てて言い訳をし始めた。


「ギルド長はギルドの1番権威を持った存在だ。皆に舐められないようにとマミと一緒に考えて作ったんだ!」

「遺言はそれで……ん、マミ?」

「はい! 大変でしたけど、気に入られるように作りました!」

「え、ちょっ、……これはマミが作ったの?」


 思わず、王座の方へ向かうと細かな装飾(そうしょく)が描かれていて、座敷の部分も不快にもならない柔らかさで座りやすくなっているのがわかる。


「どれだけ力を入れたのよ……」

「もしかして、気に入らなかったでしょうか?」


 マミの表情が暗くなっていき、ヨミは慌てて言葉を並べる。


「とんでもないわ! 商店に並んでいる椅子よりも良い物だったから、驚いただけよ! 気に入ったわ!」

「そうですか、良かったです!」

「ぷっ……」

「……ジュンはあとで、表に出なさいよ?」

「せめて、地下の修練場にしてくれよ!?」


 外で殺されるとレッドであるジュンは重いペナルティを受けてしまう。地下の修練場ならこの前みたいに模擬戦をして、やられてもHPは必ず1が残るのでペナルティを受けずに済む。


「はいはい、招待された客がいるんだから始めようよ」

「はぁ、わかったよ。メルナ、好きなところに座って」

「え、ええと……」


 そう言われても、何処に座ればいいかわからないメルナは困っていた。リーが手を引っ張ってくれなかったらそのまま立ち尽くしていただろう。

 全員が座ったのを確認したヨミは隣に座るジュンに目を向ける。


「ジュン、説明」

「まぁまぁ、慌てるなよ。自己紹介は……説明を聞いて、入ると決めた時でいいだろう。説明はメルナだけではなく、皆にもあるしな」

「あら♪ 何か面白そうなことを隠していたのかしら?」

「隠していたというか、普通は言っては駄目なことだったしな」

「え? 何の話かわからないんだが……」


 ジュンは説明する前に、アイテムボックスから数枚の書類を取り出した。


「1枚だけ取って、隣に回してくれ。あとヨミ、メリッサ、ルイスは無しだ」


 詳しいことがわからないまま、言われた通りに書類を回していく。客であるメルナまでにも配られた書類。何の書類か読んでいくと…………


「は? 誓約書?」

「そうだ。その誓約書はGMを通して、運営に準備して貰った物だ」

「運営に!? …………そこまでの情報が?」


 誓約書の内容は長々と書かれているが、簡潔に言うなら今回の会談について、外で漏らさないことに記述されている。


「説明はするが、その前に誓約書に書いて欲しい。もし、破ったなら運営から罰を受けることになる。もし、説明を聞かなくてもいいならこの部屋から出て、リビングで待っていても構わない。勿論、他の人から聞くことは出来ないが」

「……へぇ♪ 少しはわかったかも。でも詳しく知りたいから書くわね♪」

「ふぅん、詳しい話を聞けば面白いことがありそうだか」

「まぁ、外で漏らさなければ良いだろう」

「ここまで大きな話になるとは思わなかったな……でも、聞きたいな」

「リー……はぁ、仕方がないわね。最後まで付き合ってあげるわよ」

「ヨミちゃんと一緒にやりたいから、詳しい話を聞きたいです!」


 全員が部屋から出ることもなく、誓約書に署名する。署名された誓約書を集め、確認し終わったジュンは何かを操作して署名済みの誓約書を何処かに送った。


「よし、確認は出来た。これから説明しよう……」


 秘密にしていたこと、それがジュンの口から説明される。






「俺達、4人は運営から悪役としてゲームをして欲しいと頼まれている」






 秘密をばらした中で呆気に取られる人、ある程度は誓約書から理解していて、笑みを浮かべる人、あーと納得する人に分かれたのだったーーーー







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