第72話 墓場の中ボス 後半



 乱月光波を防御ありだったといえ、1本残して生き残ったことから、弱点は霊体に効きやすい魔法ではなかったようだ。おそらく、物理は堅固で魔法は通常に通る防御力だったと思う。


「チッ、手は壁になったらダメージは受けない設定だったかも」

「そうだな…………ッ、アレは!?」

「何が……?」

「体力バーを見ろ!!」


 驚きながらも体力バーに向けて指を指しているジュンに合わせて、ヨミも視線を体力バーに向けると…………


 夫婦レイスターの体力バーに鎖が巻いていく所だった。


 意味がわからず、視線をジュンに向ける。ジュンは鎖のことを知っていたようで、教えてくれた。


「あれは条件を達しない限り、無敵状態って意味だ!」

「はぁっ!? 無敵になるって……どうやって倒すのよ!?」

「言っただろ、条件を達すればその鎖は消える。その条件はアナウンスが来る!」


 説明が終わった瞬間に声が聞こえた。


『夫婦レイスターは無敵状態になりました。無敵状態を解く条件は……』


 成る程、こうして条件が伝えられるのね。無理難題な条件ではない筈ーーーー




『次の攻撃で生き残ること』




 中ボスフィールドの全域が赤く光りだした。この光は……


「マジかよ、全域への攻撃……」

「この攻撃から生き残れって……」


 2人共、慌てて夫婦レイスターを見た。アナウンス中、大人しくしていた夫婦レイスターは消えていた4つの手が元に戻るどころか、更に4つも増えていた。

 8つになった手が上空へ上がっていき、立方体の角になるように移動して中心に向けて力を溜めているように見えた。


「あれって、『ダークインフェルノ』に似ていない?」

「多分な。それを全域に広がる技だろうな……あー、逃げ道がねぇわ。死んだな」


 あれを受けて、生き残れる気がしないジュンはもう諦めていた。勿論、ヨミもあれを受けたら間違いなく耐えられずにやられるだろう。……しかし、ヨミはまだ諦めていなかった。


 まだ何かある筈! 無理難題な条件だったらゲームのバランスは崩壊する。つまり、何か生き残れる方法がある筈ーー


 諦めずに周囲を見回すと…………


 …………あ、もしかして!! ジュンは……もういいか、諦めているみたいし。死ぬなら利用させて貰うわ!


 周りを見渡したお陰で生き残る方法を見つけた。夫婦レイスターの攻撃方法を推測した所から気付いたのだ。






『ダークインフェルノ・ビッグバン』






 攻撃が発動する前に、ヨミは動いていた。立ち尽くしているジュンに向かって。


「え、よ、ヨミ? 何をして……ま、まさか! 俺をたてにーーーうわあぁぁぁぁぁーーーー!?」


 推測した通り、あの技は立方体の中心に出来た巨大な赤黒い玉が爆発して全方位へ熱の放射線が撒き散らす。つまり、盾になるモノがあれば、直撃せずにダメージを軽減できるのだ。

 中ボスフィールドは墓が少し置いてあるが、破壊出来る物でアレを喰らうとすぐに消え去ってしまう。だから盾には不向きで、他に盾になるモノといえば……自分以外のプレイヤーしかいなかった。プレイヤーなら体力がなくなるまでは身体が消えないので盾には充分だった。


 攻撃は数秒。でも、少しダメージを受けたわね。


「『月の癒し』」


 身体を全て隠すことは出来ずダメージを受けたが、回復魔法を持っているのですぐに満タンへ回復した。その一方、攻撃をまともに受けたジュンは……


「死んじゃったわね。でも、役に立ったから今度ビールを奢ってあげるわ」


 何処からか、足りねえよ! オツマミも付けないと許さんぞ! と聞こえたような気がしたが、ヨミは攻撃を終えた夫婦レイスターに目を向けていた。

 体力バーから鎖が解かれて、全て出し切ったというように脱力状態になっていた。


「もう、これで終わりよ。『乱月光波』」


 本来なら、脱力状態は10秒だけで攻撃を無防備で受けても物理は効きにくて魔法も普通の魔法使いなら頑張っても半分まで減らせるかだったが……今回は相手が悪かった。

 その普通の魔法使いよりも強力な魔法を使えて、夜だと威力が2倍へ上がる月光魔法を使うヨミだったからーーーー





『ゴグギャァァァァァァァァーー!!』





 乱月光波の一撃で、体力バーは一瞬で消え去った。


「今回は本当に危なかったわ。でも、私の勝ちよ」


 ヨミはジュンの犠牲を元に、中ボスの夫婦レイスターを倒したのだった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る