第47話 強化
キッカをカスタムし終わった頃、夜中になっている時間だったのでログアウトしようとしたら……またメールが来た。
また運営からか? ……あら、メルナだわ。お、ついに集まったんだ!
裁縫師のメルナからメールが来て、綺麗な包帯が集まったから、フリル付きのワンピース(白)を強化出来ると。
どうせ、ログアウトしようとしてたので、その前に強化してもらうことに決め、フィールドにあったセーフティゾーンから急いで街へ戻る。
「あ、こっちよ!」
街に着き、いつも露店を出している場所に向かうとメルナが手を振っていた。
「えぇ、強化出来ると聞いて……」
「勿論! フリル付きのワンピース(白)を渡してくれる? すぐ終わるから」
「はいよ」
ヨミは他に服を持ってないので、起伏がわかるインナーの姿になってしまうが、元より起伏が薄いヨミは気にしなかった。メリッサのようなボディだったら、頬を赤くしていたかもしれないが……
数分待つと、メルナは完成したようでワンピースを広げて見せつけていた。
「完成や! 見た目はあまり変わってないけど、間違いなく強化されているからね!」
「うん、見た目は変わってないわね。でも……」
フリル付きのワンピース(白)+1 レア度:C
耐久力:110/110
DEF+30
希少な布、綺麗な包帯を使っているからか、+1でDEFが10も高くなっていた。マミに初期のナイフを強化して貰ったのと比べると、雲泥の差があった。
「どう!?」
「予想以上だったわ。素材の違いで強化される数値は違うの?」
「そうね。強化出来る素材は、それぞれの装備によって違っていて、フリル付きのワンピース(白)の場合は、2つの素材で強化を選択出来たの。元の素材と同じ汚い包帯も選択出来たけど、それだとDEFは、10も上がらなかったでしょうね」
「成る程。強化するのに、綺麗な包帯を10個も必要だったよね? +2にするには、また綺麗な包帯が10個必要? それに、今のメルナは+2へ強化出来る?」
「+3までなら、汚い包帯か綺麗な包帯のどちらかを選べるわ。強化出来る回数を増やすなら、スキルレベルを上げればいい。今はレベル5になっているから、+3までは強化可能よ」
+3までは汚い包帯か綺麗な包帯のどちらかで、強化出来るが、どちらかを選択することで数値に差が出来る。
ヨミは綺麗な包帯の方が高く強化出来るなら、そっちを選ぶ。時間があれば、綺麗な包帯を狙うのもいいと考えた。
メルナから受け取り、フリル付きのワンピース(白)とキッカを装備したステータスはーーー
ステータス
名称:ヨミ
レベル19
職業
メイン:魔物使い
サブ:剣士
HP:330/330
MP:940/940
ATK:100(+308)
DEF:107(+41)→107(+66)
INT:115(+100)
MDF:102→102(+45)
AGI:207(+5)
LUK:104
スキル(メイン)
『テイムLV6』(ドルマ・キッカ)、『鑑定LV5』、『武具化LV5』、『防具化LV1』、『武技不可』、『魔法不可』、『魚群アローLV3』、『必中LV4』、『空白×2』
スキル(サブ)
『回収』、『空白×9』
スキルポイント:15
称号
『泥臭い戦闘者』、『貴族の友』
武器
右手:初期の剣 ATK+10
左手:ドルマ ATK+198
装備
頭:テンガロン・ハット DEF+8
身体:フリル付きのワンピース(白) DEF+30
右腕:充体のミサンガ
左腕:無し
脚:硬いブーツ(白) DEF+13 AGI+5
アクセ1:アルティスの仮面
アクセ2:白いキッカのコサージュ DEF+35 MDF+45
見た目の面では、帽子のツバに白いキッカのコサージュが乗っている以外はあまり変わっていないが、数値の方では布装備では考えられないぐらいに固くなっていた。
「ふふん♪」
「あら、新しい装備? あの帽子に付いている花」
「えぇ、詳しい内容は言えないけど、結構可愛いでしょ?」
「ふむぅ、似合っていると思うわ」
メルナは見たことがない装備に目が追うが、追及することはなかった。しばらく、雑談をし…………別れてログアウトをしようとしたヨミ。
「……あら? まだあの子、起きているわね?」
だが、その前にフレンドリストを確認すると、まだマミがログインしていることに気付いた。現実世界ではもう夜11時に近いのに、起きていても大丈夫なのかと思い、マミの露店に立ち寄ってみた…………
「あ、いたいた……立派になっているわね」
「あ! ヨミさん! 立ち寄ってくれたんですね!? あ、売買ですか!?」
「それもあるけど……」
話しながらも、ヨミの目には屋台が映っていた。前までは敷物に商品を置いて売るスタイルだったが、今は立派な屋台が建っていた。
「今は儲かっているの?」
「はい! 小物類が沢山売れまして!」
「小物……?」
「なんか、こっちの世界では珍しいと言って、色々買ってくれるんです!」
「……もしかして、NPCに?」
この世界では、プレイヤーだけではなく、NPCが買いに来ることもある。だが、普通に店で売っている物を売っても買ってはくれない。ぽっと出のプレイヤーが出す露店で買うよりも、いつも使っている馴染みのある店、信用度が高い店で買うからだ。
「貴女が作った小物がウケたってこと?」
「そうかもしれません。見ます?」
「んー、いいや。私達にとっては珍しくもないでしょ? なら、別の話をしたいけどいいかしら?」
「構いませんよ。何か売りに?」
ログアウトする前にマミの露店に向かったのは、2つの用事があるからだ。1つ目は…………
「これを見てくれる?」
「これは弓? ……あ、プレイヤーメイドですね。もしかして、PKで?」
「そう。だから、足が着かないように気を付けて売り捌きなさい」
ヨミが渡したのは、イベントでPKをした時に手に入れた弓だ。その弓は運悪く装備欄から落としてしまったのだろうとわかる、そこそこ強いプレイヤーメイドの武器だった。
「NPCの店で売れば、足は着かないけれど、安く叩いて買い取られるよねぇ」
「特に有名でもないプレイヤーの名前が付いていればね……」
店にとって、物を売るのに大切なことは?
『信用』だ。
もし、誰が作ったかもわからない装備や薬があっても、性能を重視し、死んでも生き返れるプレイヤーはともかく、1度でも死ねば終わりのNPCにしたら信用出来ないので、買うことはしない。もし、不良品を掴まされたら困るからだ。
なので、プレイヤーメイドの装備や薬を高く売りたいなら、プレイヤーだけではなく、NPCの中でも知名度を上げなければならない。
「これをプレイヤーに売り付けてやればいいのですね!」
「そう、もし前の持ち主が現れて返せと言われても返しては駄目よ? 今は既に貴方の商品なのだから」
「もし、誰が売ったのかと聞かれたら……?」
「簡単よ。わからないと言えばいいわ。プレイヤーなら名前を隠せるし、フードを深く被っていて、顔が見えなかったとか。だけど、声から女性だったような気がするだけと言えば、向こうは何も言えないわ」
「それでも、しつこかったらーーー」
「GMの出番ね」
そうすれば、奪われた側のプレイヤーが悪者になる。被害者が悪者になるだろうと悪どい笑顔を浮かべると、マミはあははっ……と引いたような笑みを浮かべるのだった。
「は、はい。わかりました」
「うん、売る金額は大丈夫よね?」
「大丈夫です! あれから、調べたので!」
「よし。売れたら半分ずつね……次なんだけど、貴女の鍛冶は何レベル?」
「鍛冶ですか? まだLV3です」
「……まだ無理みたいね。LV5になったら、教えて頂戴」
「LV5……武器に属性を付けたいのですね?」
「うーん、似ているけど違うよねぇ」
「え、LV5で覚えるのは『魔法付与』だけですよ?」
マミの言うとおり、鍛冶のレベルを5に上げれば、魔法のスキルオーブを使って武器に属性を付けることが出来るようになる。
だが、ヨミには別の考え方がある。
「そうね、LV5にしたら、考えていたことを教えるわ」
「えー、気になりますよ!?」
「ダーメ。とにかく、LV5になったら、連絡を頂戴ね」
「む~、気になる……」
これで、用事は終わったので、ヨミはマミの気になる視線を無視してログアウトするのだった。
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