第44話 新たなPKプレイヤー
背中がチリッとする。
ナリキンポークを逃した後も、大ボスを探索していた所だった。見つからないまま、森を抜けそうだった所で……
「なぁ、いるな?」
「いるねぇ。でも、モンスターじゃない」
「となるとーーー」
皆は気付いていた。自分達に向けられているーーーーーーーーー殺気をッ!!
「上!」
「あはっ! 気付いていたんだぁ!」
木の上から奇襲してきたのは、お面ではないマスクを着けた少女だった。そのマスクは病院などでよく見かけるマスクで、黒髪のツインテールをした少女はノコギリを手に持って、ジュンに向けて斬りかかっていた。
「流石、このパーティで1番強そうな人だね。それこそ、倒せば箔が付くもんよ!!」
「1番強そうな人ね……まぁ、レベルでは俺が1番だが」
1番強そうと言われて、悪い気はしないが……先ほどの模擬戦で負けたばかりなので、皮肉に聞こえてしまい、顔を歪めてしまう。
「お前は……まだイエローにはなっていないが」
「これから、PKプレイヤーになろうと思って♪ だから、生け贄になりなよ♪」
「そう簡単にやらせるつもりはねぇ!!」
少女……カロナと表示されているので、カロナと呼ぶことにして、話から聞くと1対1で戦うようなことになっているがーーーーーー
「僕達を無視ですか。じゃ、横から殴られても文句はありませんね」
「あはっ! 無視している訳じゃないよッ!」
ルイスが液体を振り撒くと、カロナはちゃんと周りにも警戒していたようで、ジュンから離れて回避していた。そしてーーーーーー
ジュンにも掛かりそうになっていた。
「うおおぉぉぉ!? 危ねぇだろ!? って、溶解液かよ!」
液体が掛かった地面は溶けて、草花は跡形もなくなっていた。それを少女と仲間に掛けようとしていたルイスに背筋が寒くなるジュンだった。
「あはっ♪ 容赦なしだねぇ。でも、まだイエローやレッドになっていない私に当たったら、イエローになっていたよ?」
「………………」
「もぅ! 少しは話をしようよ?」
話をスルーして、先ほどと同じ液体を振り撒くが、あっさりと避けられていた。しかも、話をしながらで余裕を持って、軌道を読んでいた。
「アタシらも加わっても文句はないわよね?」
今度はメリッサがネバネバ餅を投げつけ、カロナの足元へ当たりーーー
「うわっ!? べとべと……とりもち?」
「捕まえたわ」
野球のボール程度の大きさしかなかった、餅がこれだけの範囲に広がるとは思っていなかったカロナは少し離れただけで逃れることは出来なかった。
「ヨミちゃん」
「いいの?」
「アタシ達はまだイエローになるのは…………まだ早いでしょ?」
「そうね」
ある物をまだ見つけていないので、ジュン達が攻撃するにはいかない。なので、ヨミに倒してもらおうと思っていたメリッサだったが…………
「……へぇ、既にイエローかレッドなんだぁ? その子は」
「なっ!」
メリッサは視線をヨミからカロナの方へ向けたが、既にそこにはおらず、メリッサの後ろから声が聞こえてきたことに驚いていた。それに加えて、ヨミ達はカロナから視線を外していなかったのに、消えてメリッサの後ろに現れたことで、呆気に取られていた。
「ぐぎぃ!?」
「ぎこぎこ~♪」
カロナが持っていたノコギリがメリッサの腹を削っていた。ぎこぎこと言うには高速すぎて、HPがガンガンと減っていく。
「メリッサ!」
「うわぉ!?」
ナイフを投げ、メリッサから離そうとするが、カロナはメリッサの頭を掴んで盾にしてしまう。
「あう!?」
「あ、ごめん」
「おいっ!? さっさと離れやがれ!!」
ジュンが背後から大斧を叩きつけるが、これもすぐ離れたことであっさりと避けられてしまう。当たらなかったが、メリッサから離すことは出来た。
「あちゃぁ♪ もうすぐだったのにぃ」
「メリッサはルイスと離れていろ! こいつは俺とヨミでやる!」
メリッサにダメージを与えたことで、イエローになったのでジュンが攻撃を加えても問題はない。だから、ヨミと2人でやろうと思ったが…………
「いやぁ、もういいよ♪」
カロナはそう言い、背後を見せて撤退していた。
「なっ!?」
あっさりと逃げ出すカロナに驚くジュンだが、ヨミは逃さないと走り出していた。
「もう用事は終わったから、逃してよ♪」
カロナの用事はイエローになること。メリッサにダメージを与え、イエローになったから不利な状況に身を置く理由がないのだ。
「仲間を傷付けて、逃げられるとは思わないでよ?」
2人はAGIが高く、他の人を引き離していく。
「速いね! でも、仲間と離れていいの? ……片付けちゃうよぉ?」
「やれるなら、やってみなさいよ?」
しばらく走ると、森を抜けて別のフィールドである草原へ踏み入れていた。
「もう、仲間と合流するのは無理になったね! 教会へ送られるから!」
「お喋りが好きなのね。それが、隙にならないといいわね」
「さっきの男より強くないと、私には勝てないわよ♪」
カロナは仲間と充分に引き離したと判断し、方向転換してヨミへ向かっていた。
「観察眼はまだまだね……ドルマ!」
「あはっ! 魔物使いなのね! なら、なおさらに私には勝てなーーー」
「『武具化』」
「えっ!?」
カロナはドルマの横をすり抜けて、ヨミに斬りかかっていたが、『武具化』を発動したことで、手元にドルマが現れて受け止める。
更に、アルティスの仮面も顔へ着けていた。
「な、なんなの!?」
「PKプレイヤーの先輩と言える私に挑むなんて、馬鹿なことをしたわね」
「え、えっ! 貴女が、あの仮面ちゃんだったの!?」
「あら、知っていたのね」
見た目はお嬢様にしか見えない少女が、PKプレイヤーとして名を挙げている、あの仮面ちゃんだとは思わなかったようで、驚きの眼をしていた。
「死になさい」
「ッ!?」
受け止められていたドルマが消えたことにより、ノコギリが空を斬る形になり、バランスを崩してしまう。その間に、反対の手に移したドルマで心臓を突き刺そうとするが、咄嗟に左手を盾にして軌道をずらしていた。
「やるわね。でも、まだまだ行くわよ」
「な、どういうこと!? ッ、『瞬歩』!」
「……それはこっちの台詞よ。ネバネバ餅から逃れたのも、そのスキル?」
スキルを発動した瞬間に、ヨミの前から消え、距離を取られていた。
「はぁ、やるわね。流石、PKプレイヤーの中でも危険と言われているのは本当のことね」
「答えないのね。瞬間移動みたいなスキル、そうホイホイと使えるとは思えないし…………クールタイムか回数制限かな?」
「言わないよ~」
「まぁ、連続で使えないだけでもわかればいいかな」
「…………」
図星なのか、言葉を発することはなかった。今までのカロナの動きから、瞬間移動みたいなスキルを連続で使えていたなら、避けた後に反撃のために使っていた可能性が高かった。しかし、使ってこなかったことから、クールタイムが他のスキルよりも格段に長いか、回数制限のどちらかになると読んでいた。
「……あーあ、初のPKで最悪な人に会うなんて、運がないわぁ」
「うひっ、運がなかったわね。でも、死んだ後は先輩として、優しく接してあげるわよ」
「えー、見逃して?」
「駄目♪」
カロナの強みは『瞬歩』という、短距離の瞬間移動を使えることで、奇襲が得意な戦法だったので、奇襲ではなく真正面からの戦いで『瞬歩』を使えないことになればーーー
「ごふ、強すぎるわぁ♪」
「いい線は行っているけど、まだまだね」
数手は防げたが、『回収』を使った剣技に裏をかいたナイフの投擲は防げなかった。最後にドルマを腹へ刺し、HPを0にしていた。
「またね……まぁ、掲示板で会うけどね」
「あるんだ……、またねぇ♪」
それだけを交わし、カロナは消え去ったのだった…………
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