第43話 思いがけないこと
北門を通り抜け、しばらく歩くとドルマの故郷である古い館が見えるけど、スルーする。
「そういえば、お前のペット、そこの館でテイムしたっけ?」
「そうよ。β版の情報通りだったわ」
「なら、出てくるモンスターや宝箱のショボさは変わらない訳か?」
「そうね。宝箱はポーションが入っていたけど、それだけよ。目新しい情報と言えば……ミイラから極稀に綺麗な包帯をドロップするぐらいかな」
「ふーん」
綺麗な包帯の情報に興味もなさそうに頷くジュン。ジュン程ではないが、2人も綺麗な包帯に反応をしない。
3人とも、綺麗な包帯を使う生産スキルを持っていないから仕方がないだろう。
「ボスとかいなかったのか?」
「いなかったわね。β版と同じよ」
「変わっているところはあるが、変わらないところもあるんだな」
「そう言う貴方はそのゲームを作った会社の社員ですよね?」
「はん! ただの平社員が深い所に関われると思うなよ!」
「ある意味、ジュンは深い所に関わっているわよ? 悪役の1人として選ばれたんだから」
製作側では関わっていないが、悪役を頼まれた所からある意味、運営の一部に関わっているとも言える。
「……深く考えたことがなかったな。そうか、そうなのか!! つまり、俺は同期の奴らよりも進んでいると言う訳か、出世の道を!!」
「ジュンが出世? ないわーーー」
「ないですね」
「あり得ないわ」
「おい、そこのトリオ。正座をしろや」
「馬鹿なことを言っていないで、さっさと進むわよ」
「本気で言っているんだが!?」
大ボスを探し回る中、数十分が経った。探し回る途中で何回かモンスターに出会ったが、推奨LV10~12の森(深)で苦戦するようなパーティではないので、ヨミとジュンだけで片付けていた。
「アタシ達の出番が少ないけど、いいの?」
「あぁ、メリッサは魔法を放っているだけでいい。まだレベルは1のままだろ?」
メリッサは水魔法と風魔法の2つを持っているが、ずっと料理に集中していたため、あまり使っていなかったのだ。モンスターと戦う時は杖術で牽制しつつ、失敗して出来た料理(ゴミ)を投げていたとか。
「そういえば、ゴミはどんな効果が?」
「決まった効果がないの。毒になるゴミ、50ダメージだけ与えるゴミ、麻痺になるゴミ、粘着性がある餅だったり……」
「最後のはゴミじゃないよね!?」
粘着性があるといえ、ゴミではなく餅と表示されている所から、きちんとした料理ではないかと思ったが……
「でも、このアイテムは……見てもらった方がいいわね。はい」
ネバネバ餅 レア度:C
注意!! これは食料ではない! 食べてしまうと、喉にくっついてしまうので窒息死するぞ!!
「は?」
見せてもらったのはいいが、効果なんて書いておらず、ただの注意呼び掛けだった。
「えっと……、食料ではなく、敵に投げて身動きを止められるアイテムだと言いたいのかな?」
「多分ね」
「ふむ、食料ではないなら、料理じゃないな!」
「あんたに改めて言われなくたって、わかってんのよ!」
怒りたくなるメリッサの気持ちは……わからなくもないが、今は身動きを止められる餅を、さっきから見つけていた反応へ投げてみた。
そして、木の裏から現れたウルフに当たった瞬間に、ボールみたいに丸かった餅がポンと音が鳴り、ネバネバした餅に変わってウルフの身体に降り注がれていた。
「物量がおかしくない? 手に持てるボールみたいな餅だったのに、それ以上の物量が降り注がれているんだけど……」
「この世界はゲームだから、仕方がないよ!!」
メリッサはそういい、親指を立ててウインクをしていた。
「そっかー、メリッサの料理だもんね」
「納得するトコが違くない!?」
「ゲームだから、何でもありと言いたいのでしょうが……アレは度を越えていますよ?」
ルイスが指を差した先には、当たった身体どころかウルフ全体を全て包み込んだ餅の姿があった。
「まだ暴れているみたいだが、しばらくしたら、窒息死で死ぬだろう」
ジュンが言った通りに、しばらく放ってみると抜け出せずにもごもごと暴れていたウルフが大人しくなったかと思えば、餅と一緒に光の粒になっていた。
「倒せたみたいね。この餅があれば、大ボスでも窒息死で倒せるんじゃないの?」
「まさか、大ボスがそれで倒せるわけないだろう。社内の噂で聞いたが、大ボスはβ版のよりも格段に強いと。まぁ、噂だから真偽はわからんが」
「ふぅん? 多分、その通りじゃない? 中ボスは強化されていたし」
戦ったサテライトもそうだが、他の中ボスもβ版ではあり得なかったことが起きたり、モンスターが違ったりして、強かったのだ。
「会えたら、投げてみるか?」
「メリッサ、数は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。沢山作って置いたから!!」
話によると、1枠は餅×99で埋まっているぐらいに作られているようだ。
「それにしても……」
見つからないねと言おうとした、ヨミの言葉が詰まる。
「なっ、何これ……!?」
ヨミが見つけたのは…………
全体がデフォルトされて、丸く、背中に羽があり、細く四角の穴、可愛らしい瞳、大きな鼻ーーーーーー
「ぶ、豚の貯金箱……?」
「ふおぉぉぉぉぉ!? ナリキンポーク!!」
ジュンは知っているようで、何故か興奮していた。
「知っているの?」
「知っているぞ! レアモンスターでなかなか現れないモンスターだ!」
「……その姿と名前から倒せば、莫大なお金が入るのでしょうか?」
「驚くなかれ……1000000ゼニだ!!」
「1000000ゼニ!?」
そう、ナリキンポークを倒せば、1000000ゼニを手にいれることが出来る。4人で分けることになっても、250000ゼニもある。
「やるぞ……ヨミは?」
「既に逃げ出したナリキンポークを追っていきましたよ」
「何ぃ!? もうあんなとこまで!?」
「そりゃ、あれだけ大声を出していればねぇ……」
ジュンが大声を出したせいで、危険を察知したナリキンポークは一足先に逃げ出していた。それを追うヨミ。
そのヨミは既に点になっていて、今から追い付くのは不可能だった。
「アタシ達の中で一番速いのはヨミちゃんだから、任せるしかないね」
追っていたヨミは距離が縮まらず、なかなか追い付けないでいた。
速いよ!? 追い付けないなんて、どんだけ!?
追い付けないのはわかったが、それで諦めるヨミではない。もし、飛んで逃げられたら、終わりなので走っている内にやらなければならない。
餅で動きを止める!
動きを止められる餅と『必中』があれば、ナリキンポークを止められるーーーーーー
と思っていた、投げたのだが……
「なっ!? 鼻息で!?」
投げた後に、ナリキンポークが振り向いて鼻息という空気砲で撃ち落とされていた。だが、投げたのは無駄ではなかった。
「少し距離が縮まった! 投げ続ければ……がぶっ!?」
更に餅を投げようと、アイテムボックスから取り出すヨミだったが、急に腹から衝撃を受け、脚を止めてしまう。
「な、何が……ッ、また!?」
脚を止めても、次は肩へ衝撃を受けていた。目には何も映っていないのに、ダメージを受けていることに驚愕を隠せないでいた。
「あぁ……もう無理だわ」
ダメージは大したことはないが、脚を止めてしまったので、距離が結構開いてしまった。今から走り出しても、追い付くのは無理だし、また邪魔されてしまえば、無駄なダメージを受けてしまうのはわかっているからだ。何もわかっていないままで追い縋るのは危険なので、諦める。
しばらく、待っているとようやく3人も追い付いた。
「ヨミ! 倒したか!?」
「無理だったわ。速いし、見えない攻撃に邪魔をされたし……」
「見えない攻撃? もしかして、鼻砲のことか?」
「ネーミングセンス皆無な技ね……って、鼻から出た奴なら餅を撃ち落とした時は見えたのに?」
「ナリキンポークの鼻砲は2種類あるんだよ。右穴は見える鼻砲、左穴は見えない鼻砲。知らなかったか?」
「レアモンスターのは詳しくは見てなかったからねぇ」
普通に出てくるモンスターだったら、調べてあるが、なかなか出会わないモンスターは軽く見ただけなので、ナリキンポークのことは知らなかったのだ。
「残念だったわね」
「ヨミが追い付けないなら、仕方がないですね」
「1000000ゼニぃ……」
「あとで、詳しく調べてからリベンジをするわ!」
ヨミは別に1000000ゼニを逃したことを悔しくは思っていないが、やはりやられたまま、終わるのを良しと思うことはなかった。
次に会った時はリベンジを絶対に完遂すると、燃えるヨミであった。
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