第37話 第1回イベント 後半
イベントも終盤に迫ってきた。今回はモンスターから街を守る、普通の防衛戦であったのにーーーーーー
《北門辺りのプレイヤー達》
「ぐぁっ!? ち、畜生! 後は頼んだぞ!!」
「クソッ、まだ増えていやがる!! こっちは14人まで減ってしまっているのに!!」
「こんなの、おかしくない!?」
今の図は14人のプレイヤーと5人の警備隊がモンスターの群れに囲まれている状況になっていた。ここは北門から少し離れた場所であり、助けを求めるなら、先に退場したプレイヤーが他の者を連れてくればいい。だが、すぐに来れる状況でもなく、助けには期待は出来なかった。何故なら…………
「なんでだ! プレイヤーがプレイヤーの邪魔をしているんだよ!?」
「連絡では、イエローだと言っていました!!」
「こんな時ぐらい、協力は出来ねぇのかよ!? PKプレイヤー共はよ!!」
「協力と言っても……背中を預けられないから無理だと思うよ。それよりも、周りのモンスターをなんとかして、警備隊を街の中に帰さないと……ぐわっ!?」
「ッ! 矢だと?」
警備隊を背後に、プレイヤー達が前に出てモンスターと戦っていたが、途中からモンスターの合間を縫うように矢が飛んでくるようになった。
「こっちにもPKプレイヤーが来てんのか!?」
「モンスターが邪魔で気配を掴めません!!」
「俺達以外にモンスターから襲われている様子がないことから、気配を消している可能性が高い!」
モンスターだけではなく、時たま矢が飛んで来るのでモンスター相手に集中するのが難しい。何故か、警備隊には矢は飛んでいかないことには安堵すべきことだが……
「回復薬が切れました!!」
「く、回復魔法を使える奴らは下がって、魔力回復に努めろ!!」
「ッ! テライノムシが複数で固まって向かっている!!」
イノムシと言えば、どの森にも生息している最弱の虫モンスターだが、動きを阻害する糸を吐く特性を持っている。『テラ』に汚染されているテライノムシは能力値が上がっていて、吐く糸も増えていた。
「糸を吐かれる前に燃やしてやれ!!」
「『ファイアストーーー』がぁっ!?」
「また矢をーーー避けろぉぉぉぉぉ!!」
威力は単発の『ファイアボール』よりも下がってしまうが、広範囲にダメージを与えられる『ファイアストーム』を発動しようとしたが、喉に矢を喰らって魔法名を唱えることが出来なかった。
NPCが使う魔法よりも結構簡略化されていて、プレイヤーは魔法名を唱えるだけでいいのだが、魔法名を唱え切る前に阻害されていた。それだけ、矢を放った者は技術が高かった。
魔法で迎撃が出来なくなったプレイヤー達はまともに糸を喰らってしまい、動きを阻害されてしまう。
「しまっーーぐえっ!?」
「なっ、誰だ!」
「な、イエローだぁぁぁぐぁ!?」
「なんか、ごめんな……」
イエローの名を浮かべている細身の男は木から飛び降りたのか、1人を踏んでしまっていた。謝りながらも、手に持つ大鎌で糸に動きを阻害されているプレイヤーを斬っていく。
「おっと、モンスターはこっちの仲間じゃないんだったな」
「気を付けろよ」
「すまねぇ」
背後からモンスターに襲われそうになっていたが、振り向くと頭に矢が生えて消え去っていく所だった。プレイヤーへ矢を放っていた者が助けていたのだ。
「ふぅ、これぐらい減らせば、充分かな。|ボウさん(・・・・)」
「あぁ、次に行くぞ」
「ま、待て!」
「じゃあな」
糸から逃れることが出来たプレイヤーは警備隊の守りに回っていたので、PKプレイヤーと戦うことはなかった。だから、数人のプレイヤーと警備隊はなんとか生き残れているが、まだ周りにはモンスターが沢山いる。そして、PKプレイヤーは去ろうとしているのを止めようとしたが、無視されて姿と気配が消えてしまう。
「消えた!?」
「ヤバいぞ!! 数が足りない!!」
「くっ、ここまでか……」
「諦めるな!! …………俺達がなんとか道を作るから、走って街に向かえ!!」
「なっ、それではお前達が……」
「いい!! 俺達は生き返るから気にするな! 振り向かずに前へ進め!!」
残ったプレイヤー全員はペナルティを覚悟し、死ぬ気で道を作って警備隊を逃がすことに注力する。それでも、警備隊を無傷で帰すのは不可能だろう。だが、1人でも生きて帰す為にやらなければならない。
プレイヤー達の覚悟を感じたのか、警備隊はもう何も言葉を口にしなかった。お礼なら生きて帰ってからすればいい。
「やるぞ!!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」
うひっ、行かせないよぉ。ドルマ、モンスターに紛れてプレイヤーを早期に退場させてあげなさい。
ヨミは木の上でプレイヤー、モンスター、警備隊、PKプレイヤーにも察知されることもなく、ずっと様子を見ていたのだ。
アレがリーさんとボウさんね。思ったより働いていたなぁ。あ、警備隊には手を出してはダメよ? 周りに任せればいいから。
ドルマが現れた先に、プレイヤー達はモンスターと戦っている最中に背中を斬られて、数を減らしていた。プレイヤーの数が減るごとに警備隊は危険が増えていく。
そして、警備隊もモンスターにやられて消え去っていく。1人だけでも、隊長だけでもと、隊員達は頑張っていたが…………それでも、数の暴力に勝てる筈もなくーーーーーー
ふ、ふひひひっ!! これで、最後の1人にーーーーーーあ、死んだわ。
最後まで残った隊長だったが、北門が見えた瞬間に安堵してしまったのか、テラウルフの群れによる噛みつき、斬り裂き、突進を背中からまともに喰らってしまっていた。
北門で警備をしていたプレイヤーが警備隊が逃げているところを見つけたが、まだ距離があって助けに入るのは無理だった。
あっさりと死んだわねー。このまま北門へ向かって、ある程度はダメージを与えてくれれば充分かなぁ。………あ、ジョーさん見つけ♪
北門から離れた場所で、双剣を背中に収めている男性を見つけた。イエローだったので、ジョーだとすぐわかった。どうやったのか、ジョーは近付いてくる者に気付いていた。
「誰だ……なんだ、仮面ちゃんか? わかりやすい目印だな」
「ふふっ、もう10人も片付けちゃうなんて、凄いじゃない?」
「警備隊に着いていたプレイヤーじゃないけどな。次はあいつらと交代だ」
今回、ヨミ以外のPKプレイヤーはパーティを組んでいた。
「なぁ、パーティを組まねぇのか?」
「ごめんね。今はまだ名前を知られるにはいかないのよ」
「ったく、どうやって名前を隠してんだか。まぁいい、今回はお前が依頼者さんだ。意向には従うさ」
名前を表示していないヨミだが、パーティを組めば、ステータスから名前が表示されてしまう。なので、ヨミだけはパーティを組まずにソロの状態で動き回っていた。
「次は西門をお願いするわね。その調子なら、私が東門へ向かっても大丈夫そう」
「おいおい、お前は俺らの保護者か?」
「近いんじゃないの? ちゃんと働いているかの確認だったから」
もし、3人があっという間にやられるならヨミ本人が動いていた。今回の戦いを見たヨミはこれなら、片方を任せても大丈夫だと判断した訳だ。
アルベルトは……あれ、まだ南門に?
ジュンには定期的にアルベルトの動向を追って連絡するようにとお願いしていたのだが、1番厄介そうな人物が、何故かまだ南門から動いてはいなかった。
「何をしているんだか……」
「どうした?」
「いえ、第1位の人が何故か動いていなくて。仲間からの連絡によると、アルベルトとそのパーティ仲間だけが南門で待機しているみたいのね」
「多分、まだ防衛戦が終わっていないと思っているからじゃねえの?」
そうか、その考えもあるか。今回はどの門にも ボスクラスのモンスターは現れていない。もし、その考えが合っていれば、アルベルトは数人だけでボスと渡り合えると考えているということになる。
……割りと気になってきたわね。テイトクを倒した実力といい、街や警備隊に何も被害を出させずに殲滅するとか…………普通じゃないよね。
普通じゃない側のヨミが何を言っているんだかと言われそうな言動だが、ヨミは気付いていない。自分はあくまでも普通側だと思っているのだ。
《東門辺りのプレイヤー達》
「何が起こっている?」
北門にいたプレイヤーから連絡で、警備隊が全滅したと知られた。まさか、第4位のハイドが警備隊の守りを渋るとは思えなかったし、30人も着いていったプレイヤー達がやられたことになると…………
「ダンは先に進んでいるから、俺がこの場の指揮を取ることになっているが……、お前に指揮権を譲渡し、俺を加えたベテランの10人で警備隊の守りに回る」
「ツツジさんが直にですか!?」
ダンと同じ場所に配置されていたのは、第7位のツツジだった。まだ覚えているかもしれないが、ヨミに双剣を折られてボロボロにされた男である。
「そうだ。連絡ではイエローのPKプレイヤーが邪魔をしているようだ」
「あ、まさか……」
「そうだ。俺を倒したあの仮面野郎がいる可能性がある」
第7位を倒した者がいるなら、この場でも1番強い者がいくべきだろう。もし、出会うことがあれば、今度は油断をせずに10人の数を以て、擂り潰すつもりだった。
「……ご武運を」
「あぁ、ここは任せたーーーむ!!」
「うわっ!?」
さっきまで話していた男を突き飛ばし、双剣で何かを弾いていた。
「誰ーーーまさか、お前かぁぁぁ!!」
ツツジがいる場所、東門の近場。指揮の為、後方で待機していたので、ツツジの周りは味方だらけでモンスター1体もまだいない。そんな場所に現れたのはーーーーーー
「はい♪ 私は仮面ちゃんよ。皆を殺しに来ましたわ♪」
仮面ちゃんこと、ヨミ1人だけだった。いや、既にドルマを装備しているから1人と1体か。
「馬鹿め! 1人でのこのこと敵陣に入るとはな!!」
「あら、第7位が周りに頼って勝とうとしているのかしら? 情けないわねーーふひっ」
「貴様……挑発には乗らんぞ! 皆、全力で掛かるぞ!!」
ツツジの指示に雄叫びをあげようとするプレイヤーだったが…………数秒後には悲鳴が響き渡っていた。
「ッ! ナイフか!?」
「うひっ、喋っている暇があったら周りを見たら?」
「な、最前線の奴らに!?」
ヨミは近くにいた後方のプレイヤーではなく、少し向こうでモンスターと戦っていたプレイヤーを狙い、モンスターへ隙を作ってあげていた。
「ぐぁっ! 何が…ぎゃぁぁぁ!?」
「後ろから!? 後方は何をーーー」
「陣形が崩れている! 魔術師の方に行かせるな!!」
隙を作られ、モンスターにやられる者、後ろから攻撃されたことに集中が散漫になっている者、それぞれのパーティでリーダーが指示を出すが混乱したままで上手く立て直せていなかったり…………ナイフを投げただけで、様々な効果を発揮させていた。
「おっと?」
「もうナイフを投げさせるか!!」
「結局、1人で突っ込んで来ちゃって。自分は挑発には乗らないとか言っていたのにねー?」
「黙れ! 俺はお前に負けてからレベル上げに注力してきた!! 前みたいに力負けなどはせぬ!!」
「弱い雑魚程によく叫ぶのは本当のことだったわね。うひっ」
「うがぁぁぁぁぁ!!」
怒っているが、我を忘れる程ではないようだ。きちんとした技術があり、ツツジが言った通りにレベルを沢山上げて、力負けしないように鍛えていると感じた。
「あはっ、力さえ負けなければ勝てると?」
「ふん! お前の長所を1つ潰したことになる。技術と数はこちら側が勝っている。つまり、お前に勝ち目はない!! お前達も来い!!」
ここまではツツジ1人だけでも、ヨミと戦えていた。後は仲間達も加わることになれば、ツツジはもう負ける気はしなかった。
「確かに数は負けているわね。でもーーーーーー技術はどうかしら?」
「な、剣が消ーーーぎ!?」
「まだまだよ」
ヨミは『回収』を使った剣技で接近戦を圧倒していた。
「な、何故! 剣がぁぁぁ!?」
打ち合っていた筈の剣(ドルマ)が視界から突然に消えたかと思えば、脇腹に突き刺されていたり、また消えて顎を打ち抜かれ、更に『スーパースラッシュ』で再び双剣を破壊され…………
「ま、また俺は……」
「リベンジ出来なくて、残念だったわね」
既にツツジのHPは真っ赤に染まっており、あと掠り傷を付けるだけでもHPが消え去るだろう。
「なんだ、なんでだ……」
「あら、心が折れたの? 早いわね…………うひっ。貴方は技術が高いけど、意外性がないからつまらないのよ」
「つ、つまらないだと……」
「そう、つまらないわ。貴方がやってきたことは経験があれば出来ること。それしか、してこないからつまらなかったのよーーー」
「う、うああぁぁぁぁぁ!!」
ツツジが今までやってきたことを否定されて、完全に心が参っていた。ツツジが叫んで動いていたせいで、首に添えていた刃先に当たり、自滅した。光の粒になって消えていく姿に目を丸くするヨミだった。
「…………まぁ、最期は意外性があったわね」
呆気ない終わりに哀れみを向けていたが、まだ周りのプレイヤーが動いていなかったことにハテナを浮かべるヨミ。
「貴方達は来ないのかしら?」
「つ、ツツジが……」
「第7位があっさりと負けるなんて!? 勝てる訳がない!!」
「い、いや! 数では勝っているんだ!!」
「で、でも!」
どうやら、周りに取ってはツツジと言う存在は結構高い地位にある人物だと認識していただけあって、そのツツジがあっさりとやられたことが衝撃的であった。その為、戦わずに逃げる者や覚悟を決めて戦いに挑もうとする者に別れた。
「うひっ、敵は私だけだと思わないことよ」
ツツジとの戦いが衝撃的で、忘れられたことがあった。ヨミは最前線をナイフでモンスターとの均衡を崩していたことをーーーーーー
「うわぁぁぁ!! 最前線が崩れている!?」
「モンスターとPKプレイヤーの挟み撃ち……!?」
「こんなのどうすればいいのよ!?
「うひひひっ! 楽しい乱戦の始まりよ♪」
このイベントでPKプレイヤー、仮面ちゃんと言う名が広まるのだったーーーーーー
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