第35話 第1回イベント 中盤
「ふむふむ、アルベルトがいる南門以外は20~30人程のプレイヤーが動いたわね」
プレイヤーが着いていっても、着いていかなくても、計画には問題は起きない。というか、ヨミ本人が分断したプレイヤーや警備隊を狙うことはない。
さて、あれの効果が出るの、そろそろよねぇ……うひっ。
ヨミは子供達を連れ出して、眠らせた以外にやったことがある。警備隊へ知られるように動いたのも、ヨミだ。お嬢様で中学生にしか見えないヨミが警備隊へ子供を見たと知らせても信じてくれない。
だから、第三者を使ったのだ。ヨミと子供のことをよく知る者であり、一緒に遊んでくれた相手でもある…………そう、あのヒーロー達だ。
ヒーロー達はヨミと子供達は仲が良いことを見ているので、まずヒーロー達に子供達がいなくなったことを知らせた。正義感があるヒーローは、すぐ信じて街中を探し回ってくれた。
「ふひひひっ、私に似た身長で銀色の髪をした子供がいたことは好都合だったわねぇ」
ネタバレをすれば、ヒーロー達は子供のことをよく知っているので、ヨミは背格好が似ている子供に成り済まし、街の外で待機する。そして、フレンドであるイエローへ『これだけ探してもいないなら、もしかしたら森へ行ってしまっているかも……』と送っておいた。
そうすれば、こちらを疑うこともなく森へ出てくるのではないか。策が成功していることに笑いを噛み殺しながら、ヒーロー達がぎりぎり見える場所を横切るだけ。そうすれば…………
『子供は街の外へ出ている』と誤認してくれる訳だ。
もちろん、ヒーロー達に見つかるヘマを犯すこともない。広い森をヒーロー達だけで探すのは無理があり…………警備隊へ頼んでしまう。いつもなら、プレイヤーにもお願いするが、今回はイベントがあるため、手伝ってくれる可能性が低いから最初に警備隊へ助けを頼んだのだ。
それらの行動、意図がヨミによって動かされていることを知らずにーーーーーー
「ふ、ひひひぃぃぃ!! 正義は悪に負ける宿命ねッ!! 今頃、始まっている筈ーーーーーー」
イベントが始まり、4つの門に向けてモンスターが動き始めた。アルトの街周辺で現れるモンスターが全てだったが、違う所が幾つかあった。
「レベルが普通のより高い!!」
「なんだそりゃ、名前の上に『サテ』が付いているんだが!?」
「……一部が赤くなっている」
『旅立つ青鳥』もイベントに参加して、北門にいた。ほとんどのモンスターは一度は戦ったことがあるモブのモンスターだが、一部の体が赤くなっており、レベルも普段のより高めになっていた。
「赤い部分に、『サテ』が付いていることから……」
「……中ボス関連なのは間違いない」
「4体目の中ボスが倒された後に、通知が来たからな。まさか、イベントのボスは第1ステージの大ボスか?」
「イベントに本来の大ボスを絡ませることはあまりないが……」
「可能性はあると考えた方がいいわね」
「……1つだけわからないことがある。子供のこと」
ハーミンは府が落ちないような表情を浮かべていた。
「いなくなったと、事件があったな。タイミング的に考えると、イベント関連だと思うが?」
「……なんか、人為臭い」
「意味がわからないのだが?」
「もう、ヤルドは察しが悪いわね。つまり、わざとこの状況を起こした人がいると言いたいのよ」
「……しかし、プレイヤーはそんなことを起こしても旨味がない。森に出てしまった警備隊がやられると、減点になるのはわかっているし、NPCだと考えても切りがない。数十人のプレイヤー達も動いているから、そっちは任せるしかないだろう」
「解決出来ればいいけど……」
戦える警備隊はともかく、一般人で弱い存在である子供が死んでしまうのは悲しい。だから、さっさと見つけて避難して貰いたいとローランはそう思っていた。
「行くぞ! ダンに遅れるな!!」
「……無理に決まっている。AGI特化の暗殺者に追い付くのは」
タクヤ達が配属されているのは、第3位のダンがいるところ。話題のダンは既にモンスター群れへ突っ込んでおり、スピードを生かして短刀で斬り裂いている。もちろん、追い付くのは無理だ。
「なっ!? なんで、こんな場所までモンスターが!!」
「クソッ、20体ぐらいはいる……。警備隊は下がって、皆! やるぞ!!」
「「「おう!!」」」
通知された、モンスターの大群が現れる方向とは違うところから20近くのモンスターが現れていた。本来なら、まだ安全だと言える森の浅いところだったが、これでは警備隊から死人が出てしまう。
「クソォォォォォ!! 最悪でも、俺達がやられても警備隊だけは逃がすぞォォォォォ!」
「まさか、他の場所も同じように……!?」
そう、襲撃があったのはここだけではない。アルベルトがいる南門以外は突然の襲撃で倒れる者が次々と現れていた…………
しかし、何故アルベルトのとこだけ無事なのか?
《ジュン視点》
「……すげぇ、これなら警備隊は無事だろうな」
最初からアルベルトの活躍を見ていたジュンはこの状況に驚愕していた。何故、警備隊が襲われることはなかったのか? それは、アルベルトが指示した陣形にあった。
「扇状にして、北門も警備隊も纏めて守るなんて、何処か一部でもやられたら、終わりだった筈だ。まさか、アルベルトさんが言った通りに殲滅しきるとは」
アルベルトが指示したのは、陣形を扇状にして警備隊が内側にいる内にモンスターを殲滅しきることだった。1番モンスターが多い場所はアルベルトが担当し、次点に多い場所は乱戦が得意な第5位のテイトクがいたといえ、1体も通さずに守りきるとは思っていなかった。それだけに異常なことであったということだ。
ヨミは計画に支障はないと言っていたが、アルベルトが他の場所を手伝わずに街へ戻ると言ったら、少し危なくないか?
ヨミが主に行動している場所は街の中だ。表だって動くことはしないと言っていたが、常に眠っている子供達の近くにいる。もし、ヨミが子供達と一緒にいるところを見つかるようなことがあれば、街の中で戦いになることはなくても、少なくともプレイヤーからの信用はなくなってしまうだろう。
だが、その心配は無用だった。
「ここで3つに別れて、他の門へ行くぞ!」
ジュンが考えていたような事態にはならないことに内心で安堵しつつ、こっそりとヨミへメールを送るのだったーーーーーー
……あら、もう南門は片付けちゃった? 少し早いんだけど……。アレの効果はまだ残っているから回収はまだ無理だし……
アレとは、ルイスが準備した、モンスターを誘い込む効果を持つ香草から作られた薬のことだ。燃やすとモンスターが好きな匂いが広がり、集まってくる。
ヨミはそれを使い、警備隊が探しそうな場所へ幾つか設置して放っていた。効果が切れたら、回収しなければならないが、人が増えて見つけられては困ることになる。人為的なことを隠す為に、回収したいが、効果を発揮している時はまだ回収出来ないことになっている。
今回は表立って動くつもりはなかったが、そうはいかないようだ。
はぁ、仕方がないわね。……あの人達を巻き込もうかしらーーーーーー
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