第34話 第1回イベント 前半




 翌日、土曜日に開催されるイベントの内容が告知された。中ボスを倒したことで、そいつらを統治する大ボスが始まりの街、アルトの街へ大量のモンスターを送り出す。

 つまり、今回のイベントは街をモンスターから守る防衛戦となる。ヨミはそれをどう掻き回すか考えていた。そして、考えた結果は…………




「皆はまだイエローにならなくていい。むしろ、普通にパーティを組んでイベントに参加して」

「はぁ? 掻き回すとか言わなかったか?」

「説明をお願いします。それだけでは、意図がわかりませんので」

「アタシ達でパーティを?」

「ちゃんと、説明するから聞いて」


 ヨミが考えた作戦とは? それを皆に話すと…………




「…………確かに、プレイヤー達には結構な打撃になるな」

「それで、僕達に普通に参加しろと言っていたのですね」

「それって、結構大変だよね? 中から切り崩すって……」

「皆ならやれるって!! 私は早速、動くから!」

「ちょっ、待っ……行っちゃったな」


 イベントでやろうとしていることは、準備が必要なのでヨミはすぐ動き始めた。















 イベントが始まる前日。ゲーム内の時間で言えば、6時間前となる。その時に…………事件が起きていた。




「聞いたか? NPCの子供達が十数人もいなくなったとか」

「NPCの? 別に放ってもいいだろ? もうすぐでイベントだが、防衛戦と聞いているし、関係があるとは思えん」

「だが、街に入られてNPCが殺されると減点されるんだろ?」

「だったら、街に入れないように戦えばいいだけだ。俺らのプレイヤーはまだアルトの街しか行ける街はないから、用事がある奴以外の全員が集まるだろ。子供達がいなくなったと言っても、街の中に潜んでいるだろ?」

「恐らくな。子供だけで門を通って、森へ行けるとは思えないな。それに、ほぼ、全員が参加するなら四方向から攻められても守りきれるだろうな」


 イベントが近付く中、β時代からやっているプレイヤー達が中心になり、4つの門前に集まっていた。前回のランキング、1位~4位がリーダーとして、皆を率いて行く中ーーーーーー




「うひっ、準備は完了。後は皆が騒ぐだけ…………うひひひっ!!」




 ヨミは高いところから周りを見渡せる場所で、笑っていた。作戦開始と言うように、皆へメールを送り始めた。






 それぞれが、門前でモンスターが襲ってきても大丈夫ようにと、リーダーが指示を出して、陣形を整え始めた時にーーーーーー


「何? NPCが集まって森に出ようとしているだと?」


 ランキング4位のプレイヤー、ハイドはパーティ仲間である女性の言葉に眉を潜めていた。


「はい。でも、私達と一緒に戦うとかではなさそうでした」

「一緒に戦おうと考えているなら、むしろ迷惑だ。1人でも死ねば、減点されるからな。で、なんで森に行こうとする?」


 ハイドは口が悪く、山賊に間違われそうな容姿をしているが、仲間思いで優しい心を持っている。ハイドはイベント前からNPCは危険だから森へ出ないで街の中心に集まって大人しくして欲しいと注意を呼び掛けていた。だから、何かがない限りは街の外へ出ようとはしないのはわかっている。


「……何かがあったのか?」

「……数時間前から子供達がいなくなったことを聞いていますか?」

「ん? あぁ、それは警備隊が探して…………まさか」


 ハイドは察しが良かった。こんな状況で街の外へ出ようとしている理由がわかったのだ。


「まさか!? 子供達が外にいると言うのか!?」

「はい……。警備隊へ情報が届いたらしく、数時間前、子供を外で見たとか。容姿や服装などが一致したことから偽の情報ではなく、可能性あるということで……」

「待てよ、門には警備隊と門番がいた筈だ。なら、外には出られない筈ーーー」

「もしかしたら、子供にしかわからない隠された通り抜けが出来る道があったのでは?」

「……ルイスか」


 ハイド、ルイスはお互いに知り合いになっていた。だから、横から口を挟まれても怒ることはない。


「それに、今回のイベントに因る事件も考えられませんか?」

「…………あり得るな。クソッ! 意地が悪い運営だな!?」


 ルイスはこの事件を運営のせいだと広めることで、信憑性を高めていた。今回のイベントは単なる防衛戦ではないと臭わせることでーーーーーー

 ルイスだけではなく、他の門でもヨミの仲間が動いていた。ヨミを除くと、1人足りなくなるので、マミにも手伝わせていた。


「あわわわっ……」

「お嬢さん、それは本当のことですか?」

「はいぃぃぃ! 警備隊が言っていましたぁ!!」


 第2位のプレイヤー、『薔薇の戦乙女』として名高い女性に声を掛けられて、はわはわと慌てていた。『交渉』のスキルを持っていても、雲の上に存在する女性と話すのは敷居が高すぎた。


「そうですか……、他の門も同じ状況になっているとしたらーーー」











 ふ、ふひひひぃぃぃ!! 私が思っているように動き始めたわね。そろそろ動こうかしら? それとも、しばらくは様子見かなぁ?



 ヨミはさっきまで高いところにいたが、今は街の中で1番低いところを歩いている。そこは…………


「さぁ♪ 静かに寝ているかな♪」


 いなくなったとされている、子供達が石畳にて、眠っていた。ここは子供が見つけた秘密の遊び場、秘密基地と言える場所だ。下水道だが、子供達がいる場所は広場と言えるところで、臭いもそんなに気にならない、大人達も知らない。子供達にとっては、好都合な場所になっていた。




 だが、何故ヨミがこの場所を知っているのか?




「バカだよね。会ったばかりの人にこの場所を教えるなんてね……ふひっ、ルイスの眠りの香水は結構使えるわね」


 ヨミはこのイベントが始まるまでは、ヒーローに群れていた子供達と遊んで仲良くしていた。自分が大人であることを隠し、一緒に遊んでいたことが功を奏したのか、この場所を教えてくれる程に仲良くなっていた。

 そして、この場所へ集まって貰った後にルイスから貰った、眠らせるだけの効果を持つ香水で子供達を眠らせていた。眠らせただけで、傷を付けてはおらず、無理矢理に連れて誘拐などはしてないので、レッドにはなっていない。


「このまま、眠ってもらって……プレイヤーとNPCの警備隊には踊って貰うわ」












《ハイド視点》



「警備隊なら少しは戦えると思うが、念のために30人程がついていく。そして、大量のモンスターを見掛けたら、すぐ街に引き返せ。その条件を飲むなら、こちらはもう何も言わん」

「……こちらとしては、助かることだがなんとしても子供達を見つける必要がある。小さな命を見捨てたら、何の為に警備隊になったか意味がわからなくなる」

「だからと言って、自分の命を捨ててもいい理由にはならねぇ!! お前らにも親やパートナーがいるだろ? そいつらを悲しませるつもりか」

「…………わかった。無理はしない」


 ようやく理解を得て、警備隊は30人のプレイヤーを連れて行った。


「いいのですか? あの30人はβ時代からやっているベテランですが……」

「無論だ。送り出したからって、負けて街へ入らせるような馬鹿はしねぇよ。こっちには俺と8位のお前がいるんだろ?」

「……そうですね。上手く周りを使う必要がありますが」

「それに、俺達よりも他の門も心配だな。何か連絡は取れたか?」

「今、連絡を…………来ました。……………………成る程。他の門でも同じようなことが起きていますね」


 ハイドの仲間、8位の女性は他の門に向かったフレンドと連絡を取り、状況を共有していた。


「……おかしいな。動いているのは警備隊だけだよな? もし、一般人も動いていたら笑えねえぞ」

「いえ、大丈夫ですよ。警備隊だけが動いているようです」

「それだけ、救いか…………つまり、今回の事件は子供がいなくなり、何処かの誰かがそれを門の外で見掛けたと連絡が…………」

「え、待って!? まさか、何処かの誰かって、プレイヤーじゃないの? 門の外へ出るのは今はプレイヤーしかいないわ。前日から皆に注意を呼び掛けたから、NPCは外に出てない筈よ…………あ、ルイス?」


 女性が気付いたことをハイドに話していた所に、ルイスが現れて肩に手を置かれていた。


「こう、考えられませんか? 確かに、警備隊に伝えたのはプレイヤーですが…………その中身が運営者の誰かとしたら?」

「……その考えもありますわね」

「待った。ルイス、何故運営が動いている可能性が高いと思った?」


 ハイドはルイスが運営者のせいにしようと話が動いていることに違和感を感じていた。だから、その問い掛けだったが……


「それは簡単な理由ですよ。運営者でもないプレイヤーが邪魔をしても、メリットがないからです。NPCを殺され、減点されるのは近くにいた者ではなく、全員なのですから」

「それでか」


 まだ違和感が拭えないが、ルイスが言っていることは正論だ。プレイヤーが邪魔をしても、そのプレイヤーに旨味がない。だから、今回の事件はイベントと繋がっている運営者がやっていることだと判断するしかない。

 まさか、イベントの報酬には興味がないヨミがやっているとは思わないだろう。










「アルベルトさん!! 行かせても良いのですか!?」

「構わないと言っただろう?」

「でも! せめて、誰かを何人か付けて……」

「必要ない……この話は終わりだ」


 1位のアルベルトがいる南門では、ジュンが動いていた。アルベルトが子供達を探しに来た警備隊を放っておくとは思わなかったジュンはなんとか、戦力を分断させようと、言い寄るが、無駄に終わった。別に無駄に終わっても計画には支障はなく、警備隊がすぐやられてプレイヤーにダメージを与えることが出来るのだが……

 ジュンは他の門では分断に成功しているのに、ここだけが出来ていないとメリッサに何か言われるか予想出来ているから焦っていた。


「……モンスターが向かってくる方向はイベントの告知によって、わかっている」

「それはそうだが……」

「なら、撃ち漏らしもなく殲滅してやればいい。それなら、街やあいつらの方は無傷だ」


 何を馬鹿なことを……と普通なら思うだろう。だが、目の前にいるのは、あのアルベルトだ。そのアルベルトが出来ると言っているから、出来そうと思わされてしまう。実際に、ここにはジュン以外のプレイヤーもいるが、誰1人も文句も言わずに黙って時を待っているように思えた。

 その状況がアルベルトのカリスマによるものか。ジュンもカッコエェ……と思うのだった。










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