第33話 飲み会



 美世は既に鳴海が予約してあった店で待っていた。先に累が来て、相変わらずの七三髪にスーツ。それに、急いで走ってきたのか、汗だらけの潤が暖簾(のれん)を潜(くぐ)っているのが見えた。


「まだ30分も余裕はあるよ?」

「なぬ!? 鳴海の奴、早めの時間を教えやがってぇぇぇ!!」

「まぁまぁ、後は鳴海だけですね。少し待てば、来るでしょう」

「ったく、来たら文句を言ってやる!!」

「立っていないで、座ったら? もう飲み物は頼めるみたいよ」

「ビール!!」

「では、サワーを」

「ん~、私はオレンジカクテルかなぁ」


 先に飲み物を注文し、仕事から直帰してきた二人から仕事の話を聞いていた。ゲームの話は全員が集まってからと決めていた。


「そりゃ、上は土曜日からはじまるイベントに多忙だったさ。俺らは下っぱだから、あまり関われないけどな」

「こちらは何も変わったことはありませんでしたね」

「累の奴はそうだろうな。ってか、この時間に来たということは、早抜けか?」

「そうですね。こちらには頼れる部下がいますから、任せても問題はないと判断のことですから」

「へぇ……、いい部下がいたんだねぇ。私は後輩が入ってきても、すぐ音を上げて辞めちゃうし」

「会社に問題ありだろ。それは」

「よく10年も続きましたね?」

「私は優秀だからねッ!!」

「はいはい」


 御座なりに返事を返す潤にイラッとした美世は、視線を外した隙にビールへラー油を数滴入れてやった。


「っと、もうすぐで7時…………ごぶぁっ!?」


 腕時計を見ながらビールを啜った潤はラー油の辛さとビールの苦味が合わさってーーーーーー吹き出した。


「汚いー、店員さん。アホが吹き出しちゃったので、布巾を下さい」

「は、はい! すぐにお持ちします!」


 犯人の美世と見ていた累はちゃっかりと自分の飲み物を手に持って回避していたので、被害は全くない。


「げほ! ごほっ!! な、何をいれやがった!?」

「えー、知らないよ? 気管に入っただけじゃないの。布巾を頼んだから、ちゃんと拭きなさいよ?」

「犯人は美世かぁぁぁ……」

「やれやれ、その混ぜ混ぜは僕がやりたいとこでしたよ?」

「止めろや!? お前のは洒落にはならねぇからよ!!」


 前に何回かやられている潤にしたら、今のようなのはまだマシだと言えるぐらいに優しいレベルだ。だが、累がやることになると…………


「う、うぅっ……思い出したくねぇ……」

「えぇ、飲んでない私でも引くわ。あの色は……」


 前に、何を混ぜたのかレインボー色のを口に含んでしまった潤は、トイレから2時間も出られなかった経験がある。

 そんな下らないやり取りをしていた3人だったが…………






「おい、もう過ぎたんだが?」

「珍しいわね。いつもならちゃんと時間を守っているのに……」

「何かあったのでは? メールを送ってみましょう」


 累がメールを送り、それから30分経ち…………







「ゴメン! 寝坊したわ!!」

「おいっ……あれ、スーツじゃない? もしかして、休みだったのか?」

「そういえば、夜はオールでゲームをしていたわね。でも、ゲームの後に寝たなら……」

「えっとぉ……」


 鳴海の話によると、強制ログアウトされる前に、ログアウトした後は朝御飯とシャワーを浴びていた。それから、寝ようと思ったが……、目が冴えてしまっていて眠れなかったとか。そして…………ゲームにログインしていた。


「だからと言っても、またゲームにログインするとは、馬鹿じゃねぇのか?」

「何よ! 仕事は休みを取ったんだから、好きにしてもいいでしょ!」

「主催者が遅刻しては駄目でしょ?」

「うっ……ごめん」


 ゲームをして、ログアウトしたのは昼過ぎだったので、慌てて目覚ましをセットしたが、その時間が一時間もずれていた。累からのメールで目覚めたのはいいが、遅刻は確定されていたのだった。


「まぁ、次から気を付ければいいし、時間はまだまだ一杯あるから楽しまないとね」

「美世の言う通りですね。何を飲みますか?」

「……うん、潤以外はありがとう。ごめんね」

「おいっ!? なんで、俺を除く!?」

「なんか……、その態度の貴方に謝ったら負けたような気がするもん」

「もんじゃねぇよ! それを許されるのは10代と美世だけだ!!」

「ちょっと、その言葉に物申したいんだけど?」


 鳴海もようやく来たので、予約してあった料理を呼び寄せた。


「……まぁ、言いたいことは色々あるが、今回集まったのは……」

「報告会ね」

「そうだ。目標は達せられたか?」


 目標とは、プレイヤーレベルを20以上にする、1つでもスキルレベルを5まであげること。この2つの目標を達せられたのは…………


「俺はもうレベル21! そして、スキルレベルも『回復魔法』をレベル6まで上げたぜ!!」

「はやっ!? 私はまだレベル15なんだけど! あ、スキルレベルの方は『テイム』をレベル5に出来たとこよ」

「ふっ……、勝った」

「アンタ、どれだけやっているのよ? 美世ちゃんは誰よりも長くやれているけど、魔物使いだから経験値を分配されるといえ……アタシよりレベル8も離れているって、どういうことよ」


 ヨミのレベルはブレイブグリズリーを倒したら、レベル15まで一気に上がっていた。だが、潤はそれを超えるレベルになっていた。


「ということは、鳴海はまだレベル13か? あんまり戦っていないのか?」

「そうよ、私は料理のレベル上げをしていたわ。今は7まで上げられ…………」






「嘘だッ!!(ひ○らし風)」






 ここが居酒屋であることを忘れる程に衝撃を受けたのか、画風を変えて叫ぶ程だった。


「じ、潤!! 静かに!」

「あっ、……すまん」

「おい、チャラい人。ちゃんと、アタシにも謝りなさいよ?」

「名前すら呼ばれない!? って、レベル7にしたのは嘘……冗談だろ?」

「本当のことよ」


 そう鳴海は言うが、皆は懐疑な眼で見ていた。ゲームといえ、アシストがあっても鳴海の腕が改善されるとは思えなかったからだ。特に、口へ含めると液体みたいに溶け出すおにぎりを食べた潤は全く信じてはいなかった。


「信じていないのね……だったら、あとでステータスを見せるわよ? というか、ゲーム内で集めればよかったわね」

「集めたのはそっちだろ……で、累は?」

「僕ですか。レベルは17、『鑑定』、『製薬』、『錬金術』をそれぞれレベル5まで上げましたよ」

「もう3つも上げたんだ……。目標を達したのは、潤だけみたいね」

「へっ、どうだ!?」

「でも、ゲームを一番進めているのは美世ですね? この間、中ボスをソロで倒したようですし」

「ぐぬぬぅぅぅ……だったら、俺は大ボスをソロでやってやら!!」

「無理でしょ。中ボスでもとても苦戦したのたから。なんだったら、先に中ボスへ挑んだら?」

「…………場所がまだわからねぇ」

「あら、私のを教えてもいいけど、『旅立つ青鳥』の掲示板を見たら? 多分、私の分まで公開してあると思うから」

「マジか!? 早速、読んでみるぜ!」

「やれやれ、美世は他に凄いことでもしていそうですね。もしかして、既にイエローに……「なったわ」…………はい?」


 まだ名前の色を誤魔化すアイテムはまだ見つけてないから、まだPKはやってないだろうと思っていた。美世に問い掛けてみたが、あっさりとイエローになったと告げられ、皆は呆気に取られていた。


「いつから!?」

「3日目だから……一昨日ね」

「早過ぎだろ!? 累、まだ見つけていないよな?」

「えぇ、様々な商人とツテを持ちましたが、まだ見つかっていませんよ」

「……あれ、美世は今日の朝、ギルドにいなかった?」


 鳴海はクエストに来れないかと誘いがあったのを思い出した。ギルドで受けたいとも聞いていたので、間違いなくギルドにいたが……


「うん、私はイエローになっているけど自由に街を歩き回れるよ。多分、レッドになっても同じだと思う」

「どういうことですか? あのアイテムはイエローまでしか効果がない筈ですが……」

「アイテムって、私が使っているのはアルティスの仮面と言う装備で……」


 美世はアルティスの仮面、それから近況で起こったことを全て話すとーーーーーー





「「「…………」」」

「あれ?」


 何故か、皆が黙ってしまう。


「な、成る程……、それでか。納得いったな……」

「納得?」

「あぁ、ここへ来る前は会社で仕事をしていたんだが、たまたま運営に関わっている上司と話す機会があって……あ、ゲームを無料でくれた人でな。その人からーーー」


『頑張っているみたいだな。まさか、貴族をたらしこむとは思わなかったぞ』と言われていて、潤は訳がわからなかったのだ。詳しく聞こうと思ったが、忙しいようで、さっさと別の場所へ行ってしまっていた。


「そのことは、美世がやっていたことだったのな」

「僕はそれよりも、アイテムや装備のレア度がSSSまであることが衝撃だったですが」

「って! もう6人もやっていることに驚かないの!?」

「え、美世だからな……」

「えぇ、美世ですからね……」

「なんなの? その方向についての信頼!?」


 1人どころか、既に6人も殺っていたことに驚きを表す鳴海だが、男2人はそうでなかった。むしろ、やっぱりか……と言った感じだった。


「だってさ、美世がやると決めたら、1人で終わる訳ないだろ」

「そうですね。これからも続けるのですよね?」

「当たり前じゃない。というより、皆はまだ動かないの?」

「あのな……、まだ色々と準備が必要なんだよ」

「街を歩けなくなると行動が狭まるのが痛いわね。せめて、名前を誤魔化すアイテムを手に入れれば……」


 どうやら、美世以外はイエローになることにまだ準備が足りないようだ。でも、そろそろ悪役らしいことをしないと、運営から何か言われるのではないか?


「潤、悪役について上司からは何も言われてないのですか?」

「今のところはないな。まだ踏み込めないのは、向こうはわかっているだろう。だが…………、土曜日にあるイベントが終わっても何もしないのは、不味いだろうな」

「最悪、美世以外がアカウントの取り上げになる可能性がありますね」

「それじゃ!? 美世ちゃんだけが頑張ることになるじゃない!!」


 鳴海は美世だけに悪役を押し付けるのは嫌なのだ。この前、一緒に頑張ると約束したのだから。


「……明日から動く必要があるかしら」

「いや、急ぐことはない」

「でも!」

「累の言う通りよ。急いでヘマでもされたら、後れをとってしまうわよ?」

「…………」

「イベント、土曜日にやるわよね? その内容はまだ公開されてない?」

「まだだな。おそらく、明日か明後日あたりに告知がある筈だ」

「なら、それまで待って? そのイベントを掻き回してやらない? その方が面白くなりそうじゃない? ……うひっ」

「わぁっ、マジでか……運営の邪魔にならないといいが……」


 プレイヤー達に迷惑を掛けるならともかく、運営の方へも迷惑を掛けてしまうと、同じ会社で働いている潤が何か言われるか。最悪、クビになったりしてーーーーーー




「うひっ、そうなったら、私と一緒にニートね」

「うわぁぁぁぁぁっ、それだけは嫌だぁぁぁぁぁ!!」






 またもや、居酒屋で叫び声が響き渡るのだった。そのせいで、潤はその居酒屋に出禁になったとかーーー








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