第31話 ブレイブグリズリー
ウルフを片付けたヨミは、ブレイブグリズリーがいる場所へ着くまでにルファスのことを色々聞いていた。
「ルファスお兄ちゃんは、どうしてブレイブグリズリーを狩ろうと思ったの?」
「それは、代々からの習慣でな。一人前のアグネウス男爵として認められる為に、ブレイブグリズリーが持つ刃を手に入れ、ナイフか剣に加工する必要があるんだ」
「もしかして、その狩りは護衛だけを行かせるのは駄目なの?」
「駄目だな。護衛の2人とギルドで冒険者を1人は雇い、挑戦しなければならない決まりだ」
「全く知らない人を加えると、それだけでも連携が落ちるからハンデを持っても倒せるようにしないといけないからな~」
「ルファス男爵は幸い、魔術師で前衛の連携に混ざらないだけでも、マシな方だな」
歴代で前衛を受け持つアグネウス男爵もいたが、その時は護衛や冒険者との連携が上手く行かず、死にかけたことがあったとか。その点、ルファスは魔術師なので前に出ず、魔法で牽制するだけでも、戦ったことになるのだからマシだと言える。
「そうなんだ。それで、私はどう? 前衛で戦う?」
「むむっ……、先程の戦いでわかったことは、ヨミが高い威力を出せることだな。でも、すぐ終わってしまったから、動きの確認が出来なかったのが痛いな」
「動き? この装備だから、攻撃はほとんど回避をしているけど……」
「レベル13がレベル20オーバーのモンスター相手に挑む前提が間違っているけどな。……だったら、最初は俺達が前衛をやり、動きが見えるなら途中から前衛に加わって貰うのは?」
「おい、タマオ! それは厳しくないか?」
ルファスはやはり、ヨミを前衛に出すことに心苦しく思うようだ。
「大丈夫ですよ、まず俺達が戦ってから本人に判断して貰うから~。無理なら、ドルマだけを前衛に出して、ナイフを投げて貰うこともアリなので」
「むぅ……」
「まっ、俺にしたらヨミちゃんにも前衛に出て貰えば、早く倒せると思うので、そうして貰いたいですね」
タマオはヨミの攻撃力に期待しており、前衛に出て欲しい。これで賛成と反対の1人ずつだが、ギンシの方はーーーーーー
「……よし、前に出てくれ。あと、必ずあの仮面を着けることだ」
「仮面を? 確かに『認識障害』は凄かったが、ブレイブグリズリーの眼を逸らせる訳じゃないだろ?」
「……俺の勘だが、その仮面はそれだけじゃないだろ?」
ギンシは勘と言いつつも、アルティスの仮面は『認識障害』以外に他のスキルが付いていると判断していた。ルファスとタマオにはわかっていなかったが。
「あら、わかるの?」
「あぁ。おそらく、『視線誘導』、『無音』はあると思うが? ……そのスキル構成から、『隠蔽』もありそうだな」
「……本当に貴方はただの護衛?」
「その顔だと、当たりか」
「スゲー、よくわかりましたね!? って、スキルが4つも付いている時点で国宝級じゃないっすか!?」
国宝級と来たか。まぁ、レア度:SSSだから、そう呼ばれてもおかしくはないか。
「どうやって、手にいれたか気になるが……俺はただの護衛だからな?」
「…………はぁ、誰にも言わないでね。ルファスお兄ちゃん! このことは私達の秘密だからね♪ 誰かに言っちゃ、嫌よ……?」
驚きに包まれているルファスだったが、ヨミの言葉を聞き逃すことはなく、キリッとした顔で向き合っていた。
「っ! あ、ああ! アグネウス男爵の名を賭けて、誰にも言わないと約束をしよう!! 2人もいいな!?」
「はいよ」
「……まぁ、面倒事を呼び込まれるよりはいいでしょう」
アルティスの仮面のことを秘密にしてもらい、ブレイブグリズリー戦では前衛で戦うことになった。
「もうすぐでブレイブグリズリーが生息する場所に着くが、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「こっちも問題はない。ヨミも今から仮面を着けておけ」
「今から? 構わないけど……」
別に出会ってから着けても問題はないけど、高レベルの人が言うんだから、言う通りにしておくかぁ。
ーーー特殊クエストを開始します。『貴族のお使い』で協力してブレイブグリズリーを倒すこと。
やっぱり、特殊クエストだったかぁ。最初の街に普通のクエストで高レベルのモンスターと戦うなんて、ないだろうし。
「いたぞ。ちょうど後ろを向いているから、ヨミが先に攻撃を仕掛けていいぞ」
「ヨミちゃんに? そこは魔法が使えるルファス男爵にじゃなくて?」
「こいつの威力はウルフを一撃で倒すぐらいはある。なら、最初に大きなダメージを与えられるこいつがやった方がいい。それに、その仮面の効果が生きるのもあるがな」
「成る程ね。わかったわ」
「……攻撃したら、すぐ戻るんだぞ? 危ないと思ったら、こいつらを盾にしていいからな」
「おいっ……」
ルファスがギルドでやろうと考えていたのと反対の言葉だった。自分達の消耗を少しでも減らそうとしていたが、今はヨミのことを優先に考えていた。護衛を使い潰してでも、ヨミに傷を付けさせるつもりはなかった。タマオからツッコミが入ったが、ルファスには聞こえなかったようだ。
「うん! 行ってくるわね」
ファーストアタックはヨミが貰うことになり、無音で走り出していく。背中を向けているのだから『魚群アロー』を発動しておいた。勝手なことをしたことにギンシは驚きの眼で見ていたが、ヨミは無視して、続けてドルマの『スーパースラッシュ』をぶちこんだ。
「ッ、硬い……けど、思ったより減ったかしら!」
「グォォォォォ!?」
「下がれ!! あとで、釈明を聞かせてもらうからな!?」
「『風槍(ウィンドゥランス)』!!」
ヨミは下がりながら、魔法を初めて見たなと思うのだった。ルファスの『風槍』はブレイブグリズリーの頭に当たり、グラッと揺れた瞬間にタマオとギンシがブレイブグリズリーの脚を斬り付けた。2人とも高レベルであって、HPがグンと減っていく。
『魚群アロー』では、あまりダメージを与えられなかったかぁ。INTの強さでダメージが決まるのかな? 説明がもう少し欲しかったな……
「俺達が攻撃した時よりも、ヨミちゃんの方がダメージが多くない!?」
「確かに、ヨミの方がダメージが多いな」
「魔法があまり効いてないが……ギンシ、どうするのだ?」
ルファスは貴族だが、戦いに関しては素人に近いので指揮はギンシに任せている。それだけでも、ルファスは馬鹿な貴族とは違うのはわかりやすい例だった。
「ヨミ! 先程の小魚の効果はなんだ!? その小魚がダメージを増やす要因になり得るか?」
「いえ、そんな効果はないわ。『魚群アロー』は触れても痛みも感触を感じさせないまま、ダメージを負わせる。それだけよ」
「なんだそりゃ!? 暗殺し放題じゃねぇか!!」
「そんなことはどうでもいい! ならば、あのダメージは普段のステータスによる威力だな?」
ドルマのモンスタースキルを使ったのもあるが、ヨミのATKが高かった理由も含まれるので、頷くで答える。2人が前衛を受け持っている間はナイフを投げて、少しでもHPを減らそうとしていた。
「なら、隙を見て斬り付けてやれ!」
「わかったわ。隙が出来るまではーーーーーーこうしているわ!!」
ドルマを地面に突き立て、両手にナイフ一杯持ち、出来るだけ早く、沢山、アイテムボックスの中にあるナイフを全て使いきるまで、力強く投げていた。
「グルゥァ!?」
「すげぇ! 全部、当たっていやがる!?」
「一体、何者だ……?」
「(゜ロ゜)……………………はっ!? お、俺も手伝うぞ! 『鋭風付与』!!」
呆気に取られたルファスだったが、自分に出来ることがあると、魔法を唱えて、ヨミが投げているナイフの鋭さを上げる強化をしていた。ナイフの嵐と2人の足止めでなかなか前に進めないブレイブグリズリーだった。
「ヨミちゃんの弾が切れた後が本番だな!?」
「あぁ、そうなるだろう。それまでにどれだけ削れるか……」
「いえ、疲れるまでよ」
「は? ナイフは無限ではーーーあ、『回収』か!?」
「そうよ!!」
今は既にアイテムボックスにはナイフはもう入っていない。既に全てを投げきっていたのだ。
なのに、ヨミの手にはいくらでもナイフが現れる。なら、何処からナイフが現れるのかはーーーーーーーーー|投げた後のナイフ(・・・・・・・・)にある。
実は、ギルドへ向かう前にスキル屋へ寄って、新しいスキルを取得していた。取得したのは、タマオが言った通りに『回収』と言うスキルだ。そのスキルは、制限スキルと同様にスキルレベルがなく、その効果とはーーー
『回収』
自身の所持物を手元に寄せることが出来る。範囲は30メートル内まで。
ポイントは自身の所持物と書いてある所だろう。そのポイントがある為、使い道が少なくてあまり取得しようとするプレイヤーがいないのだ。例えば、ヨミのように投げナイフを武器にするプレイヤーなら、便利かもしれないが、相手の武器を落とした時に先に回収……とかが出来れば良かったが、そのポイントが邪魔をしてしまう。採集などで薬草集め……も無理だ。まだ所持物ではないからだ。そして、スキルレベルもないから、レベルを上げてスキルポイントをゲットすることも出来ない。
メリットよりもデメリットが多い『回収』だが、ヨミはナイフを集めるのが大変だからの理由だけで取った訳でもないーーー
「そろそろよ!」
「わかった! まだ半分ぐらい残っているが、これからは接近戦で削るぞ!」
「ルファス男爵は、『鋭風付与』だけを使っていて下さい!!」
「あぁ!!」
ルファスは安全第一なので、タゲを取らないように直接に攻撃を仕掛けない。
ヨミの腕に疲れが溜まり、完全に動かせなくなる前に、投げるの止める。それと同時に、タマオとギンシが飛び出した。
「うらぁ! 『ランベージバック』!」
「ふっ! 『フェアリブレイク』!」
タマオは両手剣で大きく斬り、モンスターをバックさせる効果を持つスキル、ギンシは付与された属性の効果を強めた斬撃を繰り出せるスキルを発動した。
「グルぉぉぉぉぉ!!」
「!?」
「こっちを無視するだと!?」
だが、それらの攻撃を無視して、ヨミの所へ突っ込んでいた。ヨミの方は…………
半分近くまで減らしたなら、そうするよね。タゲが溜まりにたまっているのでしょうね。
ヨミは読んでいた。というより、あれだけタゲを取ったのだから、こっちに来てもおかしくはないとわかっていた。
「ヨミーーー」
「問題はないわ」
「ーーー剣を投げた!?」
今度は剣ーーーもとい、ドルマをブレイブグリズリーへ投げて、右肩を貫いていた。
「ぎ、ギァゴォォォォォ!?」
「すぐ返して貰うわ」
『回収』で刺さったままのドルマを手元に戻し、また投げていた。今度は顔を狙って。
「グルゥ!!」
今のは不意を突かれただけで、真正面からまた投げてくるのがわかっていれば、叩き落とすのは無理じゃない! と言っているように聞こえた。左手で叩き落とそうとするブレイブグリズリーだったがーーーーーー
スカッ!
ブレイブグリズリーは空振りした。
「ッ!?」
突然にドルマが消えたことにより、振り落とされた左手はそのまま、地面へ当たり揺らすだけで終わった。そして、振り落とされた手の前には、ドルマを持ったヨミの姿があった。
タネは単純。ドルマを叩き落とされる前に、『回収』で手元に戻して、突撃しただけなのだ。
「『スーパースラッシュ』」
「グルゥゥゥゥゥ!」
隙だらけの喉元に『スーパースラッシュ』を喰らわすと、クリティカルが入って、グッと減った。
「ルファス男爵!」
「わかった! ヨミ、1分間でいい。時間を稼いでくれ!」
ルファスは呪文を唱え始めた。プレイヤーとNPCが使う魔法は少し違っており、プレイヤーの呪文はある程度、簡略されているが、NPCのは長いのが多い。だが、その分だけ強力な魔法が使える。
1分? 長いわね……アグネウス男爵だけに伝えられる奥義みたいなのかな?
とりあえず、ルファスが言う1分を稼ぐことに集中する。ヨミはブレイブグリズリーの動きにはなんとかついていけるが、基本的にレベルやステータスは向こうの方が上なので、油断は出来ない。
「『魚群アロー』」
魚群アローは顔へ向けて撃ったため、ブレイブグリズリーは本能で手で顔を守ろうとする。それに、魚群アローは当たると光の粒になるので、目隠しにもなる。その隙にーーー
「背中が隙だらけだぜ!」
「喋っていないで、少しでもダメージを与えるんだ!!」
2人が背中に斬りつけ、ヨミも正面からナイフ投げを再開させた。
「グォォォォォ!」
「あともう少し……来るぞ!!」
「え、刃が伸びた?」
ブレイブグリズリーの手の甲から3本の刃が伸びて、リーチが長くなっていた。おそらく、HPが残り5分の1になったことから、発動したのだろう。
「あの刃は他のより鋭いから、気を付けろ!」
「うおっ!? 鎧があっさりと斬れた!?」
タマオの鎧、肩当てに深い切り傷が出来たことから、鋭さが上がっていることが証明された。
「弾幕を張るわ!!」
近付くのは危険なので、弾幕を張って時間を稼ごうとしたが…………先程と違い、脚を止めることもなく、こちらへ走ってきていた。
「逃げろ!!」
「逃げる? もう遅いみたい! ならーーーー、正面から突破する!!」
こちらを逃がすつもりはなく、腕の刃がこちらへ向かってくる。それに対して、ヨミはドルマで受けることにーーーーーーせず、盾にしようと立てていたドルマがブレイブグリズリーの目線から消える。
「!?」
「ばーか、受ける訳ないでしょ!」
消えたドルマには当たらず、そのままヨミに向かうが、ヨミは軌道がわかれば、避けるのは難しくはない。横薙ぎされていた腕の下を転がるように通り抜け、消えた筈のドルマがヨミの手に収まっていた。
「確か、熊は懐への対応が鈍い筈だったわね」
「グルォ!?」
腹の正面へドルマに突き刺した。
「ヨミ、離れろ!! 『嵐斬陣(ストームエンページ)』!!」
ルファスの声が聞こえ、ドルマを手放して、すぐブレイブグリズリーから離れた。そして、『回収』でドルマを手元に戻すと、ブレイブグリズリーの周りに強い風が吹き荒れ始めた。
そして、ブレイブグリズリーを中心に竜巻が出来て、鋭い鎌鼬が対象を全方位から切り裂いていく。
それが数秒は続くと、既にブレイブグリズリーの姿はなくなっていたのだった…………
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