第30話 貴族とパーティを組む
ヨミはメルナを助けるために、代わりにクエストを受けることになった。今は貴族のルファスと護衛のタマオとギンシの2人とパーティを組んで、東のフィールドへ脚を運んでいた。
「お兄ちゃん、これから狩りに行くのはどんなモンスターなんですか?」
「名はブレイブグリズリー。全身に刃物を付けた熊……と言えばわかりやすいか?」
「うん! わかりやすいよ!!」
「おぅふ」
ルファスは隠しているつもりかもしれないが、にやけそうな表情になりかけていた。
「し、失礼ですが……ルファス男爵は貴族なので、今のような言い方はちょっと……」
「ねぇ……、駄目?」
「構わん!! この俺が許す!!」
「………………はぁっ」
あっ、この人は気苦労な性質だわ。それにしても、ルファスって人は……
鑑定はしていない。まだスキルレベルは低いし、相手のレベルが高いと名前ぐらいしかわからないのと、鑑定したのを悟られたら後が面倒だから。
だが、ルファス達は少なくともプレイヤーには劣らないレベルなのは想像できた。護衛の2人は足運びが上手く、音も余り出ていない。ルファスの方は腰に杖を差していることから、魔術師でそれなりには戦えると予測している。それに、話している間もちゃんと周りを警戒していた。
こりゃ、襲うのは諦めた方がいいかな? 1人ならともかく、3人になると敗けの覚悟をしなければならないわ。アルティスの仮面を失いたくないし……
場合によって、初のNPC殺人を目論んでいたが、無理だと判断してロリ技でルファスを骨抜きしようと切り替えていた。
「……ルファス男爵。本気でこの子を連れていくのですか? タマオが何を言ったかわからないが……」
「ギンシ、予定変更だ。君達2人の負担が増えるかもしれないが……」
「…………まさか、タマオが言ったことは」
「そりゃぁ、俺から言ったことだし、構わないぞ」
「…………はぁ~~~~」
先程より長い溜め息を吐くギンシ。ルファスが全てを説明せずとも、悟ってしまい、既に疲れたような顔を浮かべていた。
「そちらのおじさん達は大丈夫?」
「お、おじさん……俺はこれでもまだ30代なんですが……」
「うはははっ! 貴族の護衛をおじさん呼びか! 面白いお嬢ちゃんだな。俺のことはタマオおじさんで構わんぞ」
「おい! お前より歳上の俺もおじさんと呼ばれることになるじゃないか!?」
「いいじゃねぇか、大きな器を見せるつもりでいろよ」
「ふむ、タマオの言う通りだ。貴族の護衛として、大きな器を見せるのも1つだ。ヨミよ、呼び方は好きにするがいい」
「うん! ルファスお兄ちゃん、タマオおじさん、ギンシおじさん!」
にやけそうな表情を我慢する者、笑い続ける者、苦い表情を浮かべる者が生まれるのだった。
ふーん、ルファスは馬鹿貴族じゃないのね。ギルドで見せた顔は何かの理由があって……? まさか、ある歳より下の女性にしか興味がないから?
ルファスはどんな貴族なのか、少しわかり始めたが、まだまだわからないことがある。何故、メルナには見下すような眼で見ていたのか、このクエストを早めにクリアしたいのか、わざわざルファス本人が着いていくのか?
「そういえば、ヨミちゃんは戦えると言っていたけど、レベルはどれくらいなの?」
「私? さっき、レベル13になりましたよ!」
「レベル13!?」
聞いたタマオは感心するような眼で、ギンシは疑いの眼で、ルファスは驚きの眼だった。
「本当にか?」
「えぇ、モンスターが出てきたら、戦うから見てね! ……ルファスお兄ちゃん、戦う女性は嫌い?」
「……!? い、いや! 戦う女性、戦乙女となる英雄伝説も好きだから、嫌いじゃないぞ!!」
「良かった! ちゃんと見ててね!」
「…………俺は幸せの頂点にいるかもしれん」
ルファスの手を握りながら笑顔を向けてやると、にやけそうな表情から天に昇りそうな表情で幸せの感覚を味わっていた。おそらく、ヨミのような少女との出会い、付き合いがないからか。
ルファスの見た目は悪くないが、目付きが鋭いから怖がられているかもしれない。
ルファスを正気に戻すまで数分かかったので、その間にタマオから皆のレベルを聞いた。
「ルファスお兄ちゃんがレベル15、タマオおじさんがレベル26、ギンシおじさんが……レベル34!?」
「これでもただで歳を喰ってないからな」
「お前が言うな、まだ20代だろ?」
「まぁ、レベル13が本当ならブレイブグリズリー相手でもそう簡単にはやられないだろう。俺達も手伝うし」
「……嫌な予感がしてきたのですが、ブレイブグリズリーって、レベルはいくつぐらいなんですか?」
「ん? 大体20~25ぐらいだな」
無理だよ!? というか、なんでこんな高いレベルのクエストが最初の街で出るのよ!!
予想を越えてきた。最初の街だから、せいぜい高くてもレベル15だと考えていたが、それを裏切られた。
「……私でも役に立つのでしょうか?」
「大丈夫だ。ブレイブグリズリーは遠距離攻撃を持たないから、ヨミは俺と一緒に後方から攻撃をすればいい」
「俺達が前衛を受け持つから、任せとけよ!」
「はぁっ……」
予定変更と言っていたのは、このことだろう。だが、ヨミは困った。後衛を任せることから、魔術師類だと思われている可能性が高い。そう思われても仕方がないぐらいに、ヨミの装備は前衛向けではないからだ。
「そういえば、どんな魔法を使うんだ? 俺は風属性を得意にしていてな……」
「あ、あの。私は魔法を使えないのですが……。後衛より前に出て戦うタイプなんです」
「…………え?」
「その装備で!?」
「なんということだ……」
やはり、驚かれたようだ。だが、後衛としては無理だが戦うことに関しては大丈夫だとアピールもしておく。
「でも、遠距離攻撃はなくないですよ!」
「投げナイフか……多分、ダメージはあまり与えられないだろう。他には?」
「じ、じゃぁ、魔物使いでもあるので、ドルマを戦わせることも出来ますよ」
ドルマを召喚すると、先程よりマシな空気になってきた。
「魔物使いだったのか。それにしても、カナタムをテイムか」
「それがどうしたんすか?」
「いや、カナタムは1対1向けの魔物で、戦うことが多い冒険者がテイムすることはあまりないのだ」
タマオの疑問にギンシが答えていた。だが、今回に限っては問題はなかった。
「ブレイブグリズリーは群れることはないから、ある特性を持つカナタムにはちょうどいい相手だろう」
「そうなんだー。最悪、ヨミちゃん抜きで戦うことを覚悟していたわー」
「あぁ。ドルマと言ったな? ドルマを前衛、ヨミは後衛でナイフを投げていてくれ。何もしないよりはマシだろう」
ヨミが前衛で戦えることを信じられていないようだ。予定が違うが、ルファス達にもっと気に入られるようにしなければならないヨミは全てを出すことに決めた。幸い、NPCにはまだ広がっていないのだからーーー
「お、ヨミちゃん。モンスターが現れたぞ」
「無理はするなよ? 1人では厳しいと思ったら、遠慮なく俺に頼るんだぞ!」
俺達ではなく、俺と言っている辺りから、良いところを見せたいのがバレバレだ。でもそうなることはないだろう。
「大丈夫ですよ♪ ちゃんと、見てくださいね」
「あぁーーーーーー!?」
ヨミはアイテムボックスからアルティスの仮面を被ると、皆に驚かれた。自分より高レベルにも通じているとわかりやすいリアクションだった。
「そ、それは!? 『認識障害』……しかも、高レベルのッ!!」
「では、行きますね。ドルマ! 『武具化』!!」
現れたモンスターはこの間に戦ったことがあるウルフだった。1体だけなので、はぐれだろうと判断し、真正面から突撃した。
「グルッ!?」
「反応が遅いわ!」
『認識障害』で探知系のスキルを無効化されて、ヨミが近付いていることに気付くのが遅れ、ドルマの一閃で終わらせた。
「一撃!?」
「あー、俺達は低く評価し過ぎていたな……」
「あぁ、やはり冒険者と言うだけあるか。あの仮面には驚いたが……」
「どうだったかしら!?」
仮面を外し、普通に戻ってルファスの元に行くと、固まっていたルファスが言葉を取り戻す。
「あ、ああ……うん、凄かったぞ……」
「ありがとうね!」
「………………………………………………………………………まぁいいか」
色々聞きたいルファスだったが、笑顔を向けられると全てがどうでも良いような心情に陥るのだったーーーーーー
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