第29話 イベントお知らせ



「3本足りない……」

「諦めろよ、こんな森の中で全部見つけるなんて無理だ。ったく、重い雰囲気を出すから何があったかと思ったぞ」


 ため息を吐くテイトクだったが、ヨミにとってはたかが3本とは言いたくはない。


「割りと重要なことなんだよ!? 初期のナイフは最初の配布でしか供給されないから、第二のプレイヤーが来るまでは新しいナイフが手に入らないの!!」

「あー、はいはい」


 結構な頻度でナイフを投擲するヨミにとっては、破壊不可で耐久力がないナイフは魅力的な物なのだ。壊れないから、直すことも買うことも必要ないから、経済的にはお得なのだ。お得なのだッ!!

 大切なことなので、2回も言った。


「それよりも、ドロップ品はどうするんだ? 報酬はどうせ同じ物だし、気にしなくていいだろう」

「うーん、ドロップ品は全部いらないから、売って山分けにするのがいいかも」

「んー、そうするか」


 大量に入っているドロップ品は全て売ることにして、お金を山分けにすると決めた。そして、報酬のことだがーーーーーー



特殊クエストのクリア報酬


|SP(スキルポイント):5


10000ゼニ



 思ったより良い物が入っていた。スキルポイントは触れた瞬間にステータスへ加算された。これでようやく新しいスキルを買える…………と思っていた先に、久々にステータスを見ると驚いた。



ステータス

名称:ヨミ

レベル6→13

職業

メイン:魔物使い

サブ:剣士


HP:200/200→270/270

MP:350/350→560/560


ATK:45(+172)→70(268)

DEF:42(+38)→77(41)

INT:50(+100)→85(+100)

MDF:37→72

AGI:77→147(+5)

LUK:39→74


スキル(メイン)

『テイムLV5』(ドルマ)、『鑑定LV3』、『武具化LV3』、『防具化LV1』、『武技不可』、『魔法不可』、『魚群アローLV2』、『必中LV2』、『空白×2』


スキル(サブ)

『空白×10』


スキルポイント:10


称号

『泥臭い戦闘者』


武器

右手:初期の剣 ATK+10

左手:ドルマ ATK+158


装備

頭:スラウチ・ハット DEF+8

身体:フリル付きのワンピース(白)  DEF+20

右腕:充体のミサンガ

左腕:無し

脚:硬いブーツ(白) DEF+13 AGI+5

アクセ1:アルティスの仮面

アクセ2:無し



 結構上がっていた。ATKについては『武具化』でドルマを装備している状態だと300を超えている。何よりも、『テイム』のスキルレベルがもう5に上がっていたのが、一番驚いたのだ。


 これはドルマを召喚して、戦わせたから上がったのか?


 さっきの戦いでプレイヤーレベルが一気に3も上がったことにも一因があるが、ドルマを出しっぱなしにして、戦わせたり、武器にしたりしていれば、すぐ上がるものだ。スキルポイントについては、スキルレベルが5に達したら、5ポイントも貰えるようだ。


「……うん、ドルマもレベル5になっているね。嬉しい? うんうん、そうだね」

「ペットに話し掛けている風だが、剣にしか見えない相手にだと絵面がなぁ……」

「いいじゃない、誰も見ていないんだから」

「我もいるのだが…………はぁ、まあいい。盗賊討伐も別の形で終わることになったが、これからどうするんだ?」

「そういえば、今は夜中なのよね。テイトクは大丈夫なの? 学校か仕事とか「我は大丈夫だ。むしろ、そなたは大丈夫なのかと聞きたい」」

「大丈夫よ、仕事は辞めたし」

「……社会人だったのか」


 テイトクは皆ほどに驚いてはいなかった。理由を聞いたら、テイトクは大学生で同じような悩みを持つ同士だったので、驚きは小さかった訳だ。






「全く、我はもうお酒を飲んでも大丈夫な歳なのに、何十回も身分証明書を見せればいいのだッ!!」

「うんうん、わかるわよ。この見た目で何十人かのロリコンが寄ってきたか……」

「あぁ、身長もあと10センチぐらいはあれば……」

「私は20センチは欲しいよッ!!」


 と言うように、街へ戻る中で愚痴を言い合っていた。同じ悩みを持つ者に会えたことを喜んでいるようだ。まだまだ愚痴が続きそうだった所にーーーーーー




 ーーーアルベルト様が西の中ボス、サテガルドをソロ討伐に成功致しました!




 最後の中ボスが討伐されたとアナウンスが流れた。しかも、ヨミと同じようにソロで討伐したようだ。


「へぇ、アルベルト? ねぇ、アルベルトって…………知っているみたいね」


 何故、わかったのかはテイトクが、先程のヨミが苦虫を噛み潰したような表情と同じように浮かべていたからだ。


「あぁ、何せ1位の野郎だからな」

「へぇ、1位ね……。どんな人?」

「真っ直ぐな奴だ。勇者、英雄とか呼ばれていたっけな。…………いつも退屈そうな表情だったな」

「勇者、英雄……正道の道を行く者ね」


 ヨミとは丸っきり反対の人物のようだ。


「勇者(笑)とは何かがあったの?」

「ニュアンスが違ったような気がするんだが……まぁいいか。ランキングを決めるイベントで戦うことがあってな」


 β時代の頃、そろそろ正規版が始まる前に大きなイベントが開催されていた。武闘コースと生産コースの2種類があり、テイトクは武闘コースの方に参加していた。


「準決勝だったな。アルベルト野郎と戦ったのは」


 テイトクは稀なる才能とセンスで準決勝までは余裕で勝ち進んでいた。これなら、優勝も難しくはないーーーーーーと思っていた先だ。


「あいつに弾は当たらず、鋭い剣技で我のHPだけが減っていき、切り札をも切ったが…………防がれた」

「ほぅ……」


 最後に苦し紛れに1発の弾を放ったら、当たった。だが、テイトクには見えていた。アルベルトはこっちを失望、悪足掻きに哀れの眼で見ていたことに。




 つまり、最後の弾は|当ててあげた(・・・・・・)ということ。




 その後はわかっているように、テイトクは負けた。僅かしかなかったHPをたんたんと作業するようにと剣を振るうだけで消し飛ばされた。


「ッ、クソッが!! 今度は負けん!!」

「といっても、今は勝てるイメージはあるの?」

「……今はないが、わかっていることはある。β時代と同じスキル構成では勝てないことだ」

「ふーん、まっ、戦うことがあったら頑張ってね」

「ふ、ふん! そう言われずとも!!」


 森を抜け、街に着いた2人は会話を止め、向き合った。


「今回はサンキューな」

「こちらこそ」

「では、フレンドコードを教えろ。我が売りに行き、メールでお金を送ってやる」


 交換するのは当たり前だと言うように、フレンドコードを差し出していた。その態度に苦笑するヨミだった。テイトクがその性格なのはわかっているし、何よりも同じ悩みを持っている仲間なのだから。


「では、またな」

「そうね」


 テイトクはそれだけ言って、街中へ消えていった。残されたヨミはもう朝6時になったのを確認し、ご飯の材料を買いに行こうとログアウトのボタンを押そうとしたらーーー




「え、運営からメール? またあの女神からじゃないよね……?」




 ログアウトボタンから指を離し、メールの内容を確認したら、『中ボスが全て初回討伐されたので、4日後の土曜日にイベントを開催します』とお知らせがあった。


「おおっ、イベントね……内容は書かれてないかぁ」


 まだ4日後まで時間があるので、イベントのことは考えなくてもいいだろう。もし、戦闘関係なら参加、生産関係は生産をしないから見学だけと決めている。




 さて、ログアウトっと!


























 ログイン!! お腹はもう一杯になったし、どんどんと進んでいくぞっ!!


 買い物、朝ご飯、家事を終わらせ、今は9時。集まるまでまだまだ時間があるので、ギルドでクエストを頑張ろう!! と思った先にーーーーーーーーートラブルが起こっていた。


「何なのよ、貴方は!?」

「ふん、俺を知らないとは異世界の者であっても無知だとしか言えんな。このルファス・アグネウス男爵を知らないは……」

「……貴族」


 ギルドに入ったら、見知った人が冒険者だと思えないぐらいに上質な服を着た男に絡まれていた。後ろに護衛が2人立っていることから、貴族なのは嘘じゃないらしい。

 因みに絡まれているのは、槍を持った裁縫師のメルナだった。


「この俺のことをわかったな? なら、この依頼を受けろ」

「無理よ! そのモンスター、1人だけでは勝てないわ!」

「何を言う? 異世界者は武に優れていると聞く。その槍で戦えばいいじゃないか。どうせ、死んでも生き返るのだろう?」

「こ、このッ!」


 ヨミはアカンと思い、周りを見るが時間が悪いのかプレイヤーはメルナとヨミだけで、NPCは貴族が相手に立ち向かえないようで、見ず知らずの振りをしていて、助けようとする人はいなかった。仕方がないと思いつつーーーーーー






「お兄ちゃん♪」

「誰だ……お、おふっ……」

「ヨミ!?」


 ヨミはロリ技でルファスをお兄ちゃんと呼び、萌えさせた。これで掴みを感じ、この貴族は歳下が好みだと見破った。その調子でぶりっ子ながら畳み掛ける。


「急に話し掛けて、ごめんね」

「いや! 気にしていないぞ。ど、どうしたかな?」

「そのお姉さん、裁縫師だから戦うのは得意じゃないの。だから、代わりに私が行くけどどうかな?」

「え、君が……?」


 ルファスはヨミを見るが、戦えるようには見えないと思っていた。だが、ヨミはルファスの狙いはわかっていた。


「お兄ちゃんはプレイヤー……異世界者を探していたよね?」

「それは、そうだが……」


 それは当たっているが、ルファスは困っていた。確かにプレイヤーを探していた。何故なら、クエストを受けさせ、モンスターを消耗させる駒にしたいと考えていたからだ。そして、後から護衛の2人がトドメを刺せば、こちらの消耗は少なくなるのだから。何せ、異世界者は死んでも生き返るのだから、駒や肉壁にしても心は痛まないーーーーーー


「私はプレイヤーよ? それでも駄目?」

「う、うぅっ……」


 プレイヤーなら、死んでも問題はない。ないのだが…………運悪く、ヨミはルファスの好みにどストライクだった。こんな時ではなかったら、お茶にでも誘いたいぐらいだ。そんな子を捨て駒や肉壁にすることが出来る訳がない。


「ヨミーーー」

「大丈夫だからね、ここは私に任せて?」

「ッ!」


 念のために威圧を込めるように笑顔で言葉を遮ると黙ってくれた。


「駄目ですか……?」

「グハッ!!」


 トドメにうるうると涙目で迫ると、ルファスは血を吐いたような錯覚をさせていた。断りたいが、断れない。でも、このクエストは早めにやっておきたい。そんな苦悶を抱えて悩むと……後ろから護衛の人がひそひそと耳へ何かを言っていた。そして…………


「わ、わかった。君を雇おう!」

「わぁ、ありがとう!!」


 笑顔でお礼を言うと、ルファスは鼻を手で押さえていた。その間にーーー




『メルナ、今は空気に撤していなさい。ここは私がなんとかするから』

『……いいの?』

『そうね、私には悪いことでもないし。メリットがあるから助けてあげた訳だし』

『もぅ、また借りが出来たわね。終わったら、店に来て頂戴。あと、ありがとうね』


 フレンドリストに登録されていれば、相手が近い場所にいるなら今のように頭の中で秘密の話も出来るのだ。ただ、戦闘中は無理だが。


「今からすぐ行きますか?」

「そうだな、準備がいらないならすぐ行こう」

「うん! 一緒に頑張ろうね!!」

「任せとけ! 俺らがいれば、あのモンスターだって倒せるさ!! あはははっ!!」


 何故か、一緒に戦うことになっている件について。ルファスはそのことに気付いておらず、後ろに立っていた護衛はため息を吐いていた。




 そんなトラブルがあり、ルファス達と一緒にモンスターを討伐に行くことになったのだったーーーーーー








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