第28話 特殊クエスト 後半
《テイトク視点》
ヨミが街へ向かっている中、テイトクは乱戦の中にいた。
「散れ!」
「ごぎゃぶっ!?」
「ぐぁっ!?」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
テイトクが撃った弾は盗賊達の身体へ撃ち込まれ、レベルが低い盗賊は1,2発で倒れるが、すぐ次が出てくるので囲まれた状態のままだった。
ったく、雑魚とは言え、多いな……。
MPは無限ではないので、些細な回復力がある『MP自然回復』でMPの弾を節約しながら、長時間を覚悟して挑んでいた。MP回復薬はまだβ版から持ち込んだ分しかないので、最初のフィールドで使おうとは思っていなかった。
「数だけの木偶坊にやられる我ではない!! さっさと散れぇぇぇ!!」
『身軽』で周りの木を蹴りながら動き回り、弾を乱発していく。β時代での戦いよりはまだ劣るが、限られたスキルでこれだけ動ければ、またランキングに載るのは難しくはないだろう。個の戦いよりも乱戦が得意なテイトクは、このような戦いでは活躍するだろうがーーーーーー
チッ! MPの回復が追い付いてねぇ! 少しペースをダウンさせないとMP回復薬を使う羽目になりそうだ!
頭にヘッドショットを喰らい、倒れた盗賊で50人目になる。レベルが3~5と低いといえ、これだけの数に囲まれたら、常人には対応すら出来ないだろう。
はぁっ、30分で50人か。MPのこともあるから、全てを倒すには最低でも2時間だが…………
この時間はスタミナが無限だった場合のこと。残念ながら、このゲームにはスタミナもあり、今のテイトクのようにずっと動き回れば、2時間も持つ訳がない。
何処かで脚を止める場所があれば良いが…………無理があるか。
何処をみても盗賊、盗賊、盗賊と盗賊ばかりで休めそうな場所が見当たらない。クエストを諦めて、逃げようと思っても青い線という結界に阻まれてしまう。
クソッ、どちらが先に絶えるか、我慢比べじゃねぇか。せめて、1人……
もう1人いれば、前衛を頼んで脚を止めることが出来ただろう。そう思いながら戦い続け、HPが無傷でも、MPは4分の1に減った時だった。戦いが始まってから45分経ち、盗賊も80人を片付けた後にーーー
「くっ!?」
脚に限界が来て、縺(もつ)れてしまう。未だに囲まれた状態で膝を地に着けてしまうのは大きな隙になってしまう。その隙を見逃す盗賊ではなく、剣で斬り掛かってきた。
「そう簡単にはやらせるつもりはねぇぞぉぉぉぉぉ!!」
疲れで鈍くなった脚を無理矢理動かして、紙一重で剣を避けて零距離から弾丸をぶちこんだ。
なんとか避けられたが、2度は無理だ! MPを全てを使う覚悟で弾幕を張るか? 張った後に回復薬を飲めば…………いや、MPが戻っても動けないとーーー
剣を振ってきた盗賊は倒したが、すぐに次が来ており、考えた通りに弾幕を張ってもスタミナがないと動けない。せめて、3分の時間さえあれば、スタミナは完全に回復は出来ただろうが、そんな時間を相手は待ってくれない。打てる手がないと銃を降ろしてしまう。
「クソッ……」
攻撃が来ると覚悟していたがーーーーーーーーー何も痛みがないことに気付き、下げていた頭をあげると、近くまで来ていた盗賊がナイフだらけになって叫んでいた。
「もう諦めるのかしら?」
「……早いお着きだな」
「そりゃ、急いで戻ったからね」
あと15分は戻らないと思っていたヨミが両手にナイフを構えながら、テイトクの横に立っていたのだった。
流石にこの数は1人だけでは無理だったのね。でも、むしろ生き残っただけでも凄いことだよね。
「何分?」
「3だ」
「わかったわ。それぐらいなら、私とドルマで抑えてあげるわ」
ヨミも走って戻ってきたが、スタミナはテイトク程に消耗はしていないので、3分ぐらいなら全力で動いても大丈夫だ。全力で動いても、本気を出すつもりはないが。片手をナイフから剣に変えて、近くの盗賊へ向かう。
「初期の剣とナイフだと……?」
「この敵なら、これで充分だからね!」
そう言い、初期の剣を一閃するとHPがまだ満タンだった盗賊が一気に0になった。
「なっ!? レベルが2だったとはいえ、一撃だと!?」
「黙って休んでいなさいよっと! ドルマ!!」
ドルマを呼び寄せた……訳でもなく、敵を倒しまくれの命令だ。『武具化』をしなくても、盗賊程度の敵には充分だったので、このまま殲滅し始めた。
「うひひひっ、ようやく試せるわね!」
ナイフを投げた後、片手にはポインズナイフに変えており、既に毒薬を入れてある。毒薬を入れた時に、5回の数値が出たので、毒薬1個分で5回分の注入が出来るとわかったのだ。つまり、そのまま毒薬を使うよりも、ポインズナイフを介して使った方がお得である。
「よっ、効果はどうかしら?」
「ぐきぃ!?」
「あ、一発でマヒった?」
「ぎぃぃぃ!!」
「ふむ、1つの効果が出るのは変わらないのね。低確率だったけど、2回目はどうだろ?」
「ぎ、!?!!」
「あ、今度は沈黙。スキルを使えなくなる状態異常だったわね」
状態異常に掛かったのを確認した後、一撃で斬り捨てていく。次々と刺して試したが、残り3回は状態異常にはかからなかった。つまり、2/5回は状態異常になったことから、低確率より少し高めになっているかな? と感じた。
体内に注入しているから、効果が出やすくなった? うーん、あとでルイスと話してみるかぁ。
ヨミは一撃で終わるので、囲まれても怖くはなかった。むしろ、新しい武器を試すだけの余裕があった。
その姿を見たテイトクは驚愕していた。東の中ボスをソロで倒したのは知っているが、ドルマが頑張っただけでヨミ本人が其ほどに強いとは思っていなかったのだ。
「……強いな」
テイトクが休んでいる間、ヨミは3分でドルマが倒したのも合わせると30人は倒していた。
「ねぇ、そろそろ3分だけど、行ける?」
「我が手を出さなくても余裕じゃないか?」
「それはそうだけど、最後辺りに盗賊のボスが出そうだから、ペースを落としながら休みを取りたいよね」
「ふむ。確かにボスが出そうだな。といっても、中ボスよりは弱いだろう。β時代ではそうだったからな」
特殊クエストだが、中ボスとの強さと比べると特殊クエストの方が難易度は落ちる。これはβ時代での情報だから、半信半疑のヨミだったがーーーーーー
「…………確かに中ボスより弱いわね」
「てめぇら! 部下どもに何をしやがる!?」
盗賊(親分) レベル10
テイトクが復活し、協力して盗賊を減らして行ったが、200人目の盗賊が現れた時、他の盗賊とは違う威圧を放っていた。鑑定してみると、親分と出て中ボスより弱いレベル10。威圧感も中ボスのと比べると弱いと感じたので、テイトクが言ったことは本当のことで正規版になっても変わりはないとわかった。
「へぇ、喋れるんだ? 部下は叫ぶだけで言葉を発してなかったし」
「盗賊もモンスター扱いだからな。さて、雑魚を片付けてから、あの髭野郎を散らすぞ」
「モジャモジャで不潔ね。臭いが凄いことになっていそうだから、近付きたくないわね」
ひとまず、親分はドルマに足止めを頼み、残っている雑魚を片付け始める。
「よし、雑魚はいなくなったわ!」
「次は髭野郎を…………もう半分を切っているんだが……?」
「あ、本当だわ」
ドルマと戦っている親分だったが、既にHPは半分も減っていた。ドルマも1対1といえ、ボス相手には無傷でいられなかったようで、3分の1も削られていた。
毒で減った以外でこれだけ削られたのは初めてじゃない?
そのまま、ドルマだけに任せても勝てるかもしれないが、ボスはHPが少なくなると動きのパターンが変わるので、ヨミとテイトクも動く。
「お前が最後だ! さっさと散るがいい!!」
「何ぃ! よくも、部下を!!」
親分はたった今、1人になっていることに気付いたようで更に怒って戦意を高めていた。
「ほっ!」
「このアマ!?」
「ナイフ投げ、上手いな!? 1つも外していないんじゃねぇのか?」
今までナイフを投げているのを見たが、外した場面を見かけたことはない。まさか、上位スキルの『必中』を持っているとは思っておらず、『投擲』でリアルの高い技術があってのことだとテイトクは勘違いしていた。
「我も負けていられんな!! 『バースト』『バースト』『バースト』!!」
2発分の弾を消費し、当たると爆発する弾で親分の脚を砕いていく。
「ぐぁっ!? やりやがったな!?」
「もうHPがあと僅かだけど?」
半分減っている上に、ナイフと弾を受けていれば、HPもあと僅かになってしまうだろう。HPがあと僅かになったことで、ボス特有の何かが起きるかと思ったが、何も起こらない。
「ッ、待てーーー」
「待つ訳がないでしょ」
「こいつはボスと言う程ではないか? なら、何も起こらないのはわかるが……」
「もういいでしょ、モジャモジャを消すわよ」
親分は目の前の少女達に恐怖を浮かび、背中を見せてでも逃げようとしたが、ヨミは容赦をしない。背中へ剣を突き刺し、光の粒へ変えてやった。
と、親分を倒した後に気付いた。倒したのがボスではないならーーーーーー
ーーー特殊クエストをクリアしました。報酬はアイテムボックスに送られます。
「ふぅ、雑魚だったといえ、数だけは多かったな…………ヨミ? そんな顔をして、どうした?」
ヨミの表情に気付いたのテイトクが問い掛ける。クエストはクリアしたのに、ヨミは嬉しそうにせず、苦虫を噛み潰したような表情になっていたのだ。
「……テイトク」
「う、うむ?」
テイトクは重い雰囲気を出すヨミに唾を呑み込む。ヨミは周りを見回した後に…………
「ナイフを集めるの手伝ってくれない……?」
ずっコケるテイトク。周りには散らばったままのナイフの姿があったのだったーーーーーー
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