第26話 提督少女
起床!!
布団を投げ出し、下着の姿で起き上がるヨミ。この日はテンションがいつもより高かった。今の時間は午前3時…………え、早くねぇ?
「う~ん、いい朝。まだ真っ暗だけど!!」
何故、その時間に起きたというのかはーーー
確か、集まるのは夜19時。家を出るのは18時だから、ゲームは17時まで。
今日は夜に親友と集まる日。だから、ゲームを長くやる為に昨日は早めに21時に就寝して、この時間に起きた訳だ。テンションが高いのは、よく眠れたからだろう。背伸びしながらーーー
う~ん、今日は調子がいい。やっぱり、PKは健康にいいわね!!
そんなことがあってたまるか!! と言われそうなセリフだが、実際にヨミは会社でのストレスが少し解消されていたので、いつもより寝付きが良かったのは間違いない。
「ふふ~ん……あ、飲むヨーグルトしかない」
冷蔵庫の中を見たが、飲むヨーグルトしか食べられそうな物が無かったので、24時間やっている業務スーパーでも行こうと思ったが……
うー、パトロールしている警察に職務質問されたら、すぐ帰れそうはないよなぁ。仕方がない、日が出てから何か買いに行くか!
見た目は中学生にしか見えない容姿を理解しているので、迂闊なことはしないと決めている。飲むヨーグルトを胃に流し込み、ヘッドギアを頭に着ける。
ログイン!
「うぅむ、ギルドのクエストを受けるか……?」
PKもいいけど、1度は図書館の中に入りたいのでクエストを沢山して、紹介状を貰う必要がある。受付嬢のとこに行き、クエストを見せて貰った。今のレベルは10なので、相応レベルの仕事を紹介して貰うと、気になるクエストを見つけた。
「う~ん…………あ、盗賊退治? 『レッドキャップ』の盗賊を退治ね……あら、2人以上で受けられるのね」
受けてみたいが、今はヨミだけなのでフレンドリストを見て、誰かログインしていないか確認したらーーー
いるのはメリッサだけ…………鳴海!? なんで、この時間にログインしているのよ!?
お前が言うのかとツッコミが入りそうだが、今日は平日。ヨミは仕事を辞めているが、メリッサこと鳴海は違う。
気になったメリッサにボイスチャットを送ると…………
『……あら、まだ起きていたの?』
「それって、昨日からずっと起きてたわけ!?」
『そうだけど、美……ヨミは違うの?』
「私は9時に寝て、3時に起きてすぐログインしましたから」
『そうなのね。あぁ、アタシは今日、休みを取ったからまだやっているわよ。6時頃になれば、強制ログアウトの時間になっちゃうけどね』
「休みを取ったのね。なら、いいけど……あと、話が変わるけどいい?」
『夜のこと? 大丈夫よ、ちゃんと寝てから行くわよ』
「いえ、そうじゃなくて……」
さっきのクエストのことを話して、手伝って貰えないか聞いてみたが…………
『ごめんね。今は南のフィールドで奥の方にいるから、街に戻れるのは1時間ぐらい掛かるわ。他の人を誘った方がいいよ』
「そうなんだ。仕方がないね」
ヨミも1時間も待たされるのは勘弁なのだし、盗賊が現れるのは北のフィールドだから、メリッサを待っても強制ログアウトの時間が迫っているのもあり、一緒にやるのは難しい。
「では、また」
『えぇ、夜にね』
電話を切り、他のフレンドはログインしていないか確認したが、誰もいなかった。流石に朝3時まで起きている猛者の者はいなかったようだ。どうしようかと思ったらーーーーーー
「何!? ソロでは受けられないと言うのか!! ソロであっても盗賊ごときにやられる我ではない!!」
「申し訳ありません。ルールはルールなので」
「むぎぃぃぃ……」
何処からかキーキーとアニメ声が聞こえているかと思えば、軍服ーーー海軍の将が着るような服を着ている赤髪ツインテールの少女がいた。きつめの瞳をしているが、可愛らしい顔をしていて幼さを感じさせる。
身長はヨミよりほんの少しだけ高いが、間違っても大学生や社会人には見えない。なんとか、中学生までとは言わなくてもせいぜい高校生1年生ぐらいだろう。ソロでは受けられないの言葉でピンときた。おそらく、軍服の少女も盗賊のクエストを受けようとしていたのだろう。なので、ヨミは声を掛けてみることにした。
「あの?」
「む、誰だ……うお!? ど、何処かのお嬢様か?」
「あ、こんな格好をしているけど、貴女と同じプレイヤーですよ」
「む、名前が見えないからNPCのお嬢様だと思ったわ。それにしても…………似合っているのな」
ヨミは名前を出していないが、目の前にいる少女は堂々と名前を公開していた。
「ありがと。貴女はテイトクね……私はヨミよ。テイトクと言えば、海軍の?」
「うむ、この服もそうだ。友に無理矢……快く作って貰ってな」
「そこまで言って、言い直すのは無理があるかと」
ヨミは苦笑しつつ、テイトクが着ている軍服を見る。どこぞのヒーローと違って、本物のと見間違う程にクオリティが高かった。
「凄いですね。まだ4日目なのに」
「そうだろそうだろ。アイツはリアルでは装飾系の専門学校に通っているから、腕は確かだ」
「へぇ、その友達に作らせて……」
「そ、それはもう良いだろ。そなたもお嬢様にしか見えんぞ。それで、我に何か用があったのでは?」
「そうね、さっきの話が聞こえてね。私も盗賊討伐のクエストを受けたかったけど、フレンドはこの時間だからね……」
「む、戦えそうには見えんが……いや、こっちもフレンドはお休み中だから助かる。もしもの時は我が全てを討ち果たせばいいだけか」
「ふふッ、私でもやれるわよ?」
「ほぅ、その自信が虚仮脅しではないといいな?」
まだ少女にしか見えない二人が盗賊討伐に行こうとすることに周りが驚きに包まれる。片方は実際に少女かもしれないが、ヨミはもう成人しているので、少女ではない。
「宜しく頼む。もしもの時は後ろに下がっとればいい」
「そうね。もしもの時は頼りにしているわ」
テイトクは本気で言っている訳でもないが、何割かは見た目から戦闘職には見えないことに安否を気にしていた。確かに、ヨミの姿は戦闘の為に装備を揃えているようには見えない。
パーティを組み、北のフィールドに向かいながら職業、立ち位置の話し合いをしていた。
「メインが銃使い、サブは狙撃手ね……」
「今はまだ狙撃銃を持っていないから、中距離で戦っておる」
「私はメインが魔物使い、サブは剣士よ」
「ほぅ、後衛か。剣士はもしもの時に護身術でやれるように……ふむ、テイムしたモンスターを見せて貰っていいか?」
「ええ、構わないわ。ドルマ」
本来なら、仲間以外に見せるつもりはないが、テイトクは少し話しただけでどんな人物かわかってきた。テイトクは友に服を無理矢理に作らせる辺りから、我が儘な所もあるが、友や仲間を大切にする矜持を持っていると感じられた。だから、ドルマのことを教えても広めることはしないだろうと判断してのことだ。
「意外だな。獣系や妖精系が人気だから、そっちかと思っていたが、無機物系のカナタムだったか?」
「知っているのね?」
「うむ、βプレイヤーだからな。私のことを知らないということは、そなたは正規版からだな」
「そうだけど、有名だったの? もしかして、ランキングに?」
「そうだな……5位だった」
「5位!」
戦ったことがある7位の人より上だったことに驚くヨミだったが、テイトクは苦い表情を浮かべていた。
「1位以外は全て同じだ。5位では全ての上に立ったとは言えんからな」
「はぁ~、貪欲なんだね」
自慢もせず、驕ることもしない。ただ上を狙っているようで、眼にはギラギラと光らせているように感じられた。
「さてと、行くか。そな……ヨミと呼ぶとよいか?」
「構わないわ。私もテイトクと」
「ならいい。北のフィールドだが、入ったことは?」
「あるわ。ドルマも北のフィールドにある屋敷で会ったからね」
「それもそうか。……サビソドからカナタムに進化させたなら、戦闘経験は豊富なようだな」
テイトクも北のフィールドにいるモンスターは網羅しているし、ドルマが何処でテイムされたかはすぐ理解出来た。そこまで思考していた時に、ヨミと言う名に覚えがあった。
「……ヨミ? まさか! そなたが東の中ボスを倒したヨミか!?」
「あら? 今更、気付いたの?」
「普通はわかる筈がなかろう!? 見た目は普通のお嬢様にしか見えんし!」
「そう言われても仕方がないけど…………敵が来るわね」
「ああ、馬鹿デカイ足音は……ラダムか」
話している内に、ヨミ達はパーティを組んで最初の敵に出会った。てっきり、沢山いるイノムシが最初になると思っていた、ヨミはラダムと聞いてもなんだったかと思い出せなかった。
「ラダムって、何のモンスターだったっけ?」
「む、戦ったことはなかったか? あいつは牛のモンスターで4本の角が特徴だ……ほら、来たぞ」
テイトクに言われて、現れた敵を鑑定してみた。
ラダム レベル7
確かに4本の角がある。他に目が赤いだけで、それらがなかったら、ただの牛にしか見えないだろう。
「あら、ここはまだ浅い方よね?」
「そうだ。ここら辺では、こいつが一番レベルが高い……まぁ、ここは我に任せよ。我の戦いを見せてやる!!」
テイトクはヨミの返事を聞く前に飛び出して行った。両手には銃を持っており、ラダムの横へ回ろうと動いていた。
私もやってみたかったけど……いいか。5位の力、見せて貰いますよ。
今回はやらないが、いつかは戦うことになるかもしれない。もし、あの7位と比べて格段に強いなら、対策も必要になるかもしれないから。その為に、1つの挙動も見逃さないように見ていた。
「『充弾』、『二連弾』!」
両手の銃が光り、『充弾』でMPから弾を補充して、片方からは2発の弾が出るアーツにより、合計4発の弾が撃ち放たれた。
「ぶもぉぉぉ!!」
「おおっ、すぐクリティカルが出たわね」
「弱点を知っているからね! はっ!」
「ぶもぉぉぉっ!」
ラダムは弾を受けながらも、突進してくるが、ただの突進にテイトクが避けられない筈がない。その考えが当たったようで、テイトクはラダムを助走もなしに飛び越えたのだ。
「所詮は獣ね。背中が丸見えよ」
空中で『充弾』で弾を補充し、がら空きな背中へ6×2の合計12発を撃ち尽くしていた。流石に無装備の背中へ撃たれてしまえば、HPも耐えれる筈もなく0になって消えていった。
「他愛もないわね」
テイトクは余裕を残したまま、敵に無傷で勝ったのだった。
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