第23話 運営側回



 真っ暗な部屋、広さは20畳では足りないぐらいに広がっており、そこには1つの大きな丸机と幾つかの椅子がある。

 その机の上には、何故か動物のぬいぐるみ達が置いてあった。

 そのぬいぐるみから声が流れる。可愛らしいウサギのぬいぐるみから、渋いおじさんの声が流れるシュールな空間に誰も突っ込む者はいない。


『諸君、よく集まった』

『集まったというか、集めたのは所長じゃないですか』


 いや、突っ込む者はいた。その声は、ウサギの隣にあるキツネのぬいぐるみから。

 渋い声のおじさんは所長のようで、『イルミナ世界』の運営でトップに立つ位置にいる。会社のトップ、社長もいるが、運営に関しては所長が一番権限を持っていた。


『野暮なことを言うではないわ。ワトソンよ』

『なんで、ワトソンですか。僕の名前に一文字もかすってもいませんから』

『こういえば、ああいう……ワシはそんな子に育てた覚えはないぞッ!!』

『僕もありませんから!! というか、なんでぬいぐるみなんですか!?』

『おぉ……なんということだ……知らないことは罪ではないが、無知のままでいることは罪だ』

『あんたはそれを言いたいだけでしょ!? 皆も黙っていないで、何か言ってくださいよ!!』

『…………なぁ、そりゃ、意味不明なことばかり言う所長だが……あれでも一応はトップだからな? その相手に気安く言い合えるのは、孫のお前だからな?』


 ちなみに、キツネから流れる声の主は所長の孫であり、同じ会社に勤めている。


『はぁ、どうでもいいので、さっさと進めましょうよ。皆は忙しいのですから』

『何を言っている? その為に、準備させたこの会議だろ? これなら、現場からでも会議ができるから、来る必要もなかろう?』

『…………真面目に考えていたのですね』

『ふん、ワシだってふざけているばかりではないぞ』

『だったら、その辺りを改めてくださいよ。そしたら、素直に尊敬出来るのに……』

『ワシは尊敬されたくて、このゲームを作ったわけでもない。さて、始めようじゃないか』

『『『『『はい』』』』』


 今まで黙っていた運営の幹部達も話に入ってくる。


『まず、3日目になったが、進行状況はどうなっている?』

『えぇと、今のところ、第一ステージの中ボスを3体撃破。大ボスはまだ見つかってはいないようです』

『そりゃ、まだだろ。残っている4体目も倒さないと、現れないからな』

『では、あと何日で第二ステージへ進みそうですか?』

『……そうだな、このペースならあと3日ぐらいに大ボスが見つかると考えている』


 ゴリラのぬいぐるみは、ぬいぐるみに合ったゴツい声が流れており、3日ぐらいで進行が大幅に進むと予測している。


『いえ、もしかしたら今日、明日には大ボスが倒されていたりしているかもよ?』

『何ぃ? あの大ボスは柔な作りはしてないが?』

『確かに、β版のと比べてみれば、大幅に強化されている。でも、β版にはいなかった存在が頭角を現していることも……』

『正規版の奴らか? もしかして、有望な奴等が出た訳か? いや、まだ3日しか経ってねぇ……』

『いえ、いますよ』

『ほぅ……』

『ね? タヌキさん』


 プレイヤーの情報を管理しているのが、さっきまで話していたネズミのぬいぐるみ、タヌキのぬいぐるみの人だ。


『確かにいたが、それは後だ。後の話に関わるからな』

『それはそうですね。すいません、詳細は後ほどに』

『構わない。ワシもその情報に期待しているぞ。では、次は称号だ。取得された称号はいくつ出た?』

『そうね、30種類ぐらいよ。中で戦闘用なのはたった7種類よ。ほとんどはβ版で取得したことがあるものね』

『ほとんど……もしかして、正規版になってから初めて取得した称号が?』

『あるわ。1つだけね』

『それは喜ばしいことだ。人の数が増えれば、試してくる者も増えてくるだろう』

『ええ。新しい物が見つかることは苦労して作り出した私達が嬉しく思うわ』


 運営者にとっては、苦労して作り上げた物を見付け、使ってくれることに喜びがある。……まぁ、ひねくれているメンバーもいるが、それは特例だろう。


『次に、3日間で起こった問題点は?』

『β版との情報の食い違いによる抗議もありましたが、丁寧に対応させて頂きました』

『丁寧と聞くと、ぶるっとするが、気のせいだよな?』

『ええ♪ 気のせいですわ』


 羊の声に豚のぬいぐるみがぶるっと震わせるが、誰も触っておらず、勝手に動くことはないから気のせいだ。


『他には?』

『えぇと……、もう1つありましたが……』

『どうした? はっきりと応えよ』

『はい、最高機関で開発されたAI、通称名『イルミナ』が勝手にあるプレイヤーへメールを送り、スキルをプレゼントしたのです』

『ぶぅっ!?』

『はぁ!?』

『何故、そんなことに!?』


 様々なぬいぐるみから驚愕、困惑等の声が響き渡っていた。


『……それで、何のスキルを贈ってしまった? 場合によっては、そのプレイヤーに連絡して謝罪、回収をしなければならない』

『あ、はい。渡されたスキルは……』


 何のスキルを渡したのか。それが問題だったが……、その名を聞いて、ほとんどの人は安堵のため息を吐いていた。


『『必中』か。『投擲』の上位スキルだが、珍しくもないから問題はないな』

『良かったですよ……。もし、あのスキルらを渡されたら、最初の街では過剰の力になってしまうでしょう』

『最初の街では必ず出ないように調整されているが……イルミナ嬢から渡すことは考えてもなかったですね。どんな人が気に入られたのやら』

『その人については、これから話すことになりますので……』

『……まさか』

『さて、もうありませんね?』


 問題点がもうないのを確認した後、ようやく、あのことの話になる。


『ようやく、この話に入れるな』

『ここまで引っ張っていましたからね。……さてと、タヌキさん?』

『あぁ。悪役のプレイヤーをやってもらうことになった件だな。この会社に勤めているーーー高瀬潤(たかせじゅん)。その人に悪役プレイヤーになることを承諾してもらい、友達にも渡してプレイして貰っている』

『友達のプロフィールもあるわよね?』

『ああ、契約書にも個人情報のことも記載しておいた』


 美世達も飲み会の時に潤から契約書を書かせて貰っており、きちんと会社の金庫に仕舞われている。


『で、3日目だけど、その動きは?』

『どうやら、潤を含めた3人は慎重でまだ事を起こしておらず、普通に冒険者をしていた』

『駄目じゃん。普通にやっていてはね…………あら、もう1人は?』

『そっちは…………今回のことで騒がれている人物でもあり、既にイエローだ』

『わぁっ、とても好戦的な人だね! その人のプロフィールを送って!』

『そう言うと思って、既に送っておいた』

『ありがとうー!』


 プロフィールはその人物について、潤から聞いたことが書いてあり、顔写真があるだけだったのだがーーーーーー皆が黙ってしまう。


『おや、どうしました?』

『…………え、に、28歳!? この顔で!?』

『……なぁ、別人の中学生を間違えて、顔写真を貼ったんじゃないよな?』

『いえ、間違いなく本人ですよ。こちらが、ゲームでのキャラです』


 ホログラムでぬいぐるみ前に映し出されるヨミの姿。


『……確かに本人だな』

『マジで28歳なんだ……』

『え、このお嬢様が? めっちゃ可愛いんだけど!? 28歳でも着れるなんて、羨ましい!!』

『合法ロ……』

『そこの豚、これ以上は言っていけませんよ?』

『ぶひぃぃぃぃぃ!!』


 とりあえず、ヨミが28歳であることは信じたようだ。


『え、ちょっと待って。イエローになっている人がいると……』

『そのまさかですよ』

『ええぇっ!?』

『まるっきり、お嬢様であるこの子がPKだと聞かされても、ほとんどの人は信じないでしょう』

『あと、私がNPCの振りをして、ゲームに侵入していることは知っていますね?』

『そうだね。雑貨屋のおじさんをやっていたよね? 確か、悪役のプレイヤーだけに存在がわかるように設定されているのでしたね』


 ヨミが話していた雑貨屋のおじさんは、実は運営の人が入っており、たまに現れる貴重なNPC扱いとなっている。そして、そのNPCは悪役プレイヤーの4人しか存在を知り得ない存在であり、悪役に必需品や掘り出し物を売り出したりしている。最初の街では、まだ市販のと変わらない物しか売っていないがーーーーーー


『ええ。その時に、この子に会っています。試しにあの仮面を見せてみたのです』

『あの仮面…………ッ!? ま、まさか!!』


 わかったのは、アイテムや装備関連に関わってきたワニのぬいぐるみだけで、皆はハテナを浮かべていた。


『あの仮面って何よー?』

『名前だけは知っているでしょう? アルティスの仮面を……』

『はぁっ!? バカタヌキじゃない!?』

『バカとは言い過ぎでしょう。まぁ、タダで渡すつもりはなかったし、3日目に私は消えていました。まず、相手の所持金では買えない金額で売り出し、その後はアルティスの仮面を報酬にしてクエストをちらつかせます。そして、普通なら3日目まではクリア出来ないクエストを渡しました』

『なんのクエストを?』

『中ボスのドロップを2種類』

『あー、それは無理…………って、クリアされているじゃない!?』


 中ボスはこの時点で3体も倒されていて、その二種類のドロップを落とす中ボスが含まれていることに気付いた。


『えぇ、あの子が倒したのは何も関係はない中ボスでしたが、それをソロで討伐され、あと2種類のボスは他の人が討伐して、そのドロップを買い取ったようです』

『それは完全に貴方のミスじゃない』

『面目もない』


 もし、ドロップ品を持ってこいではなく、討伐せよだったら、無理だった可能性が高かった。というか、隠されていた3日目までという制限時間にも気付いてなかったのだから。


『それはどうするのだ? 回収するのか?』

『いえ、正規の方法で勝ち取ったのですから、回収せずにそのままにしようと思っています』

『それでは、他の人との差が大きくなるんじゃないの?』

『……あの子はあの仮面を見た目に惚れてしまい、それを返せと言うのは忍びない。もしかしたら、泣かれてしまうかも』

『お、おう……』


 見た目が見た目なので、泣かれてしまうのは心苦しい。


『ま、まぁ! あの子なら上手く使ってくれるでしょう!』

『どうしてわかるのよ?』

『では、この動画を見ていただけますか? あの子が初めてPKして、イエローになった戦いです』

『ほう……見せて貰おうじゃないか』


 所長も興味があるようで、ぬいぐるみの前にホログラムで動画を流されていく。前回イベントでランキング7位になったツツジとの戦いが映されていた。








『え? カナタムを『武具化』って……気付いたんだ』

『前回7位に勝つとか、強くないか? あのお嬢様は!! 職業の組み合わせは!?』

『ええと、魔物使いと剣士ですね。MPとAGIが上がりやすくなっていますが……』

『最後の、よく避けれたな。てっきり、やられたか!? と思ったぞ』

『最後のは、『泥臭い戦闘者』の補助があってのことですわね。特に体操選手だったとかは書いてありませんし』

『……いやいや、あのナイフ!!』

『どうしたの?』

『膝に刺さったナイフ! あれは初期のナイフじゃないですか!!』

『あら、本当だわ……あれ、2本?』

『魔物使いと剣士ではナイフは支給されていないから、誰かに貰ったか?』

『いえ、違います。NPCへ売ったのを、そのまま買い取ったらしいです。82本も……』

『いやいや、買いすぎじゃね? って、買えたのかよ』

『それに、イルミナ嬢に気に入られたのもその子ですよ』

『こいつかよ!? 色々起きすぎだろ!!』


 というように、動画を見た後にヨミがやったことに注目を集めていた。誰もやらなかったことを色々やっており、色々知っていたタヌキ以外の運営の人を驚かせた。


『……む、たった今、5人のパーティを襲ったようです』

『流石に無茶だろ……』

『では、その光景を映しましょうか?』

『頼む』


 次は今、起こっている戦いへ視線を移していた。そして、その戦いが終わった後は何人かが呆気に取られていたのだった…………












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