第18話 ヒーローとは合わない



 ヨミは急いで街へ戻っていた。その理由は、南の中ボスに勝って転移で戻った『赤青黄緑桃ヒーロー見参!!』に取引を持ち掛ける為にだ。


 何処にいる! 5つの色とヒーローのことから、5人パーティなのは間違いないはず! それらしい格好をしていれば、見つかるけど…………


 今日はまだ2日目だから、装備や服に拘るにはまだお金と時間が足りないから、周りと変わらない装備をしている可能性が高い。だから、見た目から見つけるの諦めて、転移で戻ったなら噴水前へ移っているから、まだその場にいるのを祈りながら走っていく。




「はぁはぁっ! そこの人!」


 ベンチに座っていた見知らずのプレイヤーに声を掛けた。


「は、はい!? 僕のことですか?」

「そうよ、中ボスを倒したパーティがいたよね? 見なかった?」

「いや、来たばかりだからわからない。僕よりも屋台を出している人に聞いた方がいいぞ」

「成る程。ありがとうね!」

「待っーーーくそ、行っちゃったかぁ。お茶に誘おうと思っていたのに……」


 お礼を言って、噴水前の近くに屋台を出している人を探してみるとーーーーーー




「……貴女、ここで商品を出していたのね」

「はぇ、あ! ヨミちゃん!?」


 見つけたのは、敷物の上でポツンと座っているマミだった。


「もしかして、商品を持ってきてくれましたか!?」

「あ、いえ、今回は別件よ…………何これ?」

「これですか? 裁縫で作ったクッションです! ふわふわに作ったので、気持ち良いですよ?」

「あぁ、聞きたいのはそういうことじゃなくて……日用品ではなく、冒険用のを作らないの?」


 商品はほとんどが日用品で木の置物までもある。実用的な商品は端にポーションが10本ぐらい置いてあるだけ。周りの屋台と比べれば、売れているようには見えない。


「『裁縫』や『木工』のレベル上げをしてたの?」

「あ、いえ。ただ作ってみたくて。現実では材料が掛かるので……」

「中学生のお小遣いじゃ、足りなそうよね。でも、売れないなら装備の杖や服でも作ったら?」

「うーん……そうします」

「日用品を売りたいなら、ギルドを作れるようになってからにしなさい」


 ギルドを作れば、ハウスを買えるようになり、日用品も必要になるのでギルドを作り上げた人がいたら、日用品を売り付ければいいとアドバイスを送ってあげた。


「成る程! 教えてくれてありがとうございます!!」

「構わないわよ…………あー!!」

「きゃふっ!?」


 大声を出して引っくり返るマミだが、ヨミには助ける余裕はなく、マミに詰め寄っていた。


「忘れていたわ! 南の中ボスを倒したアナウンスを聞いたわよね!?」

「は、はい。聞きました。あ、ヨミちゃんも東の中ボスを倒したとか……」

「それはいい! ここの広場で噴水前に転移してきたパーティはいた!?」

「ひゃい! いました~。ヒーローみたいなパーティですよね?」

「見たのね!? その見た目を…………え、ヒーローみたいな?」


 パーティ名にヒーローという名前が入っているが、マミは|ヒーローみたいな(・・・・・・・・)と、言っていた。つまり、そのパーティはヒーローみたいな姿をしているということ。


「見れば、すぐわかる姿よね? なら、何処へ向かったかわかる?」

「えっと、向こうの大通りへ向かったのを見ました」

「助かったわ!!」

「あ、ヨミちゃん!?」


 場所を聞いて、すぐ走り出した。露店が並んでいる大通りに着くと、人が集まっているとこを見掛けた。殆どが子供だったことに目に付いた理由だ…………そして、見つけた。




 成る程。ヒーローというより、ヒーローみたいな姿をしているわね。




 わかりやすい目印があり、全員が違う色を着た皮服とマスクを着ていたことから、あれが『赤青黄緑桃ヒーロー見参!!』パーティだろう。


 まだ2日目だから、クオリティが低いのは仕方がないけど、成りきろうと準備するなんて、凄い執念よね…………


 これからヒーローもどきに話しかけるのだが、子供が沢山いる場所へ行かなければならないことにため息を吐きたくなる。別に子供が嫌いという訳でもないが、沢山いると疲れるからだ。ここで立ち止まって時間を無駄にするのは嫌なので、すぐ向かうことにした。


「ごめん、通らせて?」

「見ない顔だなー?」「ヒーローを見に来た!?」「きゃははっ、面白いー!」「遊ぼー!」「誰ー?」


 声を掛けると、それぞれの子供が反応して言葉を投げ掛けられる。ヨミは聖徳太子ではないので、全ての声を聞き取ることは出来ない。

 聞き取れた最初の質問だけ答えた。


「私は、そこにいる人達と同じ冒険者よ。なんで、子供達が集まっているの?」

「遊んでくれるからー!! お姉さんも一緒に遊ぶ??」


 この場で小さな男の子が答えてくれた。可愛いとほっこりしたが、ヨミは遊びに来た訳じゃないので、違うよと答えた。


「私は同じ冒険者でね、そのことで話に来ただけなの。すぐ終わるから、通らせて貰っていいかな?」

「んー?」

「構わないぞ」

「あ、お兄ちゃん!」

「あら、その子のお兄ちゃん?」

「おうよ。俺が通してやるよ。おい!! 女の子が通りたいと言っているんだ!」


 どうやら、この子が子供達のボスらしく、あっさりと皆が言うことを聞いて、道を作ってくれた…………自分より小さな子供に女の子と言われたことに奇妙な感じがしたが、これでようやく話せるとお礼を言ってからヒーロー達の前に立った。




「おや、君は?」

「貴方がパーティのリーダーでしょうか?」

「もしかして、プレイヤー?」

「えっ! とても可愛いーー!!」


 リーダーだと思える赤の仮面を被った男性に話し掛けると、横から桃色の女性に抱きつかれた。


「ちょっ!?」

「可愛いー! どこでその服と帽子を手に入れたの!?」

「ちょ、待って、先に私の話を……」

「ピンク、少しは落ち着けよ」


 後ろから青がピンクを引き剥がして、自由になれた。


「あー! まだ聞きたいことがあるのにー!」

「馬鹿! あの子もプレイヤーだ。勝手に抱きついて、ハラスメントでGMに連絡されたらどうすんだよ!!」

「むむぅ~」

「それに、用があって話しかけたみたいだから、邪魔をするなよ。すまんな、こっちのピンクが馬鹿やって」


 青が謝ったので、気にしていないといいつつ、赤に向き合った。


「えっと、何か用が?」

「いきなりですいませんが、私はヨミと言います。貴女達は『赤青黄緑桃ヒーロー見参!!』で間違っていませんか?」

「ヨミ…………あ!? 東の中ボスをソロで倒した人!?」


 黄色はアナウンスをきちんと聞いていたようで、ヨミの名に覚えがあったようだ。


「えー、こんな可愛い子がぁ?」

「ピンク! すまんな、疑っていると訳じゃないがただ、ソロ討伐をしたのが中学生みたいな子で驚いただけで…………」

「はぁ、まあいいけど……」


 もういちいちと成人だと言うの面倒くさくなったので、流すことにした。




 …………この選択が後から功を奏すことになるのを知らずに。




「すまないな…………みんな!」

「「「「はい!」」」」

「え?」


 いきなり、赤が皆に声を掛けたかと思えば、それぞれがポーズを決めた。


「俺は『勇気』を司り、皆を率いるリーダーのレッド!!」

「我は『正義』を司り、正しさを証明するブルー!」

「『希望』を司り、皆に笑顔を与えるイエロー!」

「僕は『仲間』を司り、皆を守るグリーン!」

「私は『愛』を司り、皆に癒しを与えるピンク!」




「「「「「五人が集まって」」」」」




「「「「「悪を即断し」」」」」




「「「「「我らは冒険者だけで終わらず」」」」」




「「「「「ヒーローとして、平和を掴む」」」」」」




「「「「「『赤青黄緑桃ヒーロー見参!!』」」」」」





 完璧なポーズを構えた瞬間に子供が沸き立つ。呆気に取られていたヨミはその歓声に意識を取り戻した。どうやら、自己紹介をしただけのようで、レッドは満足した表情をしていた。仮面を被っていたのに、何故かわかった。


「そ、そうなんだ」


 表面は笑顔を固くしただけだが、内心では結構引いていた。何歳かわからないが、いい大人が全力でヒーローをロールプレイングしていたことに。




 なんか、私と合わなそう……。




 これから悪役をする予定のヨミとヒーローを目指しているレッド達では反発してしまうだろう。

 とりあえず、今は取引だけをして、さっさとこの場から去ろうと思う。


「あの、私は取引のために皆を探していたんです」

「取引?」

「はい、皆さんは南の中ボスを倒しましたよね。その際にドロップ品で大きな毒袋を拾ったかと思いますが……」

「あぁ、あったな」

「それを買わせて貰いたいのです。クエストの納品に出すので」


 大きな毒袋はおそらく、倒せば誰でも拾うドロップ品だと思うので、最低は5つはあるから1つぐらいは大丈夫だと思っていたがーーーーーー




「すまない、今は持ってないんだ」

「え? あ、もう売ってしまったとか?」


 そうなら、仕方がないと諦めていたら、レッドがとんでもないことをいい始めたのだ。


「いや、捨てた」

「はい!?」

「そうだろう? 毒袋なんて、正義であるヒーローが持ってはいけない物なんだ。基本的に悪だと思える物は絶対に持たない主義なんだ」

「そ、そう?」


 ヨミは間違いなく、この時は顔がひきつっていたはずだ。このパーティは馬鹿というか、キチガイレベルに正義に狂っていると理解したからだ。

 これ以上は関わってもいいことはないので、南の中ボスの居場所を聞かずにすぐ離れることにした。


「そうですか、では失礼しますね」

「助けになれず、すまないな」


 ヒーロー達と子供達にお礼を言ってから、早足でこの場から離れた。




 …………ふぅ、根源的に合わないわよ!? あの人達!!




 ヨミは間違いなく、いつか敵として立ち塞がると確信していた。出来れば、また会いたいとは思わないけど、会ってしまったらキルしてしまおう。この世界で遊びたいと思わせないぐらいに撃退してやろうと思うぐらいにーーーーーー




「ヨミちゃん!」

「ぶっ、イエローさん?」


 自分を追いかけてきた女性がいて、それが『希望』を司る(笑)のイエローだった。


「ごめんね、これを届けに来ただけだから」

「……え、大きな毒袋!? 持ってないって……」

「あー、確かにレッド達は捨てちゃったけど、私が後から拾ったの。あとで売ってお金にするために。私はパーティの財布を預かっているからね」

「…………普通だ」

「あははっ、レッド達は悪い人じゃないけど、ちょっと度が過ぎているだけなのよね……」


 それがちょっと度が過ぎているだけで言い切るイエローも少し変かもしれないが少なくとも、このパーティでは常識人かもしれない。


「ありがとうございます。いくらですか?」

「今回はレッドとピンクが迷惑を掛けちゃったし、無料でいいわよ」

「そういかないですよ。中ボスのドロップ品、2000~3000ゼニになると思いますよ」

「う~ん、じゃあこうしない?私とフレンドになってくれる?」


 フレンドかぁ、ヒーローとは肌が合わないけど、イエローならまだ常識人だから構わないかな……


「いいわよ」

「ありがとうね」

「こちらこそ」


 イエローとフレンドコードを交換して別れた。 これで、夜にタクヤ達から漆黒の嘴を買い取れば、納品物は集まったことになる。戦ってはいないから、受理されるかわからないが……


「まぁ、中ボスと戦う必要があるなら、討伐せよと表示するんだろうな」


 とりあえず、夜になるまで狩りをしようと西のフィールドに向かうのだったーーー






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