第15話 街に帰ったら






「忘れてたーーーーーー!!」






 ヨミは膝を折って、orzの形で地面に伏せていた。さっきまでドルマと一緒に東の中ボスを倒していたのだが、街へ転移を選択出来たので街へ戻ったのだが…………


 忘れてたぁぁぁぁぁ!! なんの為に、東の中ボスを探してたんだよーーー!? ーーーーーー毒薬を使うためだよ!!


 そう、ルイスから貰った毒薬を使うの忘れたのだ。

 内面で自分に突っ込むヨミ。周りから見られているが、ヨミはそんなどころではなかった。






 ………………はぁっ、過ぎたことはもう仕方がない。使う余裕もなかったし、初見で勝てただけでもラッキーだと思わないと。


 確かに、ヨミの言う通りにサテライトは強かった。それこそ、毒薬を試すことが頭から抜け落ちるぐらいに。


「もういいか……」

「誰かと思ったら、ヨミじゃねぇか。こんな所で何してんだ?」

「……ジュン?」


 まだ道に座り込んでいたヨミに声を掛けたのは、このゲームを貰ってきたジュンだった。最後に出会った時と服装が変わっていた。


「……やっぱり、神官服は似合わないわね」

「お前も、いつの間にお嬢様へジョブチェンジしたんだ? こんな所で座っていないで、さっさと立てよ。目立って仕方がないぜ」

「はぁっ」


 目立ちすぎたのか、周りにざわざわと人が集まっているのがわかった。


「……うひっ、ここで泣きながら騒げば、ジュンが、第一加害者だと疑われるわね」

「やめろよ!? 冗談にもならねぇからな!?」


 やや、八つ当たりをしてから、ジュンと例のカフェへ寄った。






「で、説明してもらいたいんだが?」

「さっき、脅したこと?」

「それも聞きたいような気がしないでもないが、他にもあるだろ?」

「?」


 ヨミは何が言いたいのかわからなくて、ハテナを浮かべていた。そのヨミにため息を吐きながら教えてくれる。


「アナウンスがあったぞ。東の中ボス、ソロで初回討伐したってな」

「えっ!? た、確か……そんなアナウンスを聞いたような気がするけど、他の場所にも伝わっていたの!?」

「知らなかったのか? ボス戦は初回討伐だけ、世界へ通達されんだよ。だいたいはこのアナウンスで有名になるプレイヤーが多い」

「そんな……それじゃ、私のことバレバレじゃない!?」


 これから悪役プレイをする弊害となってしまう可能性があるから嬉しいことではない。


「はぁっ、今はまだ犯罪行為をしていないから、名前は表示されていないが……PKでもしたら、表示を切れないから気を付けろ。PKは名前を隠すか、色を誤魔化す道具を見つけるまでは控えた方がいいかもしれないな」

「むむむ」


 名前は表示をオン/オフを切り替えることが出来るが、犯罪を起こしたら、それは出来なくなる。だから、皆に自分の名前を知られたり先に名前を表示されるのはまずい。

 とりあえず、しばらくは普通の冒険者ふりをした方がいいらしい。

 

「はぁ~」

「まさかなぁ、ヨミが先に中ボスを見つけて倒してしまうとはな」

「見つけたのはたまたまよ。というか、知らずに踏み込んでしまったが正しいかしら?」

「運が良かったんだな。よし、俺も中ボスを見つけ出して、初回討伐を狙ってみっか!」

「あら、レベルはいくつになったのよ?」

「む、レベル11だが?」

「もう11!? 私なんて、まだ6……あ、中ボスとの戦いで8になっているわ」

「マジか!? よくレベル6で挑もうと思ったな……」

「だから、たまたまと言っているでしょうが」


 そういえば、報酬をまだ確認していなかったわね。えっと…………



初回討伐報酬


水魚の御守り DEF+5 水魔法軽減10%



ソロ討伐報酬


スキルオーブ『魚群アロー』



魚群アロー

 前方に複数の小魚を射ち出す。スキルレベルがあがることで展開できる小魚が増えていき、新たな能力が生まれる。 MP20 クールタイム10秒間




「うーん……、アレと同じかな?」

「おい、どうした? ぶつぶつと話されてもわからねぇからよ」

「ごめんごめん。ソロ討伐報酬がこれなんだけど、ボスが瀕死の時に使った技に似ているよね」

「似ている? ボスの技そのものじゃないのか?」

「あははっ、ないない。あんな弾幕ゲー、ゲームを間違えているってば」

「お、おい? 目が死んでるぞ……って、弾幕ゲー?」


 意味がわからないジュンに戦ったサテライトのことを話した。もちろん、自分の戦い方はまだ隠してのことだが。







「…………よく勝てたな?」

「うん、そう思う。運が良かったわ」

「弾幕ゲーか、少なくとも全員がレベル10以上で6人パーティだったら、なんとかやれるかもな」

「弱点がバレてしまえば、脆いからね」

「弾幕ゲーも当たった時はHPの減りが少なかったよな? なら、盾持ちが無理矢理に突っ込んで、後ろから回復魔法を使えば、突破も出来るかも。まぁ、全方向に展開される前に動く必要があるがな」


 流石、ゲームの会社に勤めているだけあって、話を少し聞いただけで瞬時に攻略法を考え付いた。


「そうだ、この情報。掲示板に載せるのか?」

「私は掲示板へ書き込まないけど、ジュンが書きたいなら書いてもいいわよ…………あ、1日だけ待ってくれる?」

「いいが?」

「フレンドにボスの情報を渡せば、報酬をくれる人がいるの。『旅立つ青鳥』のパーティだけど、知っている?」

「む、知っているぞ。いつの間にフレンドになってたのか。確か、未到地のフィールドを渡り歩くパーティだと聞いたことがある」


 ジュンはβ版で有名になったプレイヤー、パーティを調べていたので、そこそこ有名だった『旅立つ青鳥』パーティのことを知っていた。


「わかった。掲示板に載せるのは、明日でいいよな?」

「ええ、私はもう行くわね」

「おう、次に会うのは明後日かな」

「飲み会のことね。そこで経過報告会をするから、楽しみにしているわ」

「ははっ、俺もお前が何かをやらかしていそうで、楽しみにしているぜ」

「ぷぅっ、今回のは、たまたまよ」


 2人はカフェに入って、10分しか入っていないが、飲み物一杯だけですぐ出ることになった。ジュンは野良パーティに入ってレベル上げ、ヨミはまた人と会う約束をしていたので、噴水前に向かっていた。そこにいたのはーーーーーー




「……こんにちは」

「ハーミンだけ?」

「そう。他はフィールドで頑張っているとこ」


 会う約束していたのは、『旅立つ青鳥』であり、ハーミン1人だけが噴水前に立っていた。ジュンとカフェへ向かっている間に『旅立つ青鳥』のリーダー、タクヤにメールを送っていた。だが、タクヤ本人は忙しくて来れないので、誰かを寄越すと言って、待ち合わせ場所と時間を決めていたのだ。

 という訳で、来たのはヨミと同じく小動物の雰囲気を持っていて、斥候をやっているハーミンがいる。


「……聞いたよ。中ボスを見つけて倒したと」

「えぇ、たまたまよ。その中ボスの情報なんだけど、いるところから聞くわよね?」

「うん、教えて。情報の価値によって報酬が変動するけど、私が判断してもいい?」

「構わないわ。『旅立つ青鳥』は有名だから、評判を落とすようなことはしないでしょう」

「うん、ちゃんと評価して判断する」


 ヨミはサテライトが出てくる場所、戦い方、弱点、ソロ討伐報酬以外の報酬等を教えた。『魚群アロー』は自分が使うことにしたから、秘密にさせてもらう。


「……あんなとこが中ボスの縄張りになっていたなんて」

「β版の時は何も起こらなかったの?」

「うん、ただの釣り場だった。……この情報を広めないと、非戦闘者が巻き込まれる可能性が高い」

「そうね。評価はどう?」

「全く情報がない中ボス、β版とは違うモンスターで弱点と戦い方がわかっただけでも結構、いい評価。更に釣り場が中ボスの縄張りになっていた情報は非戦闘者を無駄なペナルティを回避出来るのも良い。だから、報酬はこれぐらいで……」

「ぶっ!? じ、100000ゼニとMP回復薬を10本もいいの!? って、MP回復薬はまだ市場には出てないんじゃ?」

「……うん、第三の街へ行かないと手に入らないけど、これはβ時代で稼いだ物で正規版に変える際に引き継げた物だから。僅かだけど、市場にも売っているところもあるよ。……高いけど」


 太っ腹と言えるぐらいに満足できる報酬だったので、文句は一つもなかった。


「あ、流石に貰いすぎのような気がするから、これをあげるわ。私は使わないから」

「水魚の御守り? いいの?」

「ええ」

「ありがとう。パーティ内で使わせて貰う……」


 お互いにお礼を言って、バイバイした。








 あ、この報酬があれば仮面を買えたよね…………まぁいっか、既にクエストを受けちゃったし。









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