第11話 2日目



 ふわぁぁっ……、えぇと、9時かぁ。


 今日は日曜日なので、昼まで寝たい思いもあるが、ぐーたらとするよりもゲームを進めたいので、眼を擦りながら起き上がる。


「冷蔵庫は……何が入っていたっけ?」


 ゲームをする前に、まずは朝御飯とシャワーだ。最近、暑くなってきたので、汗に濡れたパジャマを脱ぎつつ、下着の姿になっていく。大人のイメージを見せるためにアダルトな黒い下着を着ているが、そもそも見せる相手がいないから、意味はないが。

 下着のまま、冷蔵庫を開けると卵、納豆、とろけるチーズ、だし汁を見つけた。


「む~、テレビでやってたっけ。納豆入りの卵焼きに、チーズを掛ける奴」


 冷蔵庫の確認をした美世は先にシャワーを浴び、朝御飯作りをする。





 納豆入りの卵焼きにとろけるチーズを掛けた感想としては…………







 納豆とチーズは別々にした方が美味しいと思う。どちらも卵には合うが、納豆とチーズは発酵した同士であって、ちょっと口に合わないような気がした。


「失敗したかも……」


 テンションが10程下がった美世だが、それだけでゲームをやらない選択はない。


「片付けはオッケー、火元と戸締まりはオッケー、空調も問題はなし……」


 VRゲームで遊ぶのはある意味、外へ出掛けるのと同じだと思っている。特に独り暮らしの場合は更なる注意が必要。


「うん、メールも来てな……あら?」


 スマホのメールは来てないか確認していた時に、スマホが鳴った。電話で相手は累。すぐ電話を繋げ……


『おはようございます。まだゲームにログインしていませんでしたね』

「これからログインしようと思っていたわよ」

『ちょうど良かったですね。ゲーム内で連絡をしても良かったですが、まだログインしていなかったら待つ必要が出たので』

「そう? それで、何か用が?」

『はい。ログインしたら、渡して置きたい物があるので、広場の噴水前で待ち合わせ出来ますか?』

「渡したい物? いいわよ、丁度近くでログアウトしていたし」

『そうでしたか。では、またゲーム内で』


 そう言って、電話が切れた。渡したい物が何なのかわからないが、とにかく会えばわかるだろうと、ヘッドギアを着けて、ログインする。









「ルイス、お待たせ」


 噴水前には、既にルイスがいた。ルイスの装備が初期のと変わっていて、白衣を着ていて、どこぞの研究者に見えた。相変わらず七三髪だが。


「いえ、いきなり呼び出してすいません。では、渡したい物ですが……これです」


 一本のビンを見せてきた。中身は青色で透き通ってキレイだった。


「ポーション? ……あ、違うわね」


 鑑定すると、ポーションではなく別物だとすぐわかった。


「はい。毒薬です」

「そうだったわね、ルイスは薬師でもあったね。……で、誰かに使えと?」


 2日目にして、殺人の依頼か!? と思ったヨミだったが、少し違うようだ。


「すぐにではなくても構いませんが、モンスター、プレイヤー、NPCに使って、モニターして貰いたいですね」


 殺人ではなく、実験だった。効果はわからないが、毒薬と出ている時点でモンスターだけではなく、プレイヤーやNPCにも使えと言う辺り、悪役プレイに染まってきたなと感心するヨミだった。


「ふーん? 鑑定しても効果まではわからないけど、どんな物?」

「これは低確率でランダムに状態異常を付加させる効果があります。なので、使ってみてどの状態異常が出るか調べて欲しいです」

「それは2人にも?」

「はい、2人にも渡す予定です」


 そう言って、毒薬×30も渡してきた。


「では、用事はこれだけなので」

「そうね。全部使ってみてから結果をメールすればいいかしら?」

「それでいいですよ。足りなかったら、メールして頂ければ準備しておきますよ」


 用事は終わり、雑談もせずにルイスは去っていった。近況のことを話さないのは、火曜日の夜に飲み会で話し合うことになっているからだ。


 貰ったのはいいけど、プレイヤーやNPCに使うのはまだ早いかなぁ。…………うひっ、いい実験台がいるじゃない!!


 モンスターにも使えと言っていたが、別にモブモンスターだけではない。そう、ヨミは中ボスに対して使ってみようと思うのだった。


「えっと、中ボスは推奨レベル10からだったっけ……」

「なぁ、いいかい?」


 声を掛けられ、顔を上げてみると4人の男女が前にいることに気付いた。考え事をしていたので、声を掛けられるまでは気付かなかった。


「貴方達は?」

「いきなり、すまんな。なんか、中ボスとか聞こえてな……。もしかして、すぐ挑むとかじゃないよな?」

「えー、まだ2日目なんだから、厳しいわよ? タクヤ、聞きたいのはそんなことじゃないでしょ?」


 このパーティのリーダーっぽい男性がそんなことを聞いてきたが、横から魔女の格好をした女性が話に入ってきた。そのリーダーっぽい男性は青髪にちょっとだけ大人びた少年って感じの子。


「それはそうだが、いきなりこんなことを聞いたら、警戒されるだろ? 俺達より若い子なんだから」


 見た目だけで判断するなら、高校生の集団って感じになるが……


「…………多分、見た目通りの歳じゃないと思う」

「え、マジで!? ハーミンの観察眼を信用してないとは言わないが……」


 太ももには二本のナイフを収めている、黒髪の女性の呟きに、大斧を背中に抱えていた筋肉質の男性が驚きをあらわにする。それに、ヨミも眼を大きく見開いていたのだった。


「わかるの!?」

「その反応、正しかったみたいね……? なんか、雰囲気が大人のと同じだったから」

「……………………ぐすっ」

「ここで泣く!? その容姿で泣かれると俺達が困るんだけど!?」


 すぐ大人だと見破ってくれたのは凄く久しぶりだったのでつい、涙腺が緩んでしまったヨミだった。慌てる4人の男女は周りの眼を気にして、宥めようとしていた。






「ごめんごめん、すぐ大人だとわかった人に会うのとても久しぶりだったから」

「そうなのか……なんか、こちらこそごめんな……?」


 涙を流したのは数十秒だけだったが、タクヤ達はヒヤッとするのだった。


「あ、話が逸れちゃったけど、私に何か用があったの?」

「あぁ、まずは自己紹介からでいいかな? 俺はこのパーティ、『旅立つ青鳥』のリーダーをやっているタクヤと言う者だ」

「私はローランよ。副リーダーみたいなことをやっているわね」

「……ハーミン。観察が得意」

「おうおう、ヤルドだ。俺達はβ版から固定パーティでな、まあまあ有名だと思うぞ。宜しくな!!」

「あ、ご丁寧で。私はヨミと申しますわ。貴方達はβプレイヤーでしたね」

「そう言う貴女は正規版から? なら、私達のことを知らなくても仕方がないね。で、タクヤ。何の用で呼び止めたの?」

「あぁ、中ボスのことだが、中ボスがいる場所。その詳細がわかれば教えて欲しいと思ってな。ちゃんとその情報に見合った報酬を出すから」

「……?」


 βプレイヤーなら、その情報ぐらいは知っているんじゃないのかと眉を潜めていたら、観察が得意なハーミンが教えてくれた。



「……初日の内に調べに行ったけど、場所が変わっていたみたいで現れなかったの」

「あぁ、死戻りを覚悟して進んだが、いないとは思わなかったな」

「そうよ、念の為に東西南北の全てへ行ってみたけど、どれも会うことはなかったの」

「だから、場所が変わったことで一から探すことから始めないと駄目になった訳だ」


 納得したヨミだが、ヨミも中ボスの居場所なんて知っている訳でもなく、首をふるふるするだけだった。


「知らないか……あ、いいよ。何かわかれば、ラッキー程度しか思ってなかったしな」

「何かわかれば……? なら、その中ボス、2体だけなら何なのかは大体は予測出来ると思いますよ」

「……気になる」

「居場所が変わっているなら、その中ボスも変わっている可能性もあるか……。なら、知らない情報だったら、報酬を払う。教えてくれないか? もちろん、その情報の証拠もあれば、ありがたいが……」

「なければ安くして、あったら高くすればどう? それなら、お互いには損はないし」

「賛成だな! 今のところは情報がないし、予測でも助かるモノだ」


 証拠ならあるし、別に早い者勝ちでもないので教えることにした。受けたクエスト、報酬だけを隠してから皆に見せてあげた。


「これは!!」

「NPCから受けたクエストだけど、クエストに書いてある通り、北と南の中ボスのドロップ品からどんなモンスターからか予測出来るよね?」


 嘴は鳥のモンスター、毒袋は毒を使うモンスターだけはわかれば、対策もしやすいし。


「確かに」

「待て、南は毒を使うだと? それに、嘴も……」

「あぁ、変わっているな。北はコブゴブリン、南は毒を使わないカエルのモンスターだった筈だ」

「……おそらく、強化されているかも」

「っかー、マジかよ。β版の時の情報は使わせませんーと言っているな!?」


 どうやら、β版とは違うモンスターが出てくるらしい。カエルの方は毒を持つようになっただけかもしれないが……


「ありがとう、思った以上の情報だった。ローラン、20000ゼニとポーションを5本、渡してやってくれ」

「そんなにいいの?」

「構わないわ。この情報なら、それぐらいの価値はあるわ」

「……昨日、フィールドを結構歩いたから、お金は充分あるから、遠慮はしないで」

「俺達は最前線とは違うが、皆があまり行かなそうな場所へ行って探検家みたいなことをしているから、お金と素材は結構溜まっている。だから、初耳の情報は俺達にとってはありがたいんだよ」


 『旅立つ青鳥』のパーティは様々な場所を冒険をして、そこで見つけたら情報を売るなどもしており、最前線の人達には結構頼りにされていて、そこそこは有名なパーティなのだ。


「あ、なんと呼べばいいか?」

「呼び方? 好きにしていいわよ?」

「……私達より、歳上だよね? もしかして、成人してる?」

「そこまでわかるんだ?」


 否定はしなかった。そしたら、また驚きを醸し出す空気に包まれる。当てたハーミンも僅かに驚いている様子が見られた。


「ただの勘……」

「え、見た目通りの歳じゃなくても、俺達と変わらない歳だと思ったんだが!?」

「もう成人はしているわよ? 雰囲気で読み取ってよね!」

「無茶振りだろ……」


 ヤルドがため息を吐きつつ、タクヤが真剣な表情で話しかけていた。


「あのすいませんが、ヨミさんとフレンドになりたいのですが、構いませんか?」

「別に構わないけど……さん付けにしたんだ? ここはゲームなんだし、礼儀に気を付けているなら、呼び捨てでもいいけど?」

「いえ、ヨミさんが歳上だからのもありますが、もしめずらしい情報を見つけたら取引をしたいという下心も含んで、さん付けと呼ばせて貰います」

「取引ね……ビジネスな関係でもあるからきちんとしたいってこと?」

「そうですね。こちらから依頼するような形式になるので……」

「理由はわかったから。さん付けはそのままでいいけど、敬語はやめてくれない? なんか、背中がむずむずする」


 私の方が歳上だから、敬語で話すのはいいけど、何故かタクヤの人柄に敬語が似合わないような気がするんだよね……


「俺には敬語が似合わないと……?」

「そりゃ、似合わないわよ。急に敬語で話さないでよ、私達まで驚くんだから」

「……(こくこく)」

「いつも通りでいーんだよ!」

「お前らまで言うのか……」


 凹むタクヤだったが、無事にフレンド交換を終わらせた。


「そうだ、これから東のフィールドに行くが、一緒にやるか?」

「いいわね、ヨミちゃんが良ければだけど。どう?」

「……ヨミ」

「まだ2日目だし、レベルの差はあまりないだろうし、連携は気にしなくていいぞ?」


 と、『旅立つ青鳥』から臨時パーティのお誘いがあったが、ヨミには用事があった。


「ごめんね。これから用事があるから、また今度でいい?」

「そうか、それは残念だな。また誘っていいか?」

「構わないわ。では、私は行くわね」

「またね」

「……(こくこく)」

「おう!」


 タクヤ達と別れ、約束していた場所へ向かうーーーーーー









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