第7話 手芸師




「ご、ごめんなさい」

「はぁっ、もういいから立ちなさい」


 話を聞かずに泣き続けていたことに失礼だと思ったのか、土の上で正座をして謝っていた。

 別に気にしていないヨミは呆れつつ、立つようにと指示を出していた。立ったのを確認してから、話し掛けた。


「私はヨミ。貴方はゲーム初心者?」

「あ、はい! お母さんに初めて買って貰ったゲームなのです! マミと言います。宜しくお願いします!」


 見たところ、最低でも15歳の中学生か高校生辺りだろう。このゲームは15歳からで、親の許可があれば、中学生でも15歳になっていれば、ゲームが出来る。PKが出来ない、されないの制限を受けるが。


「やっぱり、初めてだったのね。でも、さっきの動きは酷すぎない? 現実でも運動は出来ない方?」

「う~、そうなんです……。運動はダメダメなんです」

「一応、職業を聞かせて貰っていい?」

「私は物作りが好きなので、メインは手芸師でサブは作った物を売ってみたくて商人にしています!」

「手芸師って、広く浅い職業を選んだのね……」


 手芸師とは、様々な生産にボーナスが入る職業だが、1つの生産に特化している職業に劣る。鍛冶なら鍛冶師、裁縫なら裁縫師など。


「ここのモンスターは運動能力が壊滅でもアーツを使えば、あっさりと倒せそうなものだけど……」

「あ、あの……私は武器スキルを持っていません」

「えっ? 何のスキルを持っているか聞いていい?」

「はい、私のはーーー」


 マミのスキルは『鍛冶』、『製薬』、『木工』、『採集』、『交渉』、『鑑定』だった。






 武器スキルどころか、戦闘スキルさえもなかった。






「なんで!?」

「あうっ、戦闘が出来なくても生産者としてやっていけると思ったのですよ……」

「生産者でも採集でフィールドに出ることもあるんだから、武器スキル1つぐらいはあった方が良いよ……」


 ヨミも武器スキルを持たない1人だが、『武具化』のスキルにVRゲーム経験者であることから戦えているのだが、経験もなく初心者のマミにはこのスキル構成では、とても厳しいことになるだろう。


「パーティを組んで、戦いを任せて採集する方法もあるけど、手芸師ではね……」

「はい、最初はパーティ仲間を探そうとしたけど、中途半端な手芸師では使えない、戦闘スキル1つもないから足手纏いとかで断られたの……」


 生産者を育てるなら、特化した職業の方がいい物を早く作れるし、ボーナスが高い。その差で手芸師は不人気の職業として、並べられている。勿論、手芸師にも良いところはある。他の職業と比べるとボーナスは低いが、全ての生産スキルにボーナスが入り、1人だけで全てを賄える。質は落ちてしまうが、手芸師には『簡略化』と言うスキルを覚えることができ、早く作れるようになる。つまり、質が落ちてでも数だけは欲しい時は、手芸師こそが輝く時になるだろう。

 そういう時が来ればの話だが、β時代の時ではそのようなことは起こらなかったから、手芸師は不人気職業へ陥落してしまったのだ。


「そっか……」






 待って、手芸師ばかりに注目していたけど、サブは商人だったよね。手芸師はともかく、商人は使えないか? …………うひっ、駄目元で聞いてみようかな。


 内心でマミをこっち側へ引き込めないか悪い笑みを浮かべるヨミ。別にPKをさせようとは思っていない……というか、まだ15歳ならPKに関わらせることは出来ないのだから。ヨミは別のことをやらせようとしている。


「ねぇ、こっちのお願いを聞いてくれるなら、貴女の護衛をしてもいいけど?」「本当ですか!? 私が出来ることならなんでもします!」


 眼をキラキラさせて、ヨミの手を掴むマミ。詳しい話をした後、キラキラした眼がどう変わっていくか楽しみだった。もし、断られても「ふふっ、信じちゃった? 冗談よ」と笑い飛ばせば済むの話だ。


 マミに自分達のこと、悪役をやって欲しいと頼まれたこと、相手がNPCでもPKをすること、いつか、魔王らしく街を襲うなど……他の人が聞けば妄想染みていると笑われるか、やめろと止めるかのどちらかになると思っていたがーーーーーー





マミの眼はキラキラのままだった。




 あれ? 私は結構悪どいことを言っていたよね……?


 困惑していたヨミだったが、マミに両手を握られ、ビクッとしてしまう。


「わ、私も仲間に! ぜひ、やらせてください!!」

「え、ええと……、私の話はわかったよね……?」


 理解しているのか、確認のために復唱をお願いした。


「はい、ゲームを作った人から悪役を頼まれて、人を殺しまくる軍団をやるんですよね! 私は殺したプレイヤーから落としたアイテムを売っちゃう闇商人みたいなことをやればいいよね?」

「うん、わかっているみたいだけど……なんというか、忌避とか無いのかな?」

「えっ、これはゲームですよね?」


 ハテナを浮かべるマミだったが、ヨミはその言葉で理解した。




 ーーーそういえば、ゲームを初めて買って貰ったと言っていたわね。NPCをただのデータだと思っている可能性が高いなぁ……。


「……うん、最初はお試し闇商人でいいかな? 私達はまだ会ったばかりで信頼関係がないのはわかるね?」

「うん……」


 NPCが感情がある人と変わらず、一回死んだらプレイヤーみたいに生き返ることはない。それを知った後に心変わりして裏切られては堪らないので、お試し闇商人としてマミを見極めるつもりだ。

 まだ信頼関係がないと言われて少し落ち込むマミだったが、すぐ笑顔を浮かべる。


「私は頑張るから……! あ、あの……、ふ、フレンド、コードを!!」

「あぁ、いいわよ。連絡に必要だしね」

「うん! 連絡は大切よね!」


 パァッと先程よりも明るい笑顔になって、フレンドコードを交換して、お礼を言ってきた。


「ありがとう!」

「これぐらいでお礼なんて、いらないわよ。あ、聞くの忘れたけど、貴方は中学生?」


 ここまで話しておいて、未成年を凶悪な悪役(予定)へ引き込もうとしていることに気付き、とりあえず聞いておくヨミ。


「う、うん。PKは無理だけど……あれ、

よ、ヨミちゃんはPKが出来るの?」

「ヨミちゃんって……、やっぱり同じくらいの歳だと思われていたわね。私は成人しているわよ?」




「…………え?」




「せ・い・じ・ん・し・て・い・る・わ・よ」












「えええぇぇぇぇぇーーーーーー!?」






 森の中でマミの悲鳴染みた声が響き渡るのだったーーーーーー










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