第6話 クエスト



 ログアウトした美世は、スマホから一件のメールが来ていたことに気付いた。その内容は『3日後の夜、夜に飲み会をしましょ☆』と鳴海からの誘いだった。潤と累も呼ぶ予定らしい。

 3日後、火曜日は特に予定をいれておらず、ゲームをするだけだったのでその誘いを受けることにした。この間に飲み会をしたばかりなのに、どうしたんだろうと思いつつ、『OK』と返事した。そしたら、すぐ返事が来た。


 何々……可愛くない返事って、余計なお世話だいっ!


 すぐ返事しようとしたが、先に鳴海から続きが届いた。




『ねぇ、ゲームは楽しんでいる?』




 始まったばかりで、悪役プレイはまだ何もしていない状態だが、サビソドをテイムして予想以上の結果を手に入れたのもあり、楽しいと思えていた。なので……


『PKはまだだけど、冒険を楽しんでいるわ』


 それだけ返し、夜ご飯の前に風呂へ一直線に向かった。その間に、鳴海から返事が来ていた。『そう、楽しんでいるならいいわ。悪役でも楽しめれば、アタシから何も言うことはないわ』と、母親みたいにヨミを心配しているような雰囲気が感じ取れるのだった。










 さて、次は何をしようか。ギルドに行ってクエストを探す? レベル上げ? 図書館に入れるなら行ってみるのもいいかな?


 やりたいことが多くて、次に何をやろうかと迷うのだった。


「おや、お嬢ちゃん。何かお探しで?」


街中をウロウロしつつ、NPCの露店を覗いていたら、店員のおじさんに声を掛けられた。


「んー、冒険で便利な道具とかあればいいかな?」

「おやぁ、お嬢ちゃんは冒険者なのかい? まだ小さいが……」

「小さいとか言うなあ! こう見ても、私は成人しているのっ!!」

「マジか!? そう見えねえなぁ……いやいや、すまんすまん。怒らないでくれよ、お嬢ちゃん……いや、成人しているからお嬢ちゃんとは違うか?」

「あ、そこはお嬢ちゃんでいいわ」

「いいのかよ……」

「小さいとか言われるのは嫌だけど、私だって女の子なんだからお姫様やお嬢ちゃん扱いは嬉しいものよ」

「女心はわかんねぇな……いや、冒険で使える物が欲しいんだったな?」


 女心がわからないおじさんはさっさと話を変え、冒険で便利な物を吟味し始めた。


「煙玉と……アクセのアルティスの仮面がオススメだな」

「煙玉はわかるけど、アルティスの仮面?」

「この仮面には『認識障害』のスキルが付いていてな……」

「スキル付きの装備!? ーーあ、ミステリアスな仮面でカッコいい!!」


 スキル付きで驚いている時にその仮面を出されて、そのデザインに見惚れてしまう。これはスキルがなくても欲しい! と思うぐらいだった。そのアルティスの仮面は全体的に黒いが、白と銀のミステリアスな模様が描かれていて、とても綺麗な出来になっている。


「その仮面、いくら!?」

「気に入ったみたいだな。これは50000ゼニだ」


 金額を聞いて、ヨミはガクリと落ち込む。スキル付きで50000ゼニはとても安いと言っていいぐらいだが、今の手持ちは初期資金の10000ゼニ。つまり…………足りなくて買えないのだ。


「あ、先に素材を売りたいけど……」

「む、これは北の洋館の素材だな。沢山あるが、5000ゼニにも届いてないと思うぞ」

「そんな……」


 ここは最初の街。その周りにあるフィールドで手に入る素材がそんなに高い訳がない。それを知っているヨミであっても希望にすがるのだったが、現実は非情であった。


「そんなに気に入ったのか……?」

「はい……」

「…………そうだな、俺の頼みを聞いてくれるなら、その報酬にこれを渡してもいいぞ」

「やる!!」

「おぉう、話ぐらいは聞いておけよ」


 なんと、クエストをクリアすれば、無料でその仮面をくれると言っているのだ。内容を聞かなくても、仮面に惚れ込んだヨミは受けるに決まっている。


「手に入れて欲しい物は2つだ。北と南にいる中ボスが持つ素材を持ってきて欲しい」




ピコーン





 NPCのハサクからクエストが発生しました。北と南の中ボスから2つの素材を持ってくること。


北の中ボス→漆黒の嘴(くちばし)×1

南の中ボス→大きな毒袋×1


 クエストを受けますか?




 ヨミは悩むこともなく、受けるを選択した。


「ありがとうよ、中ボスは森の奥に行けばいい。あ、毒消しを買っておくか?」

「そうね。5個頂戴」


 素材の中に毒袋とあるぐらいだから、毒を使ってくるのはわかる。

 ちなみに、アルトの街は森に囲まれており、奥に進めばそれぞれが違うフィールドに出ることになる。洋館は街からそんなに離れておらず、森(浅)で中ボスは森(深)の場所で現れ、森を抜ければ、方角によって違うフィールドに出るという訳だ。(街→森(浅)→森(深)→別のフィールド)


「じゃ、私は早速行くわね!」

「おうよ、気長に待っているぞ~」


 特に期限を設けられていないので、まだレベルが低いヨミにとっては助かることだった。ドルマを武器にして、ATKが200ぐらいあっても、レベル5

で挑むのは自殺行為だ。


「さて、先にレベル上げね…………そういえば、さっきの人はNPCだったよね。プレイヤーっぽく、人間味があったわね」


 このゲームの完成度に舌を巻きつつ、あまり感情移入しないように気を付けないといけない。ヨミはいずれ、悪役としていずれ、街を襲うかもしれない。その時にさっきの人が死ぬかもしれないのだから。

 ここでNPCを殺すというのは、この世界で生きている人間を殺すのと変わらないが、ヨミは止まることはない。もう決めたことだから。











「…………む、よくピンチの人を見つけるなぁ。まだ初日だから、当然なのかもしれないけど」


 今回は南のフィールドへ向かい、森の中へ入ったのはいいが、しばらくすると悲鳴が聞こえて、そこへ眼を向けると自分と同じぐらいの身長でピンクの髪をした少女が蜂のモンスターに襲われているのが見えた。モンスターを鑑定してみたが……



レッドビー レベル2



 思ったより弱くて、その一体に苦戦している少女に驚いたぐらいだ。


 ゲームの初心者なのかな……?


 棍棒を振っているが、全く見当外れの所に空振りし、反撃を受けてダメージ

を受けていた。ポーションを使って回復しているが、すぐダメージを受けていたから、いつかポーションがなくなって倒れるだろう。


「見ていられないわね……仕方がない」


 今回も助けることにした。ゲームの初心者がこの程度のモンスターに苦戦するのは何処でも同じだが、今回の少女はそれ以上に動きが酷かった。哀れだと思い、助けてやろうと動いてしまう程だ。


「戦えないなら、下がりなさい!」

「あ、え、助けて……」

「そのつもりだから、後ろへ!」


  ピンク髪の少女と入れ換えるように前へ出て、尻の針を切り落とした。


『ギィッ!?』

「ふっ!」


 ただの突きを放つが、ATKが高いヨミはあっさりとレッドビーの身体を貫き、HPを0にした。


「終わったわよ…………ぐえっ!?」

「う、うわぁぁぁぁぁっ!! 怖かったよぉぉぉぉぉ~~~~!!」


 倒して、ピンク髪の少女がいる方へ振り向くとーーー腹へ衝撃を受けて倒れてしまう。


「ちょっ!」

「あ、ありがとうございます~~!!」


 ピンク髪の少女はヨミの話を聞いておらず、腹で泣き続けている。






 ーーーようやく泣き止んだのは5分経った後だった。







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