第2話 計画的に



 プレイヤーは自分達しかいないカフェへ着き、注文を終わらせると潤が切り出した。


「まず、自己紹介からな。俺はそのままジュンと呼んでくれ。メインは神官、サブは剣士だ」

「神官……? 似合わないわね!! あはははっ!!」

「おいっ!? 見た目で判断すんなよ! そしたら、美世が可哀想じゃないか!!」

「あっ、ごめんなさい……」

「ちょっ! 私を巻き込まないでよ!?」

「話が進みませんよ。僕はルイスにしました。メインは錬金術師、サブは薬師にしました」

「うわー、プレイスタイルが想像出来るわぁ。アタシはメリッサにしたわ。メインが魔術師、サブは料理人よぉ」

「本気か!?」


 突然ジュンが立ち上がり、椅子を倒していた。そのリアクションにメリッサの額に怒りマークが浮かんだが、笑顔のままで何も言うことはなかった。自分でもわかっていたことだからだ。

 メリッサこと、鳴海は料理が凄ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーく下手なのだ。卵焼きを作っただけなのに、ダークマターが生まれたり、ホットケーキを作ろうとすると、生地の時点でどんな化学反応を起こしたのか、ただの水になったり…………


「もう、いっそのことメインをルイスと同じ錬金術師にすれば良くね?」

「アタシの料理は錬金術レベル!?」

「そうとしか言えねぇだろ!? この前のおにぎり、食感がドロドロな代物になっていたのを忘れてねぇだろ! 間違いなく、手に掴んだ時は普通の感触だったのに、口に入れた先に溶けるとか意味わかんねぇよ!? あの時は身体に何も起こらなくて良く生きていたなと思ったわぃ!!」

「うわぁっ……あれ、おにぎりを食べたって、ジュンは手料理を作って貰ったの? え、もしかして2人は……」

「「ないない」」

「つまんないの」


 付き合っているの? と言う前に2人が同時に手を振っていた。表情から嘘ではないとわかったので、恋愛事はないと理解した。


「こいつが料理の腕をあげたいとかで味見役をやらされただけだ」

「やらされたとか、失礼ね。お礼にお酒を奢ってあげると言ったら乗った癖に」

「おにぎりを作ると聞いたから、それぐらいなら大丈夫だと思ったんだよ! まさか、握っただけでこんなに変化するとは、誰も思わねぇだろ!! 失敗すると言っても塩と砂糖を間違える程度だと思っていたら、ドロドロと溶けるとはな……」

「それでよく身体に異常が出なかったわね」

「そうだよ……奇跡的にな……」


 あの時を思い出しているのか、涙目になっているジュンだった。


「おい、また逸れているぞ」

「あ、ごめん。次は美世の番ね」

「私は美世の反対にして、ヨミにしたわ。メインは魔物使い、サブは剣士にしたわ」

「あら、魔物使いにしたの? なら、MPKを狙うのかしら?」

「それは、後のお楽しみよ。ねぇ、この後についての案があるんだけど、いいかな?」

「おう、言ってみな」


 ヨミはしばらく、ソロで行動して後から合流すると言う形にしたいと言った。仲間のモンスターにパーティ枠を使い、貰える経験値もヨミ側が増えてしまう魔物使いだからという理由もあるが、強くなって考えたプレイスタイルで驚かせたいからだ。


「それに、皆もやっておきたいことはあるよね? それぞれが強くなり、やりたいことを終わらせたら合流でいいんじゃない?」

「ふむ……、僕はまだ戦闘が出来ないので、誰かに手伝って貰いたいですね」

「だったら、俺と組めばいいさ。別に急いでやりたいことはないしな。今なら、まだPKをしてないから、他の奴らと組むのも楽しそうだ」

「アタシは魔法と料理の研究をしてみたいし、それをしている間に待たせるのも嫌だから、ヨミちゃんの案に乗るわ」


 ヨミの案に賛成され、最初はそれぞれがやりたいことをすることになった。


「そうだ、PKはどうするの?」

「どうするって、やるに決まっているじゃないか」

「あ、そういう意味じゃなくて、ソロの時でも仕掛けてもいいの? ってことよ」

「あぁ、そういうことか。って、ヨミはヤル気満々だな……。そうだな、しばらくはNPCを殺るのは止めとけ。盗賊や山賊ならPK扱いにならないが、騎士や民を狙うとその街と周辺の街で指名手配される形になっている」

「プレイヤーは?」

「それはやってもいいが、イエローになるとプレイヤーの店では買いにくくなるから気を付けな。名前の色を誤魔化す薬があると聞いたこともあるが、どうだろうな」


 ちなみに、NPCを殺すとレッドになり、指名手配をされるから頭の上にある名前が見えないNPCであっても、すぐバレてしまう。誤魔化す薬は名前の色を誤魔化すだけなので、顔写真がある指名手配からは逃れることは出来ない。


「ふーん、イエローでも街の中に入れるのね」

「そうだ。代わりにプレイヤーからの印象は良くないがな。誤魔化す薬を見つけてから、PKに挑むのが確実だと思うぞ」

「NPCからは名前が見えないから、イエローでも買い物が出来るのは助かるわね。街の中では攻撃されないんだったよね?」

「あぁ。だが、イエローにも運営から賞金が掛かるから、フィールドに出た後は気を付けろ。イエローやレッドで死ぬと重いデスペナがあるからな」

「確か……」




 イエローでやられたら、プレイヤーレベルとランダムで3つのスキルレベルが下がり、所持金の半分を落とす。イエローでもキツいのに、レッドだとプレイヤーレベルが大幅に下がり、全てのスキルレベルが下がり、所持金の全てを落とし現実の時間で三日間はステータスが半分まで下がる。


「……だったな」

「うわっ、レッドは厳しいわね。現実の時間で3日間だと、ゲームでは12日間になるわね」

「死ななければいいのよ」

「レッドにならなくても、イエローのままでも悪役として活躍は出来ると、僕はそう思いますが?」

「デスペナを恐れて、イエローのままとかダサくない? いつか、街をどん底に落とすようなことをやってみたいと思っていたけど……」

「ヨミちゃんは魔王になるつもり!? NPCはゲームと言っても、この世界で生きているから現実と同じ様に死んだら、そこで終わってしまうのよ」


 NPCはプレイヤーのように死んだら生き返ることは出来ない。現実の死と同じようなことなのだが、ヨミは困ったような表情を浮かべ……


「うーん、ごめん。それでもやってみたいの。街を落とす程の大きなことを」

「……はぁっ、もう何を言っても変わらないよね?」

「うん!」

「もう、わかったわよ。アタシも地獄まで付き合ってあげるわ」

「おいおい、2人だけにやらせるわけないだろ。悪役を頼んだ俺がやらないでどうすんだよって話になるわ」

「僕も付き合いますよ」


 酷いことを話しているのに、和気藹々な空気が流れていた。それほどに4人の絆は固く、通じ合っていた。

 それから、他の話をして、合流するまでにやっておくことを決めていった。


「ふぅ、これぐらいか」

「そうね。未だにフィールドに出ず、カフェで話し合っているプレイヤーはアタシ達だけじゃない?」

「多分、そうだと思います」

「最後に確認ねー。まず、まだNPCは殺さない。正当防衛の場合はしょうがないと」

「あとはレッドになっても取引が出来る商人を探す。場合によっては、脅しも仕方がない。出来れば、信頼出来る人がいればいいけど」

「脅しはGMに呼ばれない程度にしないと駄目ですよ」

「あとは、プレイヤーレベルを20まで上げる。スキルレベルも1つは5まであげておくこと」

「スキルレベルは10までですが、スキルは進化するので、進化させるまででもいいのでは? 沢山使うことでレベルはあげやすいそうですよ」

「レベル5まであげると、なかなか上がりにくくなるからレベル5を目的にするのがいいとアタシは思うよー」

「私はモンスターをテイムしたら、戦い続けないと厳しいかな」

「経験値が分配されるんだったな。1人分の経験値から分配は厳しいな」

「でしたら、ヨミは先立ってPKをしてはどうですか。プレイヤーはモンスターより経験値が多いので。アイテムやお金も結構落とすと聞いていますよ」

「そうね……」


 すぐプレイヤーを狙うかは、テイムを成功させてから決めることにした。


「とりあえず、今はこれぐらいかな。さて、始めるか」

「ようやくですね」

「よーし、頑張るぞ! 楽しむぞー!」

「ふひっ、やっちゃうぞっ!!」


 カフェから出て、皆はバラバラに目的へ向かって歩き出すのだった…………













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